第15話「中国への旅」

第十五話「中国への旅」


「それでは、天師会議を始めよう」と大東寺さんが言ったとたん、周囲の空気が一変した。


「まず最初に、魔災レベルの怨霊が一体除霊されたことを諸君は知っているだろうか?」

「はい、承知しています」と國月さんが答えた。


「そうか……。

諸君も理解している通り、これで世界の平和が一歩前進し、あの怨霊にも近づくことができた」

「あの怨霊?」俺は大東寺さんの言葉に首をかしげた。


「ああ、そうだな。

健斗たちはまだ知らないのか…」と伊神さんが言った。


「あの怨霊とは何ですか?」と俺は尋ねた。


「それはな…」と伊神さんが説明しようとしたその時、

「やめろ」と神堂さんが割り込んだ。


「その話は天師や霊皇など上位者のみが知るべき超重要機密だ。

中師に話すのは天師の規則に反する」と冷静に言った。


「確かにそうだが、健斗はあの魔災レベルの怨霊と接触した。

知るべきだ」と伊神さんが反論する。


「それでも、話すにはまだ早い」と神堂さんは言う。


「しかし…」と伊神さんが言いかけると、大東寺さんが口を挟んだ。


「落ち着け。

伊神の言うことにも一理あるが、神堂の言う通り、まだ話すには早いかもしれない。

だから、佐藤君には近いうちにその話をしよう。

それでいいかな?」

「はい、わかりました」と俺は答えた。

すると、大東寺さんは微笑んだ。


「さて、話を続けよう。

これからは、特に魔災レベルの怨霊の除霊に、より一層力を入れてもらいたい」

「はい!」と天師たちは声を揃えて答えた。


「では、天師会議を終えよう。

解散」と大東寺さんが宣言し、天師たちは去っていった。

しかし、大東寺さんは俺と大崎さんに残るようにと言った。


「さて、君たちには話がある」と大東寺さんが言い、俺たちは再び椅子に座った。


「実は、君たちには極秘で中国へ行ってもらいたいのだ」

「え!!」俺は驚いた。


「中国ですか?」と大崎さんも言う。


「ああ、そうだ」と大東寺さんが答える。


「なぜ、俺たちが中国に行かなければならないのですか?それに極秘とは一体・・・」俺が質問すると

「それはね・・・実は最近、中国で人々が度々失踪する事件が発生しているんだ。

霊媒師たちを調査に送ったが、彼らも誰一人戻っては来なかった。」


「なぜ、私ですか?」大崎さんが質問する。


「確か、君には中国に住む古くからの友人がいるそうじゃな?」大東寺さんが言う。


「はい」と大崎さんが答える。


「だから、君に中国へ行って調査してもらいたいんだ」

「わかりました。

行かせていただきます」と大崎さんが言うと、大東寺さんは満足そうな顔をした。


「それで私はなぜ?」と俺は不思議に思い尋ねる。

すると大東寺さんは俺を見て言った。


「それは、魔災レベルの怨霊に詳しい者を一人は同行させた方が良いと思ったからだ」俺はその話を聞き、嬉しそうに頷く。


「なるほど・・・つまり俺が一番頼りになるから選ばれたわけですね。」


「いや、本当は天峰に頼みたかったんだが、彼は仕事で忙しくてね。

春奈君はまだ入院中だし、君に頼むしかなかったんだよ。」


「はあ~、やっぱりそうですか。」

俺は少し肩を落とす。

すると、大崎さんが俺の肩に手を置いた。


「気を落とすな。

天師が中師と共に仕事をするなんて珍しいことだ。

安心しろ、私がいる限り、自分は凄いと胸を張れ。」

大崎さんは笑顔で励ます。


「はい・・・」そうすると、俺たちを見ていた大東寺さんが言う。


「それでは、行ってくれるかな?」

「はい!!」大崎さんは力強く答える。


その後、俺と大崎さん、そして今週まで留守番を我慢できなかったスペーリと共に中国へと出発した。


「なあ、健斗。」

飛行機の中で大崎さんが話しかけてくる。


「何ですか?」俺は答える。


「聞きたいことがあるんだが・・・いいか?」と彼は尋ねる。


「ええ、どうぞ」と俺は言う。

すると彼は少し緊張しながら言った。


「なぜ、霊媒師になったんだ?」

「そのことですか・・・」俺は頭をかきながら言う。


「俺の父も霊媒師だったんです。」


「君の父親が…」

「はい、父は俺にとって偉大な人でした。

ただ、霊媒師という職業は世間ではあまり認知されておらず、学校で話題にすると馬鹿にされることもありました。」


「霊媒師という仕事は、確かに一時期は一般にはあまり知られていなかったからな。」


「でも、俺は父の仕事を一度も情けないとは思ったことはありません。

むしろ、尊敬していました。

父は毎晩遅くまで働き、疲れていてもその日にあったことを話してくれました。

それがとてもかっこよかったんです。」


「なるほど。

大崎さんは興味深そうに聞く。」


「実は、父に一度だけ聞いたことがあります。

なぜこの仕事をしているのかと。

すると父は、『この仕事はね、表では知られていないかもしれない。

でも、裏で誰かのために戦い、人生を救えるのはかっこいいだろう』と笑って言いました。

その答えは子供っぽいものでしたが、父の揺るぎない信念を感じ、誇りに思いました。」


「いい父親だったんだな。」


「ええ、ただ…」俺は寂しげに続ける。


「ある日、父は何者かの怨霊によって殺されました。」


「なんと…」大崎さんは驚いた様子を見せる。


「でも、最後まで父は、『健斗、これからの人生はお前が決めるんだ。

お前ならきっといい人生を歩める。

頑張れ!』と言っていました。

その言葉がきっかけで、俺は父が歩んだ霊媒師の道を選びました。」


「健斗、お前はいい父親を持ったな。」

大崎さんは笑顔で言う。


「はい、自慢の父です!」と俺は笑顔で答える。

そして、飛行機は中国に到着する。


「ついに中国に来たな」と大崎さんは嬉しそうに言った。


「はい」と俺は答え、その後、俺たちは中国で大崎さんの友人との待ち合わせ場所に向かった。

スペーリは興奮してあちこちを走り回り、俺は必死に追いかけた。


「やっと着いた」と、目的の場所に何とか到着した。

スペーリを止めるのに体力を使い果たし、息切れしていた。


「ここが大崎さんの友人が住む町ですか?」と、息を整えながら尋ねた。


「そうだ」と大崎さんが答えた。

すると、どこからか声がした。


「オー。

オオサキ、ヒサシブリネ。」

と、中国の方が片言の日本語で話しかけてきた。


「久しぶりだな、ムーチェン」と、その中国の方はムーチェン(沐宸)という名前だった。


「オオサキ、ソノカタハ?」とムーチェンさんが私を見た。


「今回の私の助手だ」と大崎さんが答えた。


「初めまして、佐藤健斗です」と俺は挨拶した。


「そして、こちらが飼い犬のスペーリです」

「ワン!」とスペーリは元気に応えた。


「ハジメマシテ、ワタシハムーチェントイイマス。」

とムーチェンさんは片言の日本語で答えた。


「日本語が上手ですね」と私は言った。

すると彼は照れくさそうにした。


「アリガトウゴザイマス。」

すると、大崎さんは真剣な顔で言った。


「それで、情報は?」と尋ねると、ムーチェンさんは答えた。


「エエ、ココデハアレナノデ、アルキナガラハナシマショウ。」

そして、俺たちは歩きながら話をした。

なんでもムーチェンさんは友人が多く、その中の情報屋を専門としている人から色々と聞いたそうだ。


「ドウヤラソイツニヨルト、ウラシャカイノ『火怒羅』アルラシインダ。

ソシテ、ソノソシキノボスハホカノヤツラトハチガウラシインダ。」

とムーチェンさんは言った。


「違うって、どういうこと?」と私は尋ねた。


「ソノボスハ、ヒトノフンイキノソレジャナイラシンダ。

」とムーチェンさんは言った。


「それはつまり…」と私が言いかけると、大崎さんが口を挟んだ。


「怨霊…」

「タブン、ダンテイハデキナイガ。」

とムーチェンさんは言った。


「わかった、感謝する」と大崎さんは言った。


「アア。」

と二人は握手した。

その後、ムーチェンさんの案内で『火怒羅』のアジトの入り口に到着した。


「ワタシガアンナイデキルノハ、ココマデダ。」

とムーチェンさんは言った。


「色々とすまない」と大崎さんは言った。


「イインダ、オマエニハイツモタスケニナッテイルカラナ。」

とムーチェンさんは言った。

そして、俺と大崎さんはアジトに向かった。

するとムーチェンさんが言う。


「オオサキ…クレグレモイキテカエッテクレヨ。」


「ああ、必ずな」と大崎さんは笑顔で答えた。

そして、俺と大崎さんはアジトに潜入した。


「これが『火怒羅』のアジトか…」私は目の前のビルを見上げつぶやいた。


「そうだ。

行くぞ、健斗!」大崎さんが言った。


「はい!」俺たちはビルの中に入った。

中は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていたが、俺たちは気にせず進んだ。

しばらく進むと、広い空間に出た。

そこには多くの人々がいた。


「ここは何だ…」見渡すと、場所は円形で、周囲には数メートルの高い白い壁があり、その上には観客席があり、男女が歓声を上げていた。


「これはまるで…」

「闘技場、ということか?」その時、誰かが声を挟んで言った。


「え!」俺たちが前を見ると、全身赤い中国服を着て、黒い靴と帽子をかぶり、辮髪の男がいた。

その姿は信じがたかった。


「子供…?」予想外のことに、その男は身長が150cmほどで、年齢も私たちよりずっと若く、まるで少年のようだった。

大崎さんが言う。


「気をつけろ、健斗。

見た目はそうかもしれないが、この気配は普通ではない。」


「はい。」

俺も神経を集中させると、その少年から異様な気配を感じ取った。

少年は言った。


「待っていたよ。

ようこそ、僕の闘技場へ!」少年は両手を広げて言った。


「僕は『火怒羅』のリーダー、ヤーモン(亞夢)だ。

さあ、君たちも名乗ってくれ!」と、ヤーモンは元気よく言った。


「私は天師の大崎だ」と大崎さんが言い、続けて俺も自己紹介した。


「佐藤健斗です。」

するとヤーモンは嬉しそうに笑った。


「そうか、君たちが僕を除霊しに来たのか。

歓迎するよ。」


「やはり、お前は怨霊か。」

と大崎さんが言うと、ヤーモンは答えた。


「そうだ。」

でも、僕は他の奴らとは違うんだ。

周りから歓声が上がった。


「この人たちは何なんだ…」俺が気になると、ヤーモンが言った。


「彼らは、僕らの戦いを見に来た裏世界の住人たちだ。」

確かによく見ると、そこにいる人々は堅気の雰囲気ではなかった。


「しかし、なぜ闘技場なのか…」

「面白いからさ。」

ヤーモンが答えた。


「面白い、と?」俺が尋ねると、ヤーモンは言った。


「確かに、人目につかないところでやる方が楽だけど、これは闘技場というより、僕が開催する殺戮ショーだからね。

誰かに見てもらって盛り上がらないと面白くないだろう?君たちも、最後の瞬間を皆に見せたいだろう?」ヤーモンは笑顔で恐ろしいことを言った。

大崎さんが言った。


「お前の目的は私たちを殺すことか。」


「そうだよ。

でも、ただ殺すだけじゃない。

君たちは僕が飽きるまで遊ばれるんだ。」


「霊媒師たちもそうだったのか?」

「ああ、彼らは苦しんで、皆の歓声の中で消えていった。」


「くく…」怒りがこみ上げてきた。


「落ち着け、健斗」と大崎さんが言った。

しかし、大崎さんも拳を震わせながら強く握っていた。


「さあ、観客も盛り上がりたがっている。

始めようか。」

ヤーモンが構えを取った。


「ああ…」大崎さんと私も構えた。


『ゴーン!!』銅鑼の音が闘技場内に鳴り響き、二回目の魔災レベルの怨霊との戦いが始まった。


・・つづく・・・


今回のイラストは天師で誇り高い男『大崎さん』です。

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16818093075948607042

次回もお楽しみに!!

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