【第2話】私と、今世の家族
「お嬢様、お目覚めですか?」
「うぅん、おきているわ」
まだ眠い目を擦りながら、起き上がる。
まだ幼い身体は、完璧な呂律ではないけど、中身が大人の私だったので、かなりしっかり喋ることができていると思う。
私が、おそらく死んでしまって、それから産まれてきたのだと分かってから5年が経った。
産まれた日と、それから翌年から4回、誕生日おめでとう!と両親が誕生会を開いてくれていたので、合計5年。
暦の様なものはまだ正確にはわからないが、日本に似た四季があるみたい。
1ヶ月や1年の日数や、1日の時間もかなり元いた世界に近いと思う。
元いた場所ではなく、“世界”と考えるのは、どう考えても、同じ地球だとは思えないことがあるからだ。
そう、この世界…魔法が存在する!!!!!
私も魔法が使えると良いな……きっと使えるよね!せっかく転生してきたんだから!
毎朝起こしに来てくれる侍女のアニーが、今日もカーテンを開けながら、優しく微笑んでいる。
「おはようございます。お嬢様、洗顔のご用意をいたしました」
「ありがとう」
いつもの様に、洗面器で暖かなお湯を絞った布で顔を拭いてもらう。
この生活にも慣れたものだな、と目を閉じたまま物思いにふける。
“お嬢様”
そう、私!お嬢様なのである!!
この5年間、大事に大事に育てられた私は、ハワード侯爵家に産まれた長女で、アメリアと名付けられている。
つまり、アメリア・ハワード侯爵令嬢が今の私。
侯爵令嬢な私は、朝の準備もアニーが全部やってくれる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
日本で生きていた頃の私は、漫画家だった。
少女漫画を描いていた。
小さな頃から、漫画を読んだり、アニメを見るのが大好きで、いわゆるオタクだった。
その延長線で、お絵かきから始まりイラストや漫画を描くようになり、社会人ニ年目で投稿した漫画でデビューして、それから25歳のあの頭痛の日まで、漫画を描き続けてきた。
前世、と言えばいいかな?日本の私の名前も覚えてる。
漫画の作家名は、
本名を残しつつ、若干の中二病心でつけた名前だ。
オタクだからしょうがないよね?
しょうがないと思いつつも、決して表に出してはいないが、私の脳内はかなり中二病に染まっていた。
例えば、軽いところだと、パステルカラーより断然!黒か白…もしくは原色の色がカッコよくて好きだし、分かりやすいところだと、アニメで好きになるのも、俺TUEEEだったり。
……ハマったキャラクターに様付けで呼んでいたのは、言うまでもない。
(え、みんなやってたよね?)
そんなオタクな私は、イケメンが大好きである。
主に2次元のだけど……。
勿論、漫画家なので、自分でも「俺の考えた最強のイケメン」よろしく、自分の漫画のヒーローは好みのイケメンを描いてニマニマしていた。
(と、当然だよね?)
少女漫画家だから、俺TUEEEを全面には押し出せないけど、結局は同じ様な“スパダリ”を描いていた。
今となっては、どうにもならないけど、連載中の漫画、私が死んだことで、「作者急逝の為」のあの見たことあるお知らせが載って、終わったんだろうな……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そう言えば、産まれた時お尻を叩いたのは、私のお母さんで、産声をあげないから息をしていないと思って、叩いたみたい。
思考はしてたけど、実際あの時の産まれた瞬間の自分が、息をしていたか覚えていないので、ほんとに息してなかったなら、母かつ、命の恩人である。
お母さん…お母様の名前は、アリステア・ハワード。
お父様の名前は、ロメリアス・ハワード。
そして、未だ見ぬ…いや、産まれた日に、まだほとんど見えない目でしか見たことがないけど、兄がいる。
お兄様の名前は、ユリシス・ハワード。
直接伝えられてはいないが、どうやらお兄様は実の兄ではなく、お母様の姉…つまり伯母の息子さんで、私の従兄弟に当たるらしい。
産まれた日には来てくれたのに、それ以来、誕生日パーティーにも出てくれないレベルで引きこもっているらしい。
だから、顔も知らない……。
なぜ教えてもらってないのに知っているかというと、侍女やメイドが私に聞こえても分かるわけないと思って、「お嬢様のパーティーにお出にならないなんて」から始まり、「やはり実の親子ではないし、あの顔では気が引けるのだ」やら、「奥様の姉君の旦那様に生き写しらしい」と眉を顰めて話しているのを聞いたからだ。
実の兄ではないからというのは理解できるが、“あの顔では”とはなんだろう?と疑問だった。
ちなみに、伯母様と伯父様は、事故で亡くなっているらしい。
一人息子で、ひとりぼっちになったユリシスを、妹夫婦のハワード侯爵家に引き取った。
というのが、ユリシスが私の兄になった経緯だ。
ここまで把握出来てしまうとは、まだ幼い私が分かるのが異常だとしても、侯爵家の使用人の方々の口の軽さ大丈夫か?と、ちょっと心配である。
まだ顔も知らぬ兄は、伯父様に生き写しらしいが、伯父様達は私が生まれる前に亡くなっているので、そちらも顔がわからず、想像がつかない。
だけど、私のお母様はビックリする程の美人なので、姉である伯母も美人なんじゃないかな?
その旦那様なんだから、期待できるというもの!
イケメン好きとしては、つい兄がイケメンなのではないか?とちょっと期待してしまう。
家族なんだから、イケメンじゃなくても、仲良くできるといいんだけどね。
「お嬢様、お支度が終わりました。食堂へ参りましょう」
「ええ、きょうはお父様もいる?」
「はい。旦那様もお嬢様とのお食事を楽しみにしておられますよ」
「そ、そう!わたしも楽しみだわっ」
物思いに耽っている間に、完璧に身支度された私は、正直…くっそ可愛い。
欲目なく、客観的に見て、美幼女である。
そんな私の母はビックリするほどの美人だとさっきも言ったが、私はその素晴らしい遺伝子を上手いこと引き継いで、さらに!父の良いところ“だけ”を拾い上げ、将来女神になれるかもしれないレベルなのだ!
……ただ、父の良いところとは、透き通る様なプラチナブロンドの美しい髪“だけ”である。
いや、あの、これは容姿に限った事の話ね?
さっき父が来ると聞いて一瞬もごついたのは、心の準備が出来ていなかったからだ。
父は殊更私を溺愛しており、なんかもう凄いのだ。
……そう、とにかく凄いのだ!
すっごく愛してくれて、嬉しいし、私も父親として慕っているけど、どうしても心の準備がいるのだ。
要るったら、要るのだ。
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