第2話 バレるまで①
ハイムというのは、俺の名前で名字はない。
平民に名字がないのは普通のことで、そのことを疑問に思ったことも特にない。
だが、名字がないということは、ある特定の場所ではとても分かり易いマイナス要素だ。
名字を持つのが普通の貴族たちが通う、この王立魔導学院パレットでは。
俺は、平民でありながらそんなパレットに通う特待生だ。
魔導学院は魔術を教える場なのだから、当然俺が特待生として通うのは、魔術に優れた才能を示したからということになる。
だが、一つだけ言っておきたいのは、俺にとってそれは才能ではない。
生まれた時から、不思議と魔術の勉強に熱中していた俺は、気がついたら学院に特待生として通えるまでに魔術が使えるようになっていたのだ。
自然と学んだものだから、正直イマイチ自分が“天才”なんて言われても実感がない。
どころか、周囲の環境が俺の自己認識を歪めるせいで、俺は自分のことを優秀だと思えなくなっていた。
――魔導学院は貴族の学び舎だ。
そもそも、魔術というのは学ぶのにそれなりの環境と素養が必要で、それを用意できるのは貴族のような経済的に恵まれた立場の人間以外はそういない。
王国事態は「人は魔術の前に平等である」とし、国民から広く学生を募っているが、そうそう市井から種が芽吹くことはない。
だから、数少ない例外である特待生、つまり平民の俺に対する周囲の風当たりは、俺が入学する前に思っていた以上にきついものだった。
学生たちは登校すると、まずは自分が所属するクラスにやってくる。
そこで「ホーム」と呼ばれる教師からの連絡事項を聞いてから、授業を受けるのだ。
俺はそんなクラスに、「ホーム」が始まる時間ギリギリにやってくる。
一人暮らしで色々とやることが多いというのもあるが、単純にそうしないと色々と不都合があるからだ。
「おい、“おこぼれ”が来たぞ」
「近寄らないでほしいわ、平民の汚れた血なんて、穢らわしい」
ヒソヒソと、そんな声が聞こえてくる。
“おこぼれ”。
貴族たちは平民である特待生を公然とそう呼んでいた。
魔術は栄光ある貴族のもので、平民がそれを扱うのは“おこぼれに預かっているだけ”だと言って憚らない。
ふざけた話だ。
「人は魔術の前に平等である」。
そんな崇高なる理想は、結局理想でしかない。
現状は、こうして針の筵になりながら縮こまって生きるしかないのだ。
……それでも俺がこの学園で魔術を学ぶのにはいくつか理由がある。
その一つが――
「すいません、遅れちゃいましたー!」
彼女だ。
「ホーム」が始まるまさにその瞬間。
ほとんど間に合うか間に合わないかくらいの時間でクラスにやってくる俺よりも、更に遅くやってくる唯一の学生。
フィーア・カラット。
俺の隣に座るクラスメイトであり、俺が唯一この学園で友人だと思える相手。
そして、今この時はまだ知らなかったことだが――
この国の至宝とも呼ばれる美貌の王女。
ステラフィナ・マギパステルその人である。
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