【第9話】私の決意と、その着地点



 神頼みとも言える決意をした私は、誕生日に向けて、脳内で自分会議を開催していた。


 美幼女を最大限に活かす!

それには、侯爵令嬢の地位も利用せねばなるまいっ!


 美醜……それがどこまで影響してくるのか、具体的な事はまだわかっていない。

見かける使用人達のやり取りなどと、お兄様の見せた怯えから想像したに過ぎない。


 もし、侯爵家という盾すら飛び越える悪意があるのなら、可愛いだけでも、侯爵令嬢という地位だけでも足りない。

お兄様と堂々と一緒にいる為には、誰にも文句のつけようのない私でなければならない。


 最強の私になるのだ!!!!

私TUEEEで、バッタバッタと敵を薙ぎ倒し、お兄様の未だ見ぬ笑顔をGETする!


(フハッハハ!成してみせようぞ!)


 脳内の中二病が暴走し始めたので、会議中に冷めてしまった紅茶を一口飲んで、一旦落ち着く。

 

(流石アニーの入れたお茶!冷めてもうまいっ!)


 さて、本題に戻ろう。

まず、転生特典なのか、私は既に美幼女である。

 しかし、”可愛いは作れる!”こんな言葉も、前世どこかで聞いた事がある。

つまり、可愛いを上乗せできる筈だ!

そして、侯爵令嬢を活かすには、礼儀作法・教養どちらも疎かにできないだろう。

せっかくの爵位だ…胡座をかくための地位ではなく、私を後押しするものにしなくては。

 

 上位貴族と下位貴族では、作法が違う筈だ。


(読んでた恋愛小説にそんな事が書いてあったもんね!)


 上位貴族としての振る舞いを身につけて、私から後光が差してるように見える……みたいな感じでいくのがいいかも!


(漫画だと、薔薇とか花背負って見えるやつね!ンフフ)


 後は、髪も肌もちゃんと気を遣って……

これはアニーが抜かり無くやってくれるだろうけど、私もサボらない。


そこまで考えて、私が無敵になっただけでは、あまり意味がない事に気がついた。


(ッファアアー!しっかりしてよ!25歳かよ?!)


 お兄様自身にも、私が側にいる事を認めて貰わないとーー!!!

むしろ最重要事項である!


 私のこの、兄様への溢れんばかりの想いを、どう伝えていくかー……

 

(ーーそうだ!)


 前世の技術……武器にもなるかも知れないが、それよりも、推しへの”愛”を伝えるのに、これ程適した技術はないんじゃないか?!


(そう!ファンアート!ファンアートなら、元漫画家の私に任せて欲しいっ!)


「ンフフ……ンフンフンフンフッ……」


カチャン!


(……あ、)


「おじょ、お嬢様、何かいい事がお有りでしたか?」


 脳内会議をしてる間、紅茶を淹れたり、摘めるお菓子を差し入れたりと、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるアニーの存在を忘れて、侯爵令嬢らしからぬ、ヤバめな笑い声を漏らしてしまった。


(正直アニーは信用できそうだから、いっそアニーの前だけは25歳を隠さない事も、やぶさかではないのだけど……)


「ふふっ!そうなのっ!お兄様にアピールする、いい方法を思いついたのよっ!」


(はい、ここでドヤ顔決めます!)


「まぁ!それはよろしゅうございましたっ。……何かわたくしめがお手伝い出来ることは御座いませんでしょうか?」


 アニーは既に“ンフンフ笑い”は記憶の彼方な様子で、「何でも申し付けてくれ!」みたいな顔で意気込んでいる。


「そうね。アニー、こ…えーっと、貴族で絵をかかれる方はいらっしゃるのかしら?」


(あっぶ!危うく”この世界にも”っていいかけたわ!)


 ヒヤリとしたが、なんとか誤魔化して、聞き出したい情報をたずねる。

 侯爵令嬢が、絵を描く事が、やっていい事なのか分からないのだ。

これから侯爵令嬢らしくしていこうとしてるのに、早速脱線するわけにはいかない。


(ファンアートは絶対なので、隠れて描くのかどうか、だけどねっ!)


「はい。趣味として描かれる方もいらっしゃいますし、絵を描ける事は、芸術の教養を持っていると見做されますので、小さい頃に絵の才能を見出された方は、その才能を伸ばすよう指導者を雇う家もあるようでございますよ」


(よっしゃああああ!)


「そうなのね。では、わたしが画材を手に入れることはできる?」


 心の中でガッツポーズをしながら、にっこりと笑って、アニーにおねだりだ!


「勿論でございます。ではわたくしが手配いたします。どのような絵をお描きになりたいかをおっしゃっていただければ、必要な物を見繕って揃えさせていただきます。ご希望も、御座いましたら何なりと!」


(なんか……アニーの忠誠心がしゅごい……)


「うーん……人物画を描きたいの。お兄様の色を、あますことなくっ!そろえてちょうだい!後は……絵ふでの種類は……ありったけ!それから、文字を書くペンも使えるかもしれないわね……まずは、それで!あとは思いついたら言うわ」


「かしこまりました。では早速手配に参ります」

「えぇ、お願いね!」


 アニーを見送ってから、両手の拳を突き上げた。


「っしゃああ!やるぞ!この世界の画材でもやってみせる!お兄様の美しさを世界に知らしめるっ!」



 自分会議の結果、まず最初にやる事が、“お兄様のファンアート”という、素晴らしい着地点に満足である!


(……いや、まてよ?)


 画材が揃うまでもある。

先に、貴族令嬢といえば“アレ”だよね!のカーテシー(貴族令嬢のお辞儀)を習うのはどうだ?!

誕生日パーティーで見せつけられる礼儀作法の、とても分かりやすいものだと思う。

元々、礼儀作法・教養は身につけると決めたし!


「そうと決まれば、お母様にお願いしてみよう!」



 そうして、意気揚々とお母様のお部屋目指して部屋を後にした。

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