第15話 秘密②(他者視点)
「失礼します……」
それでも、何とかステラフィアは執務室に入った。
父はと言えば、仕事が一段落したのか何やら本を読んでいるところだ。
彼のことだから、魔術の論文か、他国から取り寄せた稀覯本のどちらかだろう。
話しをするタイミングとしては、ちょうどよかったようだ。
「おお、ステラフィア。どうしたのだ?」
「申し訳ありませんお父様、少し、お話がございまして……」
「何、問題はない。今は手も空いている。何でも言ってみなさい」
相変わらず、父としてのフィオルディアは慈愛に満ちた人だ。
そんな父に、いまから厳格な王としての判断をさせなくてはならないかもしれないと思うと、ステラフィアの胃がキリキリと痛んでくる。
「その、私は今、フィーア・カラットとして学園に通っています」
「ふむ、そうだの。王女として、市井の人々に近い環境に身を置くのは正しいことだ。私もかつてはそうだった」
「それで、えっと……私には、ハイムく……ハイムという学友がいるのですが」
「ああ――知っている」
ハイムの名を出したときの父の反応は、少し予想外のものだった。
知っている……とは。
確かに特待生は珍しく、名を聞いていれば覚えていることもあるだろうが。
この反応は、間違いなく思い出したという感じではない。
――知っている。
思っても見ない返事だった。
「知っているとも、彼は学園始まって以来の麒麟児だからの。ステラフィアには話しておらなんだが……彼はあの学園で、二人しかいない入学試験を満点で突破した学生なのだ」
「えっ!? は、ハイムくん……彼は、そこまで優秀だったのですか?」
思わず、彼をくん付けで呼んでしまうほど、衝撃的な話だった。
慌てて訂正したが、流石にごまかせてはいないだろう。
少しだけ、恥ずかしくて顔が赤くなる。
だが、すぐに意識を彼の満点合格へ向ける。
魔導学園パレットの入学試験は非常に難しいことで有名だ。
ただ、その分そこまで試験の点数は合格に関係ない。
学費を支払うことができて、身元が確かなら基本的に学園は来るものを拒まないのだ。
そのうえで、その入学試験を満点で突破した人間は二人しかいない。
パレットには、数百年以上の歴史があるにもかかわらず、だ。
「その彼が、どうかしたかの?」
「あ、え、えっと、そうでした……」
現実に引き戻される。
ステラフィアは、そもそも大事な報告をしに気たのだ。
ハイムに関する新情報を知って、彼に対する尊敬を深めに来たわけではない。
「その……申し訳ありません、お父様」
「何だのう?」
「彼に、私の正体が露呈してしまいました」
意を決して、ステラフィアは口にした。
もうここまで来てしまった以上、止まるわけには行かないのだ。
とはいえ、
「おお、ようやっと正体を明かしたか、いや、思った以上に長かったの」
帰ってきた反応は、思ってもみないものだったが。
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