第6話 バレるまで⑤

 面倒しかない必修の実技と比べて、選択講義の座学は楽なものだ。

 魔導学園はとにかく生徒が多いもんだから、その中に埋もれてしまえば俺を蔑むやつはそんなにいない。

 中には偶然グオリエとその取り巻きと講義が被ってしまい、泣く泣く今年の単位を諦めた講義もあるのだが。


 まぁ、それは来年取り直せばいいだけの話だ。

 今は今日の選択講義、考古魔導学に集中しよう。


 生徒は俺とフィーアの二人だけ。

 フィーアはこの講義に関しては、毎回いつスタンバってるんだってくらい来るのが早いから、自然と後からやってきた俺にフィーアの視線が向けられることになる。

 今日は、とてもむすっとした視線を向けられた。


「ハイムくん、私は怒っています」

「急にどうした……」


 クラスの連中が向けるそれとは、幾分違う視線だが、それにしたって剣呑なことには変わりない。


「君、実技だといつもよね」

「まぁ……そりゃそうだろ」


 実を言えば、俺の実技の成績は普通にやれば文句なしの満点を取れる程度に良い。

 そもそも特待生として学園に来てるんだから当然で、フィーアはそれを解っているのだ。

 グオリエと違って。


「グオリエの前で、あいつのプライドを折る必要もないだろ。面倒になるだけじゃないか」

「でも、特待生で才能のあるハイムくんが、評価されないのは納得行かない!」

「教官だって、事情は解ってるから大丈夫だよ、試験は個別で受けれるから、そこで本来の実力は発揮してる」


 この学園の教師は、建前上あらゆる生徒に平等だ。

 だから上級貴族のグオリエにも上から物を言えるし、グオリエもそのことを抗議しない。

 だが、生徒間の複雑な感情にはあまり干渉しないきらいがある。

 建前は生徒を守るものであると同時に、教師を守るものであるから。

 貴族社会とは厄介なものだ。

 ともあれ、そういうわけだから教官も俺の事情は察してくれる。

 実技の場で全力を出す必要はないのだ。


「なにより、手を抜いてるのは実技だけだ。座学は試験の点数が公開されないし、手を抜いてないよ」

「んんー、でもでも!」


 と、説明してもフィーアは不満そうだ。


「ハイムくんは凄いんだよ! 特待生なんだから、特待生として評価され振る舞うべきなんだもん!」

「そうはいっても、俺は特待生である前に平民だ。なら、平民は平民らしく振る舞わないと」

「うーうー!」


 しきりにわがまま放題なフィーア。

 もちろん、俺を気遣ってくれているのは解るんだが、それはそれとして。

 普段はこういう貴族らしいワガママを見せないフィーアに、むしろギャップを感じてしまうのは俺だけだろうか。


 ……結局、今日の昼食を一緒に食べることで手打ちとなった。


 

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