第3話 バレるまで②

 フィーア・カラット。

 俺の隣の席に座る可愛らしい少女は、このクラスの人気者である。

 肩より少ししたまで伸びる茶髪のセミロング、愛らしい花の髪留めがワンポイント。

 小柄で、美人というよりは小動物のような愛らしさが特徴的な少女だ。


 成績優秀、文武両道。

 絵に書いた優等生のような彼女は、クラスの誰にでも優しい純朴な性格をしている。

 誰を相手にしても仲良くなれる愛想の良さと、人懐っこさは多くの人間を魅了して止まない。

 そしてその優しさは――


「おはよっ、ハイムくん」


 俺に対しても、どういうわけか平等に向けられていた。


「おはよう、フィーア」

「んー、よろしいっ! フィーアさんじゃ堅苦しいもんね、やっと馴染んできた?」

「お陰様でな」


 うんうんと笑顔でうなずきながら、自然な動作で席につくフィーア。

 周囲の視線なんて気にすることもない。

 むしろ、彼女がいるのに俺に対して侮蔑の視線を向けることは恥ずべきことであると感じてしまうような、太陽のような笑み。

 それを前にしてか、俺に対する厳しい視線も和らいだ。


 まぁ、一部の連中はむしろ更に視線を鋭くするのだが。


「そうだ! 今日はハイムくん、考古魔導学の講義だったよね」

「ああ、月に一回しかやってない授業だから、休まないようにしないと」

「えへへ、やった」


 何やら嬉しそうに、にししと笑うフィーア。

 考古魔導学ってのは、パレットで受けれる授業の一つで、端的に言うととても人気がない。

 具体的に、今年この講義を受けているのは、俺とフィーアの二人だけってレベル。

 それで、こんなにうれしそうにしてるフィーアは、それだけ考古魔導学が好きなんだろうが。

 まるで、俺と一緒の講義が嬉しい、みたいに勘違いしてしまう。


 この学園に入学して以来、フィーアは何かと俺のことを気にかけてくれている。

 それだけ優しいということなのだろうが、本当にいいんだろうか。

 平民であり、”おこぼれ”なんて呼ばれる俺に対し、フィーアはクラスでの人気も高い。

 誰からも好かれる性格もさることながら、俺に対して向けられる優しさは、決して俺だけのものではないからだ。


 なんというか、相手の嫌がることをしないようにするのが巧い。

 それでいて、困っていたらさり気なく助ける。

 気遣いの達人ってやつだな。


 後はまぁ、他にも色々と理由はあるんだが……とりあえず、今はいいか。


「じゃあ、今日もよろしくね、ハイムくんっ」

「ああ」


 にしても、俺に対してはやたら親しげな感じなのは何なんだろうな?

 勘違いしてしまいそうだ。

 うん、敢えてフィーアの欠点を上げるとすれば、男子を勘違いさせてしまうところだな。


 俺だけじゃない、彼女のこのクラスにおけるカーストに関わる話でもあった。

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