第14話 秘密①(他者視点)

 ハイムにはああいったものの、フィーアは流石にいざ話しをするとなると、緊張を隠せなくなっていた。

 王にして父であるフィオルディアが待っているであろう執務室の前で、何度か深呼吸をする。

 そりゃそうだ、確かに父は優しいが、それはあくまで父として。

 執政者としての厳格な父を、フィーア――ステラフィアはこれまで何度も見てきた。


 高鳴る心臓を、手で抑えるようにする。

 余計、ドキドキしているような気がした。


 視線を周囲に向けて、人がいないことを確認する。

 今すぐに、このまま中へ入っていくことはできそうになかった。

 故に、彼のことを思い出して何とか心を落ち着けようとする。


 ハイム。

 魔導学園パレットではかなり珍しい、名字を持たない学生。

 それは平民であると同時に、特待生であることの証だ。

 一応、平民に対しても門戸を開いている学園であるものの、やはり平民に学費を賄うことは難しい。

 これは単純に、学園を維持するためにはかなりの費用がかかるからだ。

 魔術を行使するための機材、魔術を教えるための最高峰の人材、他にも様々なものにたいしてお金がかかりすぎる。

 叶うことなら、誰にでも無償で学園の薫陶を授けたいとは、父フィオルディアの言葉だ。


 そんな学園に、特待生として入ってきた学生がいた。

 ステラフィアが初めてハイムの存在を知ったのは、そう父に教えられた時だった。

 特待生というのは、正直かなり珍しい存在だ。

 数年に一人入ってくればいい方。

 それが、ちょうど学園にフィーアとして通うことになったステラフィアの同級生になったとあれば、話しにでてくるのは当然だ。


 だから興味を持ったし、父に頼んで同じクラスにしてもらったりもした。

 コレくらいなら、王女のワガママとしては可愛いものだろう。

 まさか、隣の席になるとまでは、流石に思っても見なかったが。


 話しをしてみて感じた印象は、魔術の虫とでも言うべき、魔術に対する強い探究心だ。

 彼は平民であることから、周囲に対して浮いていた。

 ハイムを毛嫌いするグオリエ・バファルスキの影響もあるだろうが……

 彼は、そのことを気にする様子もなく、振る舞っている。

 流石に直接話しをしてみると、色々思うところはあるようだが、それを表に出すことはない。


 魔術の実力も確かで、知識量ではこの学園の生徒に適うものはいないのではないだろうかというほど。

 少なくとも、フィーアでは絶対に彼には勝てないと、そう思わされた。

 けれど、だからこそ良いこともあるのだ。


 フィーアが初めて、彼に対して好意を抱いたのは、彼に魔術に関するわからないことを聞いた時だったのだから。


 ――なんて。


「わ、私はなんてことを考えてるの……っ!」


 声にならない声で叫び、頭を抱えてうずくまる。

 これじゃあ全然心が落ち着かない、どころかむしろ余計に緊張してしまっている。

 というか、そのせいで気がついた。


 今、自分が緊張しているのは、父の厳格な姿をみるのが怖いのか、それともハイムのことを父に話すのが怖いのか。

 どちらか、自分にすら理解らなかったのだ。

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