【第14話】私の画風とアトリエ



 朝、いつものようにアニーに全自動されるがまま身支度をして貰ったあと、朝食へ向かう。


「おはようございます」


「おはよう、私の小さなレディ」


 今日はお母様だけである。

 朝の揉みくちゃは回避された!


「お母様、今日から礼儀作法を習いに行ってもよいでしょうか?」


「ええ、毎日午後のティータイムを含めて教える予定だから、14時にいらっしゃい。私だけでは時間が限られているから、早めに家庭教師をお願いしておくわね」


(おおお!思ったより本格的だ!望むところぉ!)


「はいっ!ありがとうございます!」


 これは、頑張ればかなりの水準に持っていけそうだ!と、最強の侯爵令嬢計画の進展にニンマリする。


 


◇◇◇◇◇◇◇◇




 私室に向かう途中、アニーが「アトリエの準備が整いましたが、寄ってみますか?」と私室手前のドアの前で止まったので、思わずアニーにハグしてはしゃぐ。


「早いわね!ありがとう!本当に誕生日に間に合うかも知れないわっ!」


「おじょ、おっ、お嬢様!もったいないお言葉です!」


 腰に抱きついてぴょんぴょんする私を見て、アニーの顔が大変な事になっていた。

ワタワタと私の周りの空を滑る両手は、きっと抱き返したいけど主人にそれはダメだと自制しているのだろう。


(面白すぎないか?!!その動きっ!ブフフーッ!)


 どう見ても、アニーは私と同じような暴走タイプである。

侯爵令嬢を放り出してぴょんぴょんしている私と一緒!


(今後もよろしくお願いしまーす!)



 アトリエ部屋に入ると、とっても良い感じだった!

流石アニーサスアニ流石サス侯爵家!


 何より嬉しかったのが、油絵はほぼやったことがないので、手探りになってしまうと思っていたが、水彩絵の具も用意されていた事だ。

 ペンタブや液タブなど、そんな物はあるわけ無いので期待しないが、アナログの中でも扱いやすい画材があったのは、嬉しい誤算だった。


(この世界にも水彩画があって良かった!茉莉花漫画家の時の画風でいける画材、助かるっ!)


「水彩もあるのね」


「お色はユリシス様のお色中心に、基本色全て。ペンのインクも水性・油性共にご用意してございます」

 

( 最 & 高 )


「完璧ね!!!」


「ようございました」


「これでお兄様をチラ見でも出来れば言う事ないんだけど、目に焼き付いてるお兄様を私なりにキャラクターに起こしてみようかしら……」


 顎に手をあて、絵の構図を考えながら独りごちる。

 お兄様をこっそりでもウォッチングできる機会があれば嬉しいが、今までを思えば、まず普段は難しいだろう。

 元漫画家の意地で、頭の中のお兄様を、色だけは忠実に再現する方向で行く!


 オタクのファンタジー知識でしかないけど、恋人同士でも、あなたの色のドレスよ(ハート)なんていって貴族は色を重視する傾向があったはず。

 ここでも通じるなら、見てすぐに伝わるはずだ!


(神よ!転生世界よっ……!通じると信じているぞ!)



 神に語りかけるのを忘れない敬虔なオタクである。


「アニー、期限もさしせまっているし、早速とりかかるわ。昼餐の時までこもるから、お茶だけ呼んだらいれてくれる?」


「かしこまりました」


 それから私は没頭した。

 久しぶりの一枚絵は、巻頭カラーを描くような感じだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇




「ーー……っ!」


 息を吸うような音に振り返ると、アニーが後ろに立って、絵をさりげなく覗いて固まっていた。


「ど、どうしたの?」


「指示も的確でしたので、もしやとは思いましたが、その……あまりにもお上手でしたのでって…本当にお上手です!見たことのない画風ですが、お嬢様独自のものでしょうか?!……間違いなく天賦の才で御座います!!!」


(勢いがしゅごいん……まるで推しを愛でている時の自分を見ているようだ……!)


「……アニー、正直に教えて。この絵のお兄様を見て、どれくらいの嫌悪感を感じるかしら?」


「…………そうですね……訊かれて気が付いたのですが、何故でしょう?ユリシス様なのだろうとは分かるのですが、ほとんど嫌悪、とまでは感じません。……?不思議ですね」


「本当?!不思議ね……」


 なるほど……私の画風は、写実的と言うほどリアルに忠実ではない。

少しの夢を詰め込んで、デフォルメしている。

それがうまく本能の嫌悪を回避しているのだろうか?

 綺麗なものを、より綺麗に見えるように、吹いてもいない風を吹かせたり、綺麗だからと光らせたりは、少女漫画のよくある画風だ。


 なんにせよ、これは思ったよりも良い手段だったかも知れない。

 誰が見ても大丈夫ならば、お兄様が見ても大丈夫で、お兄様イケメン説を後押ししてくれるに違いない!


(それにしても、久しぶりにしたイケメンお絵描き、最高に楽しかったわ!一生描いていられるわ!)


「お嬢様、昼餐のお時間でございます」


「もうそんな時間だったのね!わかったわ」


 漫画家時代と大差ない画材のおかげで、かなり捗った。

これなら、色んなお兄様に囲まれる未来も近い!


(ングフフフフフッ)





 午後からはお母様に礼儀作法をならい、その後またアトリエで作業をしたりと、誕生日パーティー前日まで、充実しつつも忙しい日々を過ごした。



 そして、誕生日前日。


 

 もう一つの計画を実行する時だーーー!!!

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