第4話 メインヒロインの公認ストーカー(2)
「こ……れ……は……!?」
それは真朱の写真だった。
病室で撮られたものらしく、写真の真朱はいまよりいくぶん幼く、パジャマ姿で、不意をつかれたのか胸元や腹のあたりが少し乱れていた。
「どこでそれを!?」
食らいついてくる御狩の目から、羨望と欲望がほとばしり出ている。
紺鉄はこの交渉の勝利を確信しながら、入手先の名を口にした。
「中務白月」
その名に御狩はにわかに怯んだ。
「そ、そうか。あの人ならその写真を持っててもおかしくないな」
「さあ、どうする?」
口角を片方だけ上げて見下ろす紺鉄に、御狩は小さく舌打ちした。
「屋上に血がまかれたと思われる夜、つまり11月3日なら、真朱さんは文化祭の準備で夜の9時頃まで学校に残っていたよ」
「その時、お前はここから校門を出る真朱を見たのか?」
「いや、見ていない。……見失った」
「おいおい、さっきの大言はなんだったんだよ」
「8時55分までは、ちゃんと真朱さんが演劇部の部室にいたのはみていた。邪魔が入ったんだ」
「邪魔?そんな時間の学校で?」
「生徒会の役員に事情聴取されたんだ。僕は純粋に真朱さんの目が好きな、ただの公認ストーカだって説明したのに信じてくれなくてな」
「それで納得しろというほうが無理がある」
「誤解はちゃんと解けたぞ。ただ説明している間に真朱さんを見失ったんだ」
「誤解を解いたお前がすごいのか、お前を信じたその役員の度量が大きいのか……。この学校、常識の基準がおかしくなってないか?」
感嘆半分呆れ半分でいう紺鉄に、御狩はその紺鉄を指さしていった。
「黙れ、わが校のナンバーワンの非常識男が。
帯刀し美少女を連れて歩く高校生ってなんだよ?
それに極め付きは一年前の……」
いいかけて御狩ははっと口をつぐんだ。
紺鉄は笑ったままの目に、青い不気味なものがゆれた気がしたのだ。
「悪い」
「いや、おまえの言うとおりだ。この学校の常識がおかしくなってきたのはあの日からかもな」
もしくは
ともかく手がかりは得た。
取引成立だ。
「助かったよ。ほい、これ」
御狩は差し出された写真を両手で受け取ると、そこに写っているパジャマ姿の真朱を食い入るように見つめた。
息がどんどん荒くなり、紺鉄のことも忘れているようだった。
それまで黙って後ろに立っていた斗鈴がついついと紺鉄の袖を引いた。
「たべていい?」
「だめ」
紺鉄は頬を膨らませる斗鈴の頭をなでる。
御狩は写真の真朱の鎖骨あたりにホクロをみつけて雄叫びを上げていたが、ふと顔を上げた。
「そうだ。お前、真朱さんの目と中務白月の目、どっちがいいと思う?」
「なんだそれ」
御狩は眼鏡の奥から、紺鉄のわずかに強張った顔を観察しながら続けた。
「あの夜の事情聴取で俺が真朱さんの目の魅力について語ったあとにな、件の生徒会役員が聞いてきたんだよ。『中務部長の目とどっちが魅力的だ?』って」
「へぇ……。おまえはなんて答えたんだ?」
「僕は答えられなかった」
「瀬田が一番じゃないのか?」
「僕は中務さんの目をまともに見れなかったからな」
御狩は心にバリアを張るように、メガネを直した。
「その役員って誰だ?」
「
「解散したオカルト研の……。白月の仲間か」
「中務さんはおまえの担当だろ。一応教えておこうと思って」
「そんな担当なんて無いからな」
紺鉄はため息をつく。
中務白月の目に興味を持つ元オカルト研部員。
気にはなるが、いまは瀬田真朱の身に何かあったのかどうかを調べるのが先だ。
紺鉄は六車嶽の名前を記憶にしまい、小鹿御狩と別れた。
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