第52話 被告人尋問

 カツン、とシャルルは木槌を叩くと、シズの方へ目をやった。

「遺体はどこへやった」

 シズは顔色を変えずに応じる。

「お答えできません」


 こういう対応で来るのは、シャルルもわかっていたのだろう。想定内だ、という顔で質問を重ねていく。


「魔女の儀式に使ったか?」

「お答えできません」

「魔女は死体の油で軟膏を作るそうだな。その材料にしたのか?」

「お答えできません」

「第一発見者のデイブ氏が「ベルを聞いた」と墓を掘ろうとしたとき、貴様はそれを止めた。なぜだ」

「お答えできません」

「結果的に、ベルの音を聞いたというのは嘘だったが、聞き違いであったとしても掘り返すべきだったのではないか?」

「その通りです」

「なぜ掘り返すのを拒否した?」

「お答えできません」

「最初から、棺の中が空っぽなのを知っていたのではないのか?」

「お答えできません」


 全ての問いに、シズは黙秘を貫く。

 軽く苛立ったように眉間にしわを寄せながら、シャルルは問いを続ける。

「罪を認め、自分は魔女だと告白したのではないのか。全てを明らかにしろ」

「お答えできません」

「面会室で弁護人と私を襲ったものはなんだ?」

「わかりません」

「貴様の使い魔か?」

「違います」

「犬を見た、という者が何名かいる。心当たりはあるか」


 少しだけ、シズが言葉に詰まった。

「……少し前まで、一緒に暮らしていた犬が、最近姿を消しました。犬と言えば、私の周りにいたのはその子、グリムだけです」

「その犬は、ただの犬か?」

「ただの犬です。人を襲うような子ではありませんでした」

「犬を目撃した者は二名、いずれも赤毛。妖精だとの説も浮上している。心当たりは?」

「妖精……? いいえ、ありません」


 おほん、と軽く咳払いをして、シャルルは話題の切り口を変える。

「貴様は、貴様宛てに届いた手紙を破り捨てたな。なぜだ」

「お答えできません」

「死者からの手紙だったように見えたが、どういうことだ」

「お答えできません」

「これ以上何も答えないつもりならば、拷問にかけなければならない」

「それでかまいませんが、私はなにも答えません」


 頑ななほどに、シズはなにも答えない。

 シャルルが、木槌を振り上げた。

 このままでは、拷問が始まってしまう。

 まりあは慌てて口を挟んだ。


「待った。その必要はないよ。彼女は墓場泥棒なんかじゃない」

 不安で胸がいっぱいだ。

 なんとか間を持たせて、リリスが戻るまで持たせなければいけない。

 シズは青い顔でまりあの目をじっと見る。

「お願いです。私のことは放っておいてください。私は死刑でかまいませんから」


 まりあは、不安な気持ちを振り払うように、思い切り首を横に振った。

「あなたは死ぬ必要なんかない。絶対に。これで死刑なんて私は納得しない!」

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