第49話 死者からの手紙

 まりあは、街はずれにある墓地を訪れた。

 やっぱり現場はよく調べるべきだろう。


「……で、なんでアンタまでついてくるわけ?」

「保護監督者が見張っている必要がある。変に証拠を隠滅されたりしてはかなわないからな」


 一人で調査をするつもりだったのに、シャルルまでついて来てしまった。

 やりづらい。この人と二人とかどう振舞えばいいんだろう。

 っていうか普通に怖い。


 墓地は、雑草一つ、ゴミ一つなく、墓石はよく磨かれ、手入れが行き届いていることが一目でわかる。

 けれど、調査の結果だろう。あちこちの土が盛り上がっていて、掘り返された跡が見える。


「来たのはいいけど、どこから調べようかな」

 いつもは、リリスについて回っているから、自分が主体的に、となるとまた感覚が違ってくる。

 シズは隠し事をしている。なら、彼女の部屋とかだろうか? プライバシーがどうとか言っていられない。命がかかっている。

 ぐるりと墓地を見回す。敷地のはずれに、墓守の家らしき建物が見える。


「ねえ、あの建物の鍵って持ってたりする?」

「裁判所の保管庫に預けてあるはずだ。必要なら手続きをして貸りるがいい」

「しまった、貸りてから来るんだった」

 リリスが言うには、なんだかんだ理由をつけて貸してくれないらしいが、今日はシャルルが一緒だ。偉い人の威を笠に着れば普通に貸りることができたかもしれないのに、失念していた。


 リリスならドアを破壊して入るのだろう。そのやり口に慣れすぎていたせいで、まっとうな方法に頭が回らなかった。

 まさかシャルルの見ている前でドアノブに石を打ち付けるわけにもいかない。

 外からでも調べられるところはないだろうか? 視線を走らせると、郵便受けに目が行く。なにか届いているようだ。


 こういう時は虱潰しに、ってリリスが言っていた。まりあは、郵便受けを開けて、一通の封筒を取り出す。

 しかし、読むことができない。


「ねえ、なんて書いてあるか教えてくれない? 私、こっちの世界の文字わからないの」

「他人の郵便を勝手に見るべきではないだろう」


 クソ真面目だなこの人。やりづらい。

 リリスなら即、封を開けて中を見るに違いないのに。

 ……いや、リリスの方がおかしいのか。まともなのはシャルルの方だな。


 まりあは自分の感覚がリリスに毒されているのを感じて苦笑いした。

「中身は見ないよ。あとでもう一回面会してシズさんに届けよう。大事な手紙かもしれないし、差出人だけでも」

「……しかたあるまい」


 渋い顔でシャルルは郵便を受け取って、すぐに顔色を変えた。

「……なんだこれは」

「なんて書いてあるの?」

「差出人は『アンジェラ』とある。この事件の発端となった、墓の下から消えた故人の名だ」






 再び面会室を訪れ、手紙を差し出すと、シズはギョッと顔色を変えた。

「……。中身は読みましたか?」

「読んでいないよ」


 まりあが答えると、シズはほっとしたように微笑む。

「よかった……」


 そして、受け取った手紙をびりびりと引き裂いてしまったではないか。

「な、なにをする!」

 慌てるシャルルに、シズは深く頭を下げる。

「お願いです。もうこれ以上、この件を調べないでください!」

 せっかく見つけた手がかりだったのに。まりあは宙を舞う紙吹雪のような切れ端を、呆然と見つめていた。

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