第3話妖界

「どうした...もう終わりか? 愚民」

 見下したような目で良太のことを見る。

 しかし、体が動かない。

「くっそぉ」

 もうこれを使うしかないか...

 そして、良太はポケットから一枚のお札を取り出す。

「えっとー」

「おい、何もってる!」

 天狗がまっすぐ良太の方へ向かう。

「妖気拳!」

 すると、天狗の腹に拳が食い込む。

「な、なにいいいいいいいいい」

 そうして、天狗が窓ガラスを割り、外に勢いよく放りだされる。

 そして、天狗の姿が見えなくなる。

「お、終わったか? 良太」

 そこに、尊寿が駆けつける。

「なんとかね」

「お前は、やはり才能があるな...」

 小声で尊寿が呟く。

「ん? なんか言った?」

「いや、何でもない」




 学校が終わった。

 俺は帰宅部なので、真っ直ぐ家に帰る。

 ひとつを除いていつも通りだ。

 そう、ひとつを除いてだ。

「で、何でお前がついてきているんだ?」

 尊寿に聞く。

「いやまぁ、そんなに固くなるなって。な?な?」

 本当に何なんだこいつ。何が目的なんだ。

 そうして駅にたどり着く。

 改札を通り、電車を待っていると、ふと疑問が浮かんだ。

「何で駅には、霊がこんなにいるんだ?」

 視線の先には、数十と霊がいた。

「あー、それ聞いちゃう?」

 なんだこいつ。聞かれたくないのか?

「なんかダメなのか?」

「いやぁ、別にー。お、良太電車来たぞ」

 乗ろうと思うと、そこにはいつもと違う電車があった。

 固まっている俺を見て尊寿は、こちらへ向かってきた。

「まぁ、いいから、いいから」

 そう言われ、靴紐を引っ張られて強引に入れられた。

 一見いつも見ている電車と同じものだった。

 しかし、周りの乗客が違った。

 全員、霊だった。

 人の霊はもちろん。犬や猫の霊もいた。

 異形の妖怪のようなものもいる。

 そして、アナウンスが流れる。

『この電車は妖界線』

 聞いたことのない声と内容に、良太は、さらに混乱した。

「これどうなってるの!」

 小声だが、力強く隣の尊寿に聞く。

「ワシも久しぶりだから楽しみだわ、ちなみにさっきの駅には...の質問の答えは、これがあるからじゃよ」

 そんなのんきなことを言われた。

 俺は、不安でたまらない。

 だから、あの時濁したのかと言う、怒りもあった。

 周りをキョロキョロ見ていると、隣から声がかけられた。

「あんた、俺ら見えるんか?」

 背の高い霊に話しかけられる。

「そうですね、見えますよ」

 人間と話すような自然さを意識して良太は、話した。

 興味深そうな顔をして、こちらをみた後、次の駅で電車を降りてしまった。



 そうして、しばらくたった。

「降りるぞ」

 尊寿に言われ椅子から立ち上がり、扉が開くのを待つ。

『次は妖怪ハウス』

 そして、ドアが開く。

 外には、見たことのない町並みと、駅、霊などなどが揃っていた。

「ここは、どこだ?」

 尊寿に聞く。

「ここは、妖界だ。久しぶりだなー」

 尊寿は、懐かしそうな顔をして町を見ていた。

「で、俺は何でここに連れてこられたのかな?」

 聞いてみる、が期待はできなさそうだった。

「ま、出来心?」

 殴りたくなった俺の気持ちは、間違っていないはずだ。

 話を終えた後、駅からでて町を見に行った。

 ここは、温泉街の近くらしい。

 だから、霊がこんなにいるのかと良太は、納得した。

 少し観光し終わった時に、尊寿が口を開いた。

「せっかく来たんだから、温泉いかないか?」

「いや、でもそろそろ時間が…」

「大丈夫だ。まだ、下界では1時間しかたっていないはずだ」

 どうやら、下界とここの時間は進む時間が違うようだ。

 下界に比べてこっちの方が時間の流れが早いらしい。

 せっかくだからと、尊寿の口車に乗せられて温泉へ行くことになった。

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