第11話 バレた②

「えっとね……魔術ってずっと使い続けると疲れるから、休憩場所が欲しかったの」

「それで、この資料室を休憩場所にしていたら、俺が入ってきた……と」

「うん……どうして、鍵はかけてたのに」


 まぁ実際、鍵はかかっていた。

 そもそも資料室というだけあって、普段から鍵がかかっている場所だから、人が入ってこないのも当然だ。

 だってのに、俺は入ってきてしまった。

 ストラ教授から、鍵を受け取ってしまったばっかりに。

 フィーアの場合は……まぁ、マスターキーみたいなものがあるんだろう。

 この学園の実質的な持ち主みたいなものだから、持っていても不思議ではない。


「いやその……ストラ教授から鍵を受け取っててな。資料の整理を頼まれたもんだから」

「ゔっ。そ、そうなんだ。うー、おと……教授のバカーっ!」


 何やら、変な反応をするフィーアだが、つまるところ責任は俺ではなく教授にある……としたい。

 もはや何が何やらだが、さすがに知ってしまった王家のヒミツが多すぎる。

 すこしくらい、責任転嫁をしても許されるだろう。


「しかし、そうなるとこれからどうするんだ? 俺はフィーアの正体を知ってしまった。これはとんでもないことだろ」

「そう、なんだけど、そうなんだけど……うーん」


 フィーアは、何かを迷っているようだった。

 おそらく、方法はあるがその方法に躊躇いがあるんだろう。

 なんとなく、想像できなくはない。


「……私は、ハイムくんの記憶を消さないといけないかもしれない」


 記憶を消す。

 すなわち記憶処理の魔法。

 認識をごまかせる魔術があるなら、そういう魔術があってもおかしくはないとは、俺も思っていた。

 しかし、本当に存在するとは。

 おそらく、これも王家によって秘された魔術なんだろうな。


 ともあれ。


「なら、そうしてくれ」

「……えっ!?」

「どうした? 別におかしなことじゃないだろ」


 仰天した様子で、フィーアは俺を見る。


「で、でも! 記憶を消すって言ってもピンポイントで消したい記憶を消せるわけじゃない! 下手したら、日常の記憶だって消えちゃうかも!」

「そりゃそうだろ、もしピンポイントで記憶を消せたらさすがに万能過ぎる」

忘れちゃうかもしれないんだよ!」

だ」


 その言葉に、少しの不満を覚えたらしいフィーアが、鋭い視線をこちらに向ける。


「私はヤだよ!? ハイムくんに私を忘れてほしくない! これって、そんなに変なこと!?」

「だとしても、フィーアはステラフィア王女殿下なんだろう? だったら俺は、フィーアを困らせたくない」

「……っ! バカ!! ハイムくんのバカ!!!」


 フィーアが、俺に手をかざす。

 魔力のうねり、魔術を行使する前兆がフィーアから発せられる。

 間違いなく、記憶処理の魔術を使うんだろう。

 ああ、そうだ。

 それでいい。


 俺はフィーアに迷惑をかけるくらいなら――


「記憶よ! 記憶よ! 飛んでいけ!」


 ……いやちょっとまて、その詠唱おかしくないか!?

 絶対正規の詠唱じゃないだろ!

 思わず冷静になってしまった。

 せめて最後くらいは、いい感じに浸らせてくれ――――



「……あれ?」



 と、思ったまま。

 俺達は何の変化もなく、数秒間その状態で停止した。

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