第22話 趣味に生きる義姉・京終桜花(3)
「は?」
途端、紺鉄は乱暴に桜花の手を払った。
対する桜花はそれに微笑みを持って答える。
「紺鉄くんのそういう顔、一年前からですよね。
まるで呪いを慈しむような。
不健全ですよ。」
桜花はスマホを取り出した。
紺鉄はぎょっとして、慌ててその手を掴んだ。
「兄貴はだめだ」
桜花は紺鉄の内側を透かして見るように、わずかに目を細める。
「どうして紺鉄くんは、それにしがみつくんですか?」
「あいつは、俺の……」
紺鉄は言葉を探すが、うまく言うことができない。
桜花はため息をつく。
「別にね、呪いなんてすべて祓ってしまえ、なんて言うつもりはないんです。
人間なんて呪い呪われて生きていくようなものですし。
でも紺鉄くんのそれはダメです。
それは紺鉄くんを人間ではなくしてしまいます」
「人間って、なんですか?」
「不気味なものです」
思わぬ答えに、紺鉄は少し目を見開く。
桜花は続ける。
「人にとって、人はいつだって不気味です。
不気味だから、その人のことで頭が一杯になる。
つまり愛するんです」
桜花は子供に言い聞かせるようにゆっくりいう。
だがその言葉に、紺鉄は心の底かささくれるように不快になる。
「人間じゃあなくなったら、何になるんですか、俺は?」
「人形ですよ。
いまの紺鉄くんはまさにそれです」
「おれが白月の操り人形だと?」
「だって、あなた、燃えている白月さんの目を見ていないでしょう?
この一年間ずっと、彼女の呪いに従ってきただけでしょう?」
「それは……」
桜花の指摘は紺鉄の急所を突いていた。
紺鉄は、今も瞼の裏で炎に包まれる白月の顔を知らない。
それを知るのが怖い。
桜花は子守唄を歌うように言った。
「白月さんと、ちゃんと向き合いなさい」
桜花の言う通りだった。
紺鉄は白月の言葉に従っていただけで、なぜ最後まで真朱のことを気にかけたのか、考えたことすらなかった。
白月と向き合う。
そのためには、瀬田真朱を知らなければならない。
白月の唯一の親友、瀬田真朱とはどのような人間なのか。
紺鉄はふと気がついた。
真朱は生き返る前に誰かに殺されていた。
生き返るというオカルトは手に負えないが、殺害の犯人なら合理的に見つけることができる。
そして真朱が殺される理由は、真朱を知り白月を知る手掛かりになるはずだ。
それに殺されたのが瀬田真朱で、現場が学校ならば、紺鉄が推理するまでもなく犯人に辿り着けるだろう。
「何かわかりましたか?」
桜花が紺鉄の顔を覗き込む。
紺鉄は首を横に振って苦笑いした。
「白月のことをなにも知らないんだと、思い知っただけです。」
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