第8話 バレるまで⑦
「なんでそんなに、よそよそしいの? 一緒の席で食べようよ」
「いや、でもなぁ」
「食べるの食べるの! たーべーるーのー」
「わ、解ったって」
ぐいぐいと袖を引っ張られて、向かい合って座る。
そこは食堂、多くの学生が集まる場所だ。
普段、俺はここを利用しない。
クラスの連中を顔を合わせたくないからだ。
だが、今日はフィーアがここで食べたいと言い出したので、やってきた。
この、ちょっとワガママだけどそれが愛嬌になってしまう少女に、逆らえる日が来ることはあるのだろうか。
「どうしても食堂は苦手だな、周りの視線が気になるんだよ」
「えー? 全然周りの人は気にしてないよ、ハイムくんのこと」
「そうか……?」
「うん、何だったらクラスメイトだって、こっちのことは特に見てないもの」
ほら、と指差すフィーア。
見ればそこには、クラスメイト達が談笑している。
なんてことはない、普通の学生の姿だ。
こっちになんて、気付いてすらいない。
「あのクラスの中じゃなければ、ハイムくんを悪く言う人はいないもん」
「あいつらは、クラスの雰囲気に呑まれてるだけ、ってことか」
グオリエがすべての原因だということは、俺だって解っている。
あいつがクラスの雰囲気を支配しているから、周りの連中もそれに釣られているだけだ、と。
「来年になればクラスも変わるから、そうなればバファルスキくんは、ハイムくんとは別のクラスになる。そうすれば、クラスの人たちもハイムくんをバカにしなくなるよ」
「そんなもんかなぁ……イマイチ、俺は貴族っていうのを信用できないよ」
さすがに、アレだけこっちを下に見られるとな。
グオリエと俺が別のクラスになるっていうのは、さすがに当然だろう。
教師たちも、まさかここまでグオリエが俺を攻撃するとは思っていなかったそうだ。
「それ、私も信用してないってこと?」
「むしろフィーアは貴族とは思ってない、個人の友人として思ってるんだ。当然、信用してるよ」
「ほんと? やった」
というか、来年。
そうだ、来年だ。
すでに数ヶ月、俺はこの学園で学生生活を送っている。
グオリエと同じクラスでなければ、確かに生活は送りやすくなるだろう。
しかし同時にそれは、フィーアと同じクラスじゃなくなるということでもある。
学生の多い魔導学園で、そうそう特定の誰かと同じクラスになることはないのだ。
グオリエがいてもフィーアのいるクラスと、どちらもいないクラス。
俺は、果たしてどちらを選ぶんだ?
「……何考え事してるの? はやく食べようよ、せっかく美味しいのに冷めちゃうよ?」
「ん、悪い。あと俺は猫舌だから、もう少し冷めた方が美味しく感じるんだ」
「なにそれー、ふふ」
少なくとも、今は答えを選べそうにはなかった。
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