絵に描いたような王子様な兄を、イケメンウォッチングする私の話
ましぇり
ー幼少期ー
【第1話】私、生まれたみたい
「いたっ!……うーーん、痛いなぁ……」
頭痛がする。
それもそのはず、漫画の締め切りに迫られ、不眠不休で作業をしているからだ。
ここ3日程は、しばらく描いては眉間を揉み、しばらく描いては
疲れ目と肩凝りが限界を訴えているのを、騙し騙し作業に没頭していたけど…遂に、痛いと独り言を言ってしまうレベルで頭痛が強くなってきていた。
おそらく疲れ目と肩凝りからくる、いつもの頭痛だろうけど、今回は薬を飲んでいても治まる気配がない。
今回の締め切りは、いつもよりかなり押している。
完全に自業自得だが、大好きだったアニメが有料動画サイトの見放題対象作品に上がったので、1部と2部合わせて100話弱を一気見してしまったのだ。
動画なんだから、好きなシーンの周辺だけ見るという手段も考えないではなかったけど、“大好きな作品はとばさない”という、自分の中の謎の意地の様な誓いのようなものが、締め切り前にも関わらず、アニメ全話一気見という暴挙に及ばせた。
我ながら馬鹿だなと思うし、身体は悲鳴をあげているけど、後悔はしていない!心は満たされている!!
それにしても痛い。
思わずペンタブを放り出して両手で目元を覆った。
「!!!痛っ……いっ!」
あまりの痛みに目を固く閉じたら、目尻から涙が滲んできた。
頭痛で泣くなんて、初めてかも……。
真っ暗な瞼の裏でそんな事を考えながら、机に突っ伏す様に姿勢に変えたら、ふと頭痛が消えて、身体が楽になった様な気がした―――――
………………???
耳元で心臓の音が鳴っている様な、不思議な音がする。
(え、なに?……どういうこと?)
頭は・・・痛くない。
痛くはないけど、目が見えない。
いや、もはや見えてないのか、目を開けていないのかも正直わからないレベルで真っ暗だ……ということがわかるだけだ。
(頭痛くて机に突っ伏して、それから……)
それからの記憶がない。
ぼんやりと頭痛から解放された様な感覚があった気がするけど、それからどうなったのかがわからない。
(もしかして、気を失っていて夢の中って事なのかな?)
自分なりの仮説に辿り着いた時、引っ張られるような、押しつぶされる様な衝撃が襲ってきた。
揉みくちゃにされているとしか言いようがない中で、動けない。
(く、苦しい!ここから出してっ………!助けて!!)
「もう少しです!頑張ってください!……っああ!産まれましたっ!!」
「おめでとうございます!女の子でございますよ!」
(うるさっ!……あぁ、もうなんだったの?!苦しかった!……もう嫌だ!よくわからないけど、産まれたって何?)
なんだかわからないけど、揉みくちゃにされるのが終わったと思うと、女の人の感動した様な声が聞こえてきた。
それからも、複数の女性と思わしき声がザワザワとうるさい。
(そう言えば、なんだか少し明るい様な……?)
瞼に光を感じる気がする。
つまり今は目を閉じてたみたい。
どこでどうなっているのかわからない恐怖で、恐る恐る目を開けてみることにしたとき―――
「泣いてっ!泣きなさいっ!!」
ひどく悲壮な声が聞こえたと同時に、ペシン!っと多分、お尻を叩かれた。
(いっったぁ!)
「んぎゃあぁあぁあっ!」
(え、いったぁ!何してくれんのよ!)
状況がわからない上に、叩かれて痛くて、怖くて思わず泣いてしまった――と思ったら、赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。
というか自分から聞こえた。
(……え?……わた…し?)
「……あぁ!よかっ……良かった!!」
「……!奥様、ようございました!」
―――――という夢を見たんじゃよ。
とはいかなかった…………
どうやら私は、頭痛の原因が、何かの病気だったのか、机に突っ伏した後、死んじゃったんだと思う。
なぜなら、あのとき産まれたのは私だったからだ。
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