【第18話】私の最終確認と、お披露目
朝から侍女や使用人が大忙しである。
私はというと、衣装合わせは済んでいて、パーティーの主催は両親なので、パーティー会場の準備とは関わりが無く、ドレスを着る前にお風呂に入る時間までは暇である。
(んー、念には念を入れて、アトリエの“二人っきりの誕生会”の会場を最終チェックしておこうかなぁ……)
お兄様に送った手紙は、半分招待状を兼ねている。
私のアトリエで、お兄様の絵に囲まれ、リアルお兄様に来てもらって、小さなパーティーをするのだ!
それが今回の計画である。
(まさにっ!二人の世界……!ンフフうふうふうふっ!)
絵を飾ったイーゼルを3つ並べた対面に、小さめのテーブルセット、二人だけを照らす燭台やグラスに入ったキャンドル、そこかしこに生けられた薔薇と百合……
(ん〜!マーベラスッ!!)
まるで恋人たちのクリスマスのような会場の出来に、感嘆する。
ここに、摘みやすいお菓子や飲み物を持ってきてもらうのだ。
楽しみにしておいてなんだが、お兄様への賛辞しか出てこなくなりそうなので、若干自分に不安がある。
(ふむ……話題作りにもなるし、お兄様だけに囲まれたくて飾らなかったけど、“あの絵”もやっぱり飾ったほうがいいかも……ちょっと妄想入ってるけど、美幼女無罪を主張しよう)
アニーを呼んで、イーゼルの位置をあーだこうだと調節する。
この忙しい時に、邪魔くさい事を頼む幼女になってしまったが、二人っきりの誕生会の方が、最重要事項なので妥協出来ない!
会場に納得した頃、アニーがお風呂に入れてくれる。
そして、お兄様の色を纏って完全体となった私は、お母様とお父様の待つサロンへと向かった。
(ハハハハハッ!お母様プロデュースの美幼女の見参であるぅー!)
敗北したお兄様以外には、自意識過剰な25歳児になってしまった、残念な私。
精神年齢で言えば、25歳に6年プラスされていてもいいように思うが、すでに精神年齢の成長は頭打ち。
それどころか、若干退化すらしている気がするけど、気にしたら負けである。
サロンに着くと、久しぶりのお父様のアレが待っていた!
「あぁっ!アメリア!なんて綺麗なんだいっ!」
「お父様あぶっ……!ふぎぃーっ!」
「あなたっ!アメリアがせっかく綺麗にしてきたのに、崩れてしまうわっ」
いつものように、お母様からの助け舟がでて、令嬢らしからぬ声を出した私は、気を改めて淑女の礼をした。
「お父様、お母様、このように素晴らしい衣装を用意していただき、ありがとうございます」
「…………アメリア……っ」
「アメリア、とても似合っているわ!世界で一番のお姫様って言ってもいいくらいにね!」
お父様は、私はこれから嫁にでも行くのかと思うような感激具合で言葉を詰まらせているが、お母様も大絶賛してくれた。
サロンで、開場時間まで歓談していたが、途中で「やっぱりアメリアは皆に見せずに隠しておいた方がいいのではないか」と駄々を捏ね始めたお父様を、お母様が優しく宥める場面があった。
溺愛が過ぎるが、それほど今日の私は素晴らしい出来だ。
お父様とお母様は、玄関ホールで招待客のお出迎えがあるので、先にサロンを出た。
招待客の出迎えは、結構時間がかかり立ちっぱなしなので、幼女はお留守番でいいそうだ。
(あーぁ、来年はこの待ち時間をお兄様と過ごせたらなぁ……)
ようやく招待客も揃い、私のご挨拶の時間が来た。
広間へ呼ばれ、ホールより一段高くなっている最奥のステージに続くドアの前で呼ばれるのを待つ。
会場の喧騒がドア越しにうっすらと聞こえる。
(ちょっと緊張してきたああっ!)
前世では大勢の前に立ったことなどなかった事を思い出し、不安になってきたが、「私は美幼女!世界一の美幼女!」と自分に言い聞かせて、必死に自分を落ち着かせる。
去年までは両親に抱かれて、ちらっと前を向いて終わりだったのだ。
今年からは、前世でいう幼稚園児から、小学生になりましたよーみたいな感じで、父兄からの挨拶も受けるが、同年代の子供達とも顔を合わせるのだと聞いていた。
まだ、貴族の顔と名前を一致させて社交をしなさい!の段階ではないが、下手な失敗はしないに限る。
(社会人経験もあるんだから、子供くらい大丈夫っ!)
言い聞かせていると、呼ばれたので使用人の開けたドアをくぐる。
「皆様、これが私の愛娘、アメリアでございます。どうぞ温かく迎えてやってください」
拍手で迎えられた私は、壇上で淑女の礼をとる。
「ご紹介に預かりました、ハワード家長女、アメリア・ハワードでございます。本日はわたくしのためにお集まり頂き、有難う存じます」
そうして顔を上げると、ここで拍手を貰って後ろに下がってよい流れの筈が、会場がシン……と静まり返っている。
(なん?!どうするのこの空気?!下がっていい?!放置でいい?!えっガン見?!)
とりあえず笑っておけとばかりに、笑顔で会場を見ていると、そこかしこから「ほぅ……」とか「はぁ……」とか「なんて愛らしいの……」とかボソボソ聞こえてくる。
「やはり隠しておくべきだったか……」
と、悔しそうな小さな呟きは、お父様からである。
(ええいっ!ここは適当にアドリブで下がるっ)
「それでは、後ほどご挨拶できることを楽しみにしております」
そう言ってもう一度礼をとってから、後ろに下がった。
(全然楽しみになんてしてないけどねっ)
思い出したように、拍手喝采が沸き起こる。
興奮したような声もチラホラ聞こえる中、内心で愚痴る。
考えてもみてほしい。
この世界、お父様のようなお顔がイケメンなのである。
そしてイケメンでない場合、隠されるように育つので、こんなパーティーに出席するなど、ほとんど無い。
出るとすれば、王族が主催する全貴族集合パーティーくらいだ。
つまり、ここにイケメン子息も、イケメンパパも居ないということ……
まず私にとってのイケメンが、パパになれること自体稀だが、高位貴族なら、何とかなる場合もある。
それでも公の場には、極力出ないだろう。
誰が好き好んで侮蔑の目を向けられにくるのか。
そんな人は居ないに違いない。
これから私の前に挨拶に来てくれるのは、自信に満ち溢れたプニプニやブヨブヨやパンパンの君……
イケメン無罪を振り翳してくるのが、私からみたら、「いえ、有罪で」と言いたくなる面々なのだ。
イケメンに耐える心の準備を、ちょっと違う意味でせねばならない。
(っしゃ、バッチこーーい!薙ぎ倒してくれるぅ!)
ーーーき、来ちゃったああああ!耐えて!私耐えて!
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