断章 蛇が見せる夢

第39話 天に召された弟の夢

 また夢を見た。

 早く目が覚めますようにと祈りながら、まりあは目の前の光景から目が離せない。


 ベッドの上に、やせこけた男の子がいる。一目で病気だとわかるほどに顔色が悪い。


「くるしいよ」


 細い息を吐くその子の傍らには、当時十二歳のまりあと、母さんがいる。


「大丈夫よ、全ては神のお導きなの。あなたは天国へ行くのよ」


 首元に巻き付いた蛇が尋ねてきた。

「あれは誰?」

「弟」

「へえ、意外。きょうだい居たんだ」

「昔の話だよ」


 なぜなら、あの子は死んでしまったから。

 病気になったあの子に、両親は治療を受けさせなかった。

 全ては神の導きだとか。

 俗世の技で体を弄るのは戒律に反するとか。

 戒律を破ってしまえば、この子は天国に行けなくなってしまうとか。

 俗世の欲で神の教えに背いてはいけないとか。

 どうとか。


 結局弟は、苦しんで死んだ。

 この頃までは、両親の語る神様ってやつを、少しは信じていたかもしれない。


 でも、後になってこの時の引っ掛かりがぬぐいきれなくて、ちょっと調べて絶望した。

 弟の病は、治療すればかなりの確率で治るものだった。


 両親と神様は、それをみすみす殺したのだ。

 そんなもの、どうして盲目的に信じていられようか。

 この件をきっかけに、まりあは両親の語る神を信じるのをやめた。

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