第10話 バレた①

 沈黙する資料室。

 凍りついた俺とフィーア。

 フィーア? ステラフィア王女? フィーア?

 なんだ? 混乱してきたぞ。


 眼の前の女性は知っている。

 ステラフィア・マギパステル。

 この国の第三王女で、やたら美貌が有名な王女。

 うん、俺もマジックフォトで見たことがあるその人だ、間違いない。


 しかしよく見ると、その目元とか、口元とか。

 顔立ちはフィーアそっくりだ。

 どうして気付かなかったんだ? と思ってしまうくらいには。

 二人は、間違いなく同一人物である。


 と、俺は思ったのだが。


「どどどっどっどどっどどどど、どうしてハイムくんがここにいるのぉ!?」

「お、落ち着いてステラフィア王女」

「フィーアでいいよぉ! えとねえとね、違うの違うの聞いてほしいんだけど!」


 わたわたと慌てる中で、しれっとフィーアと呼んでいいと許可する王女殿下。

 自分の正体を自白してないか?


「わ、私達マギパステル王家には、代々他人の認識をごまかす魔術があるの、だからそれを使って市井に紛れて普通の人として暮らすことがあるんだ。もちろん、そんな魔術があるって世間にバレたら大変なことになるから、コレは王家のヒミツなんだけど、結構私以外にも身分を隠して市井で生活したことのある人はいるよ、お父様とかそうだし。あ、カラット家っていうのは私達王族が身分を隠すための隠れ蓑なのだから貴族としての地位も低いし功績も少ないんだそれでねえっとあの」

「お、落ち着いて、落ち着いてくれフィーア! 言っちゃダメなことしか喋ってない! 喋ってないから今!」

「え、あう、え?」


 一気にまくしたてられて、俺はとんでもないことを凄まじい勢いで知ってしまった。

 まず、フィーア・カラットというのはステラフィア・マギパステル王女が身分を隠して生活するための偽りの姿。

 魔術で認識をごまかしているから、こんなに似ていても周囲の人間は別人だと認識する。

 そして今、どういうわけか資料室で魔術を解いていたフィーアは、俺にその正体が知られてしまったわけだ。


「……あ、あの、ハイムくん。今私、何もかも自分から自白してた……?」

「……冷静じゃなかったからしょうがないよ」

「う、うあーーーーーんっ! 私のバカーーーーーーっ!」


 かくして、フィーアはその場に崩れ落ちてしまった。

 憐れフィーア、ただ正体を知られただけなら、誤魔化しようはいくらでも会っただろうに。

 俺が王女殿下をフィーアだと見抜いてしまったばかりに、盛大に自爆してしまうなんて。


 ……いや、少しおかしいぞ?

 そもそもどうして、認識をごまかしているはずのフィーアと、ステラフィア王女を同一人物だと俺は思えたんだ?

 疑問は他にもまだまだある。

 聞かなければならないことは多そうだ。

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