第24話 被告人尋問
証人の発言が一通り終わると、シャルルはリナに目を向けた。
「被告人、異議はあるか」
リナはへらりと余裕の笑みを浮かべている。
「裁判官さんはどう思うの? ウチがやったと思う? ウチのこと火炙りにしたい?」
「私の意志は関係ない。すべては法が決めることだ」
「ウケる。そんなこと言ってたらつまんなくね?」
「話を逸らすな。やったかやってないかを聞いている」
「やってないよ」
「では、エクソシストカインの証言を試させてもらおう」
シャルルは席を立って、並べられている証拠品の中から十字架を掴んで、荊の隙間から降りの中へ突っ込んだ。
荊の棘が服の袖に引っかかって、びり、と破れる。
「貴様が魔の眷属でないのなら、この十字架に触れられるはずだ」
「むり」
げー、と顔をしかめながらリナは即答した。
「ウチ、金属触ると肌が荒れるんだよね。モデルのお肌が真っ赤になっちゃったら大変だし? それは触れない」
「十字架に触れて体が爛れるのなら、それは神に背いた天罰の、動かぬ証拠ではないか?」
早く触れ、とシャルルは十字架を突きつける。
言い逃れは許さない、という厳格な視線が、じっとリナに注がれている。
リナは視線を逸らすでもなく、身じろぎするでもなく、自然体でそれに応じた。
「形が十字架かどうかは関係ないの。ほら、そこの証拠品見てよ。全部鉄でしょ? 十字架でも、木製の奴なら問題なく触れるよ」
「適当な言い逃れを述べているのではあるまいな」
ああ、なるほどね。とリリスが口を挟む。
「金属アレルギーだ」
「あれ、る? なんだそれは?」
「病気だよ。詳しい資料が必要なら後で用意しよう。無理にそれを触らせなくとも、木製の十字架を触って無事であれば、魔の眷属ではないと証明できるのだろう? そっちで試すことにしよう。僕のを使ってくれ」
リリスは自分の首にかかっているペンダントを外した。
檻の隙間から渡された小さな木の十字架を、リナはしっかりと握る。
「これでウチが十字架嫌いなわけじゃないってわかった?」
「そうだな。しかし、貴様には他にも余罪がたくさんある。包み隠さず正直に答えるように」
「おけおけー」
手元にある資料を広げて、シャルルはそれを読み上げ始めた。
「まず……。五人の被害者のアトリエにあった被告人が描かれた絵画が、すべて消えた。魔法で消したかのように、全てだ。なにか知っているか」
「え。なにそれ! 泥棒ってコト!?」
す、と小さく挙手をしたリリスが、はにかみながら言った。
「心配しないで。それ僕だから」
まりあも苦笑いを浮かべる。アトリエに集った画家たちに手伝ってもらって、人海戦術で運び出したのだ。
ほ、とリナは胸をなでおろして笑みを浮かべる。
「よかったー、泥棒じゃなくてー」
「よくない! 貴様の仕業だったか! 一応裁判所の管理下にある物なんだぞ!」
これに怒ったのはシャルルだ。ぴきぴきと青筋を立てているが、どうにか深呼吸して理性を保ち、手元の資料に目を戻す。
「こほん。次、被害者たちと交流のあった画家複数名の住宅に、空き巣が入った形跡がある」
上げた手を下ろさないまま、リリスはあっけらかんと言った。
「省略してくれてかまわない。それも僕だ」
「……。画材商のニコラス氏から、絵の具がいくつか盗まれたとの通報があった」
「代金は置いておいたと思うけど」
「お前という奴は……! いい加減にしろ! お前から火炙りにしてやろうか!」
「まあまあ、落ち着いて。と、いうか彼女にそれらの容疑をかける意味はない。ずっと拘留されていたというアリバイがある」
「魔女であれば、コウモリやネコなどの使い魔を送り込むこともできるだろう」
「絶対に違う……と言い切る証拠はないが、ひとまずそれらは僕の自白で決着をつけておいてくれ」
はぁ……。と重いため息をついて、シャルルはまた資料に目を向ける。
「あと一つ。さすがにこれはお前の仕業ではないだろう。昨日、どうしたわけか画家たちが一斉に悪魔の絵を描き始めた。精神に干渉する類の魔術が使われた可能性がある」
あはは! と苦笑いを浮かべて、リリスは肩をすくめた。
「残念! はずれだよ。それも僕だ」
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