第13話「救いの手」
第十三話「救いの手」
目の前で驚異的な光景が展開されていた。
天峰さんとアトラスが対峙し、互いに睨み合いながら立っていた。
その圧力は強烈で、まるで俺が吹き飛ばされそうな勢いだった。
「佐藤くん、ほら…」天峰さんはコートの内側から何かを取り出し、こちらに投げた。
それをキャッチして見ると、透明な小さな瓶で、中には透き通った水色の液体が入っていた。
「これは…」と言いかけると、天峰さんが言った。
「霊薬だ。
それを飲めば、霊力が少しだが回復する。」
霊薬…それは、俺たち霊媒師にとって任務に欠かせない必需品の一つだ。
飲むと一時的に霊力を回復させることができる。
「ありがとうございます…」と言い、霊薬を早速飲むと、確かに少しではあるが回復ができた。
「それでは早く、春奈ちゃんを連れて退避してくれ」と天峰さんが指示した。
「はい…」俺は春奈のもとへ急ぎ、彼女を支えて立たせた。
「健斗…ごめん…」春奈は意識はあるものの、かなり弱っていた。
「気にするな、ゆっくり休んめ」と俺が言うと、アトラスが話し始めた。
「お前が自分の相手か?」彼は不敵に笑った。
そして、天峰さんは葉巻の煙を吐き出した後で答えた。
「ああ、そうだ」と。
そして次の瞬間…
「では、死ね」とアトラスは一気に天峰さんに接近し、鉄棒を顔目がけて突き出した。
「速いな」と天峰さんは冷静に対応し、アトラスの突きを防いだ。
「何だ!」アトラスは驚いた様子を見せた。
俺も驚き、天峰さんが防いだ手を見ると、手にはアーミーナイフが握られていた。
それが天峰さんの霊具だった。
「なるほど…アーミーナイフか。
よくそんな小さなナイフで自分の鉄棒を防げたな…」
「まあな」と天峰さんは微笑んだ。
「だが…」とアトラスは言い、鉄棒を空高く投げ、落ちてきたそれを掴んで横に振った。
「くらえ」と言いながら、天峰さんは攻撃を避けるためにしゃがんだ。
そして、アトラスの腹に蹴りを入れた。
「ぐはっ!」とアトラスは苦痛の表情を浮かべた。
しかし、彼はすぐに立ち直り、鉄棒を振り下ろしたが、天峰さんはそれを軽々と避けた。
「くそ…」とアトラスはつぶやいた。
「それ…」と天峰さんは言い、アトラスが鉄棒を振り下ろした隙をついて、得意のアーミーナイフで首を斬ろうとした。
しかし…
「おら!」とアトラスは言い、反射神経が鋭いことを示すかのように、首目がけてきたナイフを腰を後ろに曲げてかろうじて避けた。
「すごい...」俺は目の前で展開される戦いに圧倒されていた。
アトラスは天峰さんの攻撃を避けつつ、反撃もしていた。
しかし、天峰さんはそれを軽やかにかわしていた。
「なかなかやるじゃないか...」とアトラスが言い、鉄棒を振り上げて再び攻撃を仕掛けた。
その時...
「ぐはっ!」とアトラスが苦痛に顔を歪めた。
彼は地面に倒れ込み、右胸にはアーミーナイフが深く突き刺さっていた。
「油断は敵だ」と天峰さんが言った。
アトラスが鉄棒を振り下ろそうとした瞬間の隙を突き、天峰さんはアーミーナイフを正確に投げて右胸に突き刺したのだ。
「今まで様々な霊媒師がここを訪れたが、お前はその中でも最も強い」とアトラスは血を吐きながら言った。
「それは光栄だな...」と天峰さんは葉巻をくゆらせながら言った。
「だが、これくらいの攻撃で自分の霊魂を破壊するのは無理だ...」とアトラスが言い、右胸に刺さったナイフを抜き取り、傷を瞬時に治した。
「なるほど、傷の再生か。
魔災レベルの得意技の一つだな」と天峰さん。
「この技がある限り、自分を倒すことはできない...」とアトラスは言ったが、天峰さんは冷静に葉巻を吸いながら言った。
「どうかな」と。
「ん?それはどういうことだ...あああ!!」とアトラスが突然血を吐いた。
天峰さんがいつの間にかアトラスの腹に拳を打ち込んでいたからだ。
「ぐは!!」とアトラスは後方に吹き飛ばされた。
すぐに傷は癒え、体勢を立て直したが、天峰さんの姿は消えていた。
「どこに行った...」
「ここだ」とアトラスが上を見上げると、天峰さんはすでに上空におり、ナイフを投げつけていた。
「こんなものか!」とアトラスは鉄棒でナイフを打ち落とした。
しかし、天峰さんはすぐにまた彼の前に姿を現した。
「な、貴様!」とアトラスが鉄棒を振り下ろそうとするも間に合わず、天峰さんは彼の顎に蹴りを入れた。
「がはっ!」とアトラスは空中に吹き飛ばされた。
「く、貴様!」とアトラスは鉄棒を両手で掴み、体をモーターのように回転させ始める。
「何だと!?」と私は驚いた。
アトラスは回転しながら天峰さんに迫り、周囲を旋回し始める。
「これで・・・いつ攻撃が来るかわからないだろう・・・」とアトラスは周囲を回転しながら言う。
「なるほど・・・確かにそうだ」と天峰さんは葉巻をくゆらせた。
そして、アトラスは回転を止めて天峰さんの背後に位置し、鉄棒を一気に頭上めがけて振り下ろした。
「死ね!」とアトラスは鉄棒を振り下ろす。
しかし、天峰さんは背後を振り返ることなくそれを軽やかに避けた。
「何!?」アトラスは驚きの表情を浮かべる。
天峰さんは彼の両腕目掛けてナイフを投げた。
「くそ!」アトラスはしゃがみ、その攻撃を避けた。
天峰さんは隙をついてすぐにアトラスに接近する。
「来たな」アトラスはしゃがんだまま体を鉄棒で一回転させた。
「食らえ!」アトラスが天峰さんの足を掴もうとした瞬間、天峰さんは上へ跳び、回避した。
「避けたか...だが、その手は読んでいた...」天峰さんが跳んだ瞬間、アトラスは突きを繰り出した。
「食らえ!」アトラスの突きが天峰さんの腹に見事に命中した。
しかし、彼は動じず、
「何!?」とアトラスが驚く中、天峰さんはナイフを投げて彼の首元に突き刺した。
「ぐはっ!」とアトラスは苦痛の表情を浮かべた。
その瞬間、天峰さんは彼の目の前に現れ、
「くそ!」とアトラスが蹴りを入れるも、天峰さんはそれを軽々と避けた。
「くそ!」とアトラスが蹴りを何度も繰り出すが、天峰さんは全てを避け、
「なぜ当たらない!」とアトラスが叫ぶ中、天峰さんは彼の蹴りをかわし、腹に拳を打ち込んで吹き飛ばした。
「がは!」とアトラスは再び後方に吹き飛ぶが、立ち直るも動きは明らかに遅く、衰えていた。
「く・・は!」と首元のナイフを抜き取り傷を治すアトラス。
「くそが!!」と天峰さんが言うと、
「頼むから、もうこの戦いを終わりにしないか?お前はかなり霊力を使い切っている。
このままだと、間違いなく死ぬぞ」
「黙れ!!」とアトラスが言い、鉄棒を振り下ろすが、天峰さんは軽々と避け、
「くそ・・・」と弱っている様子のアトラス。
「さあ……どうする?」と天峰さんが言うと、アトラスは
「黙れ!!まだ終わっていない!!」と叫ぶ。
「そうか……」と天峰さんが葉巻の煙を吐き出し、
「なら仕方ないか……」と告げる。
その瞬間、アトラスは地面に倒れた。
「何!?」と驚くが、理由はすぐに明らかになった。
彼の足にはアーミーナイフが刺さっていたのだ。
「いつの間に・・・」俺が驚いていると、天峰さんが言った。
「さあな、いつのことだったか…」アトラスは歯を食いしばった。
「くそっ!」彼は鉄棒を天峰さんに投げつけようとしたが…
「だから、無駄だと言っているだろう」その時、アトラスの右腕が突然切断された。
「ぐはっ!」アトラスは痛みで顔をゆがめ、地面に倒れ込んだ。
天峰さんが言った。
「さあ…これで終わりだ」
俺は目の前の光景にただ呆然としていた。
春奈も同じ反応だった。
俺たちは地面に座り込み、ただ起こっていることを見守っていた。
「終わったのか…」俺がつぶやいた。
天峰さんがアトラスに向かって言った。
「さあ、アトラス。
話してくれないか?」
「何をだ?」天峰さんは続けた。
「残りの魔災レベルの怨霊たちのことを。」
アトラスはその言葉を聞いて突然震え始めた。
「お…お前。
どうしてそのことを…」
「さあな、それは言えないな」アトラスは顔を伏せて黙っていた。
「頼む、知っているはずだ。
例えば…」と天峰さんはゆっくり話し始めた。
「赤い目をした男のことを…知っているだろう?」と言われた瞬間、アトラスは大量の汗をかき、体が尋常ではないほど震え始めた。
「頼む、お願いだ」と天峰さん。
アトラスは口を開き、「言…言えない…」と答えた。
「え?」と天峰さんが不思議そうに言うと、アトラスは顔を上げて叫んだ。
「言えない!もし言ったら…自分は…自分は…」と。
その瞬間、アトラスの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。
部屋は中くらいの広さで、非常に暗く湿気があった。
周囲には明かりが一つもなく、唯一の光源は窓から差し込む月の光だけだった。
その光を遮るかのように、男が窓際に腰掛けていた。
部屋の中央で、自分はぼろぼろになって倒れており、窓際の男は心配する様子もなく、ただ笑っていた。
その後、男は立ち上がり、アトラスの頭に足を乗せ、虫を潰すかのようにゆっくりと圧力をかけていった。
男は言った、「いいか、アトラス。
私たちは仲間だ...助け合わなければならないんだ。
これもすべては、お互いの絆を深めるためさ。」
と。
男の顔や服装は暗闇の中ではっきりとは見えなかったが、月明かりが彼の赤い瞳を神秘的に照らし出していた。
「どうした?大丈夫?」アトラスが大量の汗をかきながら震えていたため、天峰さんが声をかけた。
「もし自分がここで情報を漏らしたら...もし、あの人に不利益をもたらすようなことを話したら...」アトラスは小声で呟いた。
「おい...」天峰さんが再びアトラスに声をかけると...
「そんなことできるわけないだろ!」アトラスは叫び、近くの鉄棒を掴んだ。
「くそ!」その様子を見た天峰さんはすぐに行動し、アトラスの体を横から一刀両断して彼の霊魂を破壊した。
「が...は...」しかし、アトラスは死ぬ間際に鉄棒を力いっぱい投げた。
目標は天峰さんや俺達ではなく...
「しまった!」投げた方向は、なんとこの戦艦の怨霊の霊魂がある方向だった。
鉄棒は見事に当たり、霊魂は破壊された。
「ぐは...お前たちもろとも...海の藻屑にしてやる...」その瞬間、船が突然揺れ始めた。
霊魂が破壊されたことで、この船は海中に沈んでいくのだった。
「まずい!佐藤君、春奈ちゃんを連れて逃げろ!」天峰さんが叫んだ。
「でもどうやって?」俺が尋ねると、天峰さんは窓の外を指さした。
そこには戦艦の甲板が見えた。
「あそこから飛び降りろ!」彼は言ったが...
「え?ここから飛ぶの?」と俺は驚いたが、すぐに納得した。
この高さなら、怪我をする可能性はあるが、命に別状はないだろう。
「了解!春奈、行くぞ!」と俺が言うと、
「え?でも……」と春奈はためらった。
しかし、俺は彼女の手を引き、部屋を脱出し、甲板から海へと飛び込んだ。
天峰さんも後に続いた。
「佐藤くん!春奈ちゃん!無事か!」と天峰さんが叫んだ。
「はい、無事です!」と俺は答え、春奈も「私も大丈夫です」と応じた。
その後、戦艦は海に沈んでいった。
俺たちはしばらく海に浮かんでいた。
そして……
「大丈夫か!」という声が聞こえた。
振り返ると、帳の人がボートでこちらに向かっていた。
不思議なことに、スペーリも一緒にいた。
「ああ、大丈夫です」と天峰さんが答えた。
帳の人は俺たちをボートに乗せ、無事に救助された。
そして、俺たちは近くの港で降ろされ、そこで解散した。
その頃、ある廃墟の場所で、窓辺に一人の男が月明かりを眺めていた。
「魔災レベルが一人消えた。
まさかこんな日が来るとは思わなかった...50年ぶりか...」その男は黒い服を全身に纏い、フードを深くかぶって顔は見えない。
手や声は枯れ枝のように乾いており、車椅子に座っていた。
「ついにこの日が来たか...霊媒師め...どこまで苦しめばいいのか...本当に不快だ。
」謎の男は後ろを振り返る。
「聞け...これから我々も本格的に始める...『生物滅亡化計画』を...」謎の男の視線の先には、多くの男女が立っていた。
戦艦の怨霊『ワールドアイランド号』鬼災レベル:除霊完了____。
暗殺の怨霊『アトラス』魔災レベル:除霊完了____。
今回のイラストは上師最上位ランクの『天峰桐生』さんです。
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