第23話 開廷 リャナン・シー連続殺人事件
カツン、とシャルルが木槌を叩いて、裁判の開始が告げられた。
始まる前から、まりあはちょっと疲れていた。
なぜって、今回は証拠品のために結構な数の絵画を持ってきたからだ。一枚一枚は大した重さではないが、五人の被害者の分と、その関係者と、その他にも参考になる絵をいろいろ持ってきたら、結構な量になってしまった。その上、リリスは両手がうまく使えなくてあんまり役に立たない。
リナは荊の檻の中にいる。棘だらけの檻の中で、怯えるでもなく自然体で顔を上げている。
「これより裁判を始める。被告人は名を名乗れ」
「っす。ウチはリナだよ」
「姓はないのか」
「ないよ。ただのリナ」
「この街にやってきたのは五年ほど前だと聞いている。それ以前はどこにいた」
「山で暮らしてた」
「それを証言できる者はいるか」
「いないよ」
粛々と、事務的に、シャルルは裁判を進めていく。
「貴様は魔女か」
「違うし」
「最初に告解の機会を与える。咎を認め、悔い改めるのであればその罪は赦されるだろう」
「だから、なんもやってないって言ってんじゃん」
「では、断罪を。今回の裁判は、被告人に関わった芸術家が相次いで死亡している事件についてだ。アンリ、概要の説明を」
☆検察官アンリの発言
彼女には、悪しき魔術で連続殺人を行った容疑がかかっています。
彼女をモデルに絵を描くと、魂を吸われて死んでしまうのです。
彼女がこの街に移り住んできたのは、高名な画家のカール氏にモデルとして見出されたのがきっかけです。それ以前の経歴はわかりません。
カール氏は彼女の絵を無数に残しましたが、わずか一年後にこの世を去ることになります。
その間際、遺作として描かれたのは彼女の肖像でした。
同様に、彼女の絵を描いた直後に死亡している画家がカール氏を含めて五名。
才能を開花させるという甘言を用いて芸術家に近づき、殺害して魂を奪った、というのが、検察側の見解です。
じゃあ、次。調査にあたったエクソシストに……。またいない。
もー。ちょっとカイン君?
☆証人の発言、エクソシストカイン
悪い悪い。ちょっと寝てた。
今回は被害者が多くて忙しかったもんで、疲れてんだよ。
一連の被害者の住居、アトリエ、好んで使った写生のエリア。軒並み調べたが、悪魔の気配は見つからなかった。
しかし、不自然な点はある。
彼女は時折、装飾品やインテリアを捨てるように周囲の人間に強要することがあった。
可能な限り回収してきた物がここにある。
ドアノッカー、ナイフ、彫像、十字架のオブジェ……。
人ならざるものが人の領域へ踏み込むとき、自分にとって居心地のいい環境を整えるために、人を巧みに操って魔除けの類を捨てさせる、ってのはよくある話だ。
実際、捨てられた物の中には十字架もある。この女が十字架を嫌う魔の眷属だって可能性は十分あるぜ。
俺からは以上。
☆証人の発言、彫刻家ラル
俺は前からこの女が怪しいと思ってたんだ。
気に入った女を囲ってモデルを頼むこと自体は、この業界よくある。
通りすがりの女だったり、愛人だったり、縁あって知り合った売春婦だったりな。
この女、どこから来たのか誰にも話さねえんだ。
どうせ、どっかの娼館で拾われた、身売りするしかなかった女なんだろ? カールの財産が欲しくて殺したんだ。
☆証人の発言、行商人ニコラス
私は画家の皆さんを相手に画材や絵具を売って商売をしております。
彼女とは直接取引をしたことはありませんが、彼女の絵を描くからと大量の絵具を買い込む方はたくさんおられました。
中でも、最後の犠牲者であるロビンさんは、たくさん買っていかれましたね。作品の量が量なので、それも当然ですが。
彼女の絵を描くんだ、という人は聞かなくてもわかります。
なぜって、みんな白の絵具を大量に買っていくからです。今着ている白のドレスが、彼女のトレードマークでして。
私自身、商売を優先して筆を折りましたが、一度は画家を志した身です。絵に情熱を傾ける人たちが毒婦の牙にかかるのは見ていられません。
芸術に命を捧げる覚悟を決めた方々の心を、この女は利用したんだ。
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