【第12話】私と、この世界の美醜観
「お母様、おつかれでしょうけど、もう一つ……お兄様との未来のために、知りたいことがあります」
自分の言動も疲れからか、素がでて若干怪しくなってきている事を自覚しつつ、見て見ぬふりをする。
幼女特権で、許されると思いたい。
「いいのよ、アメリアを応援するんだもの、何でも聞いてちょうだい」
(……よし!ついに……自分の予想以外の情報が手に入る!)
疲れてはいたが、ここが勝負とばかりに、私は必死に舌を動かした。
「……なんて聞けばいいのか、難しいのですが……お母様やお父様、そして一般的に見て、お兄様の容姿はどのように見えるのでしょうか……?」
私から見ると、前世と、屋敷から出たことのない井の中の蛙な感想としてだが、お兄様は世界最高のイケメン予備軍である。
お兄様はまだ9歳なので、既にイケメンと言っても過言ではないが、本格的にイケメンになるのは、まだまだこれからだろう。
今は天使だが、今後神になるかもしれない。
(期待“大”である!特大と言っていいっ!)
「……そうね、アメリアはお屋敷から出たことがないから、よく分からないかもしれないわね。ユリシスの容姿、造形は、一般的に見ると、出来れば目にしたくない造形……なのだと思うわ」
ーーーーーっ!!!!!
(なっ………!)
「そしてこれは、容姿を貶める事は良くないと自制できる、どちらかと言うと良心的な判断をする人の言い方ね……。そうでない人達は……嫌悪や侮蔑を隠さない。極端な悪意ある人になると、同じ人間と認めない……そんな態度を取る人も少なからず居るわ」
(嘘でしょ……思っていたよりも酷いっ!)
「そ……んな…………理解、出来ません!造形が罪だとでも言うのですか?!」
「……どうしてなのかは、私にもわからないわ。だけど、本能とでもいうのかしら……そんな根本的なところから嫌悪感が湧いてきているという事だけは、何となくわかるわ」
「……本能?趣味や好みではなく、本能……ですか?」
もう訳がわからなかった。
私が居た世界でも”生理的に受け付けない“という感覚が有るには有ったが、それに近いものだろうか?
(でも、人間と認めないってなんだ……!!?それって、拒絶通り越して、迫害してるじゃん!!)
「えぇ、本能だと言ったのは、“嫌だな”と思っても、理性的に、それを態度に出さない努力が出来るから。ただ、それをする人の方が、圧倒的に少ないのが、現実……だと思うわ」
「……………」
……思っていたよりも、酷い状況に言葉が出ない。
本能だと言うのなら、当然の心理ってことで……つまり、理性的な人が普通なのでは無くて、きっと慈悲深い人、嫌悪を露わにする人が、常識的な普通の人位の、私には到底受け入れられない感覚の世界だということーー……
「……っお兄様の必死さは……当然の反応でした……っ」
やりきれなくて、膝に額を擦り付けるように頭を抱えた。
ーーーきっと、同じ扱いをされて初めて、お兄様の気持ちが理解できる……それ位に想像を絶する扱いだった。
頭を抱えたまま、大事な事を聞く。
「お母様と、お父様は……?」
「……造形を好ましくは、見えないわ。だけど、ユリシスはそれが全てじゃないって、私達は思ってる。本能がなんて言ったって、ユリシスを応援するわ!アメリアとユリシス、二人とも私の家族だわ!」
ーーーっ!
「……はいっ。はいっ……!」
何だろう、泣きそうになった。
だって、”生理的に受け付けないのを我慢して笑顔を浮かべる“みたいな簡単な話じゃない。
きっと、もっと根深い感覚に抗って、愛そうってことでしょう……?
ーーー本当に、本当に……
(私のお母様こそ、女神なんじゃないか…………この人が母で良かった。この家に産まれて良かった……!)
遂に涙が抑えきれなくて、涙が膝を濡らした。
「……アメリア……目が腫れてしまうわ?」
お母様は私の膝元に寄り添って、ハンカチを差し出してくれた。
「あぃがとうございまずっ……」
ズッズッと鼻を鳴らすほどのガチ泣きの私を、お母様はそっと抱きしめてくれた。
安心した私は、甘えたくなってポロリと愚痴をこぼした。
「……わたしには、お兄様のお顔が、凄くかっこよく見えるのに、皆、きっと目がおかしいのよっ・・・」
「………………え?」
凄い間があったな、と顔を上げてお母様見て察する。
ーーー私にとってはただの愚痴でも、お母様にとっては、爆弾発言だったのかもしれない。
お母様がさっきより盛大な”きょとん顔”をしていた。
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