第3話 メインヒロインの公認ストーカー(1)
確かめるには本人に聞くのが一番だ。
血の海ができたのは紺鉄が発見した前日の夜。
そのとき真朱は何をしていたのか。それを確かめればいい。
なんとか睡魔に打ち勝った紺鉄は、ホームルームが終わると同時に真朱の席に向かった。
だが真朱はすでに席にいなかった。
見回すと、真朱は扉の前で紺鉄を睨んでる。
「おい、瀬田!」
紺鉄が机の間を縫って廊下に出ると、真朱はもう廊下の一番むこうの端に立っていた。
そして真朱はひとしきり紺鉄を睨らむと、階段を降り行ってしまった。
「ったく」
紺鉄が舌打ちすると、賢木香が背中を叩いてきた。
「ドンマイ。京終は真朱に嫌われこそ京終よ」
「それ励ましてないだろ」
紺鉄は方針を変えることにした。
紺鉄は賢木と別れると、真朱が降りたの階段を登り、校舎4階に上がった。
斗鈴も紺鉄の後ろを黙ってついてくる。
文化祭の準備に、嬉々として追われている生徒たちの間をすり抜け、教室を端から順番に覗いていく。
3番目の教室で、目当ての男を見つけた。
その男は学生服の詰め襟を上まできっちり留め、傍らに大きな黒いバックパックを置き、プロが使うようなカメラにバカでかい望遠レンズつけて正門を狙って構えている。
「今日の撮れ高は?」
「最悪だ。おまえ、なにをした?」
紺鉄が声を掛けると、男はファインダーから目を離し、オレンジの縁のメガネをかけ直して振り返った。
男の名前は
「公認だからオーケー」をモットーとし、オープンでクリーンなストーキングを心がけている、らしい。
実際、
以来、御狩はその信頼に応えて、活動範囲を校内に絞り、真朱のプライバシーを脅かすような真似は絶対にせずにストーキングを行っている。
いま御狩は正門から下校していく真朱の姿を狙っていたところだ。
紺鉄にも、ちょうど校門を後にする真朱の後ろ姿がが見えた。
「なぜ俺がなにかしたとわかる?」
「ファインダーはすべてを見抜く。
僕は真朱さんのあの瞳に魅入られているが今日はだめだ。
左目は眼帯で隠れているし、右目は暗く曇っている。
あんな目の真朱さんは1年まえ以来だ。
つまり原因はお前ということだ、この野郎」
紺鉄は、この自称公認ストーカーに改めて感心した。
ストーカーの観察眼は真朱の異変を捉えていたようだ。
紺鉄には真朱の変化など、これっぽっちもわからない。
1年前の中務白月が燃えた日から、紺鉄は真朱の目をまともに見ることができないからだ。
あの日以来、真朱の目は紺鉄を責め続けている。
白月を失った真朱の叫びと涙は、紺鉄の内に深く突き刺さっている。
だから紺鉄は瀬田真朱の目を見ることができない。
紺鉄は自身の臆病を笑う。
「俺に話しかけられたから機嫌が悪いんだろ」
「ふん……。で、なんの用だ」
「昨日の騒ぎ、知っているか?」
「ああ。何者かが真朱さんの血を屋上にぶち撒けたらしいな」
「そのとき瀬田がどこにいたか知らないか?」
「なぜそんなことを知りたがる?」
「ちょっと呪われてて」
「は?」
「いや、知らなければいいんだ。お前より詳しい瀬田ファンに聞くことにしよう」
紺鉄はわざと御狩を軽んじる。
その効果は覿面で、御狩はギラリとメガネのレンズを光らせた。
「ナメるな。僕以上に真朱さんを知る者などいない。だが僕はオープンでクリーンなストーカーだ。大事なひとの個人情報をそう簡単に……」
紺鉄は1枚の写真を御狩に突きつけた。
メガネを直す御狩の目が、ぐわっと見開かれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます