第30話 カサンドラの予言
お前はこれから殺される。
楽しい休日を過ごすつもりでいたんだろうが、気を引き締めろ。少しの油断が命取りだ。
お前はこの後、バーバラとリリスと一緒にお前の服を買いに行くんだろう?
バーバラに指定された待ち合わせ場所、赤い旗の店へ向かう途中、お前は襲われる。
頭から布袋をかぶせられ、驚いているうちに抵抗の隙もなく縛り上げられ誘拐される。声を出そうとするが、腹を殴られて息がつまっているうちに袋の上から猿轡をかまされる。
お前を襲ったのは女だ。背が高くて黒い服を着ている。
魔女は布袋の上から薬を垂らす。それは眠り薬だ。布の袋に眠り薬がしみ込んで、お前は無理やり眠らされる。
眠ったお前は馬車に乗せられる。
女が合図を出し、御者席で待機していた男が馬に鞭を入れると、馬車は市場の賑わいに紛れて街の外へ出る。誰もお前が危機的状況にあることには気づかない。
馬車は街から少し離れた森へ向かう。
森は魔の領域だ。人の手の及ばない、あらゆるものが跋扈する魔窟。馬車は不思議と、立ち並ぶ木々に遮られることなくまっすぐに進む。
馬車の目的地は、森の中の開けた場所。
邪悪な儀式の用意が整えられている祭壇。
地面には鶏の血で魔法陣が描かれ、五芒星の頂点には禍々しい護符が設置されている。動物の頭蓋骨。干からびた赤ん坊。黒猫のひげ。イチイの木の枝。一つだけ、なにも置かれずに空いている頂点がある。
女はお前を馬車から降ろし、魔法陣の前に引きずり出す。
女の手にある鋭いナイフが、眠ったままのお前の胸を貫いて、心臓を抉り出す。どくどくと地面に血があふれ出し、描かれた魔法陣を濡らしていく。
女は、だらりと脱力したお前の体を魔法陣の真ん中に置く。
血管ごと引き抜かれた心臓を器に盛り付けると、空いていた五芒星の頂点に置いた。
「地におわします我らが父よ。生贄の心臓を捧げます。わが願いを聞き届け降臨したまえ。この者の肉体を楔に現世にまかりこしたまえ。人の世に災いを!」
その瞬間、雷が落ちる。
空に暗雲が立ち込め、あたりは暗くなる。
お前の死体が立ち上がる。
お前は生気のない目で女を見ている。
お前は地獄の底から響くような雄たけびを上げる。
お前の額から禍々しい角が生えてくる。ねじくれたヤギの角だ。
お前の背中から真っ黒な翼が生えてくる。おぞましいコウモリの翼だ。
お前の唇がいやらしい笑みにゆがむ。
お前の口が哄笑を吐き出す。
コウモリの羽で飛び立つと、悪魔に憑依されたお前は街に向かった。
お前が高笑いするだけで街は火の海になる。お前が腕を振るうと雷が落ち、教会が崩れ落ちる。
お前に立ち向かうエクソシストたちを、お前は羽虫でも叩き落とすように殺す。
街はあっという間に地獄の様相を呈する。ネズミたちですら危機を感じ取って逃げ惑い、こぼれ出た臓物をかじろうとはしない。
お前は背後からナイフで刺される。
リリスだ。茨に封じられた両手で持ちにくそうに、それでも固く握ったナイフをお前に突き刺している。
「僕たちを騙していたの?」
お前は苦しみの声をあげる。
リリスの持っているナイフは、聖職者が持つ清められた武器だ。邪悪なる者にとっては毒になる。
お前はリリスを振り払い、投げ飛ばす。
お前は憎々しげに、わき腹に刺さったナイフを抜いて放り捨て、リリスの首を締め上げる。
首を握りつぶされたリリスは、だらりと脱力して路傍に投げ捨てられた。
壊滅的な被害を街にもたらしたお前は、心行くまで破壊を楽しんでから空の彼方へ飛び立った。
数日後、魔女裁判の被告人の席にはバーバラがいる。
「被告人は街を襲った悪魔と暮らしていた。魔女に違いない」
裁判官はバーバラに有罪判決を出す。
家を失った者。家族を失った者。街中の人間がバーバラに石を投げる。
お前があの悪魔を街に呼び込んだのだと。
バーバラは火刑に処され、灰になる。弁護する者はいない。
……。以上が俺の予言だ。わかったら死ぬ気で回避しろ。
効果があるかはわからねえが、ラッキーアイテムはトウガラシだ。
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