隣の席の王女様、俺の前だけ甘々カノジョ【旧題:魔導学園で平民な俺のことを気にかけてくれる隣の席の子犬系美少女が、実は我が国の王女様だった】

暁刀魚

1.バレる

第1話 バレる

 魔導王国マギパステル。

 大陸に古くから続く、魔導において並び立つ国なしと呼ばれる魔術国家だ。

 マギパステルは魔術だけでなく、学問にも力を入れている。

 王立魔導学院パレットは、主に貴族が生徒の大半を占めるものの、中には才能を見込まれた平民が特待生として通っていた。

 文化的にも先進的な、大陸随一の大国だ。


 そんなマギパステルには、天の至宝とも称される絶世の美貌を誇る王女がいる。

 天が人々に齎した至宝、世界は神々が人が彼女を愛するために作ったとすら言われる王女様だ。


 ステラフィア・マギパステル。

 マギパステル王国第三王女であらせられる彼女はその美貌もさることながら、非常に賢明な才女であることも知られている。

 金髪碧眼、王家の血を色濃く受け継いだ、特徴的な碧色の瞳は人々の意識を吸い込んでしまうかのように美しく。

 どこかあどけなさが残る顔立ちは、小柄な背丈も相まって誰もが魅了されてしまうほど愛らしい。


 ど田舎の平民出身である俺ですら知っているような、この国を象徴する有名人。

 誰もが一度はそのかんばせを肖像画なり、マジックフォトなりで見たことのあるような。

 そんな、あまりにも有名すぎる王女様が――



 何故か、王立魔導学園パレットの、普段は誰も入らないような資料室にいたら、どう思うだろう。



 それも、なんというか。

 口をあんぐりと開けて、美貌が台無しになってしまいそうなほど驚きに顔が染まっていたら。

 しかもなんか、口からは「ヒヤー」みたいな変な声が漏れていたら。


 そしてそれを、俺のような平民が――目撃してしまったら、どうだろう。


 疑問は大いにあるかもしれない。

 どうして人の立ち入らない資料室に、わざわざ俺が入ったのか、とか。

 どう考えても見つかったらまずい、みたいな反応をしている王女様がそこにいるのか、とか。

 ――そもそも、俺は誰なんだ、とか。


 だが、そんな疑問は一度脇にどけて。

 続きを聞いてほしい。

 王女様は、それはもうとんでもない有名人で、こんな場所にいていい人間じゃない。

 俺が見つけてしまったことは事故みたいなもので、俺と王女様の間に因縁なんてない。

 だから、いくらでもこの話はにできるはずだったのだ。

 動揺した俺が、気付いてしまったあることを、口にしてしまわなければ。



「えっと……何をしてるんだ? フィーア」



 フィーア・カラット。

 その少女は、俺と同じクラスの、隣の席の、平民であり周囲から浮いている俺に唯一良くしてくれる少女であり。

 俺がこの学園で、唯一友人といって差し支えない相手である。


 だからこそ、俺は王女様の姿をした彼女を、


「ハ、ハイムくん……どうしてぇ?」


 そして、泣きそうな顔でそう問い返すフィーアの言葉で、事態は一つの方向へと転がり始める。

 平民である俺、“ハイム”が、王女であるステラフィア・マギパステルの秘密を知ってしまうという。

 そんな、大衆向けの演劇でも見ないような、コッテコテのシチュエーションに、


 俺は、リアルで出くわしてしまったのだ――

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