第9話「力士の武」
第9話「力士の武」
「くそ~、今日も金欠だな~」とぼやきながら、家で今月の出費を計算していた。
食費や電気代、水道代がやばい状態だ。
横では、ご飯を食べ過ぎて昼寝しているスペーリがいる。
一瞬、スペーリを呆れた目で見た。
「はぁ~、前回の怨霊武将の件で医療費は春奈が20万上乗せしてなんとか払ったけど、それで収入が全部なくなっちゃった。
仕事も最近来ないし、今日は好きなアニメもないし、暇だな~」と思っていたら、インターフォンが鳴った。
出てみると、久しぶりに天馬がいた。
「久しぶりだな、天馬」
「ああ」と返事をして、天馬を家に入れた。
すると、スペーリが起きてきて、俺の頭に乗った。
「で、今日は何の用?」
「よくわかったな、俺が依頼を持ってきたってことを」
「まあな、お前とは長年の付き合いだからな…」と言うと、天馬が質問してきた。
「そういえば、お前、春奈と協力して事件を解決したんだってな?」
「ああ、この前の怨霊武将の時だ」と答えると、天馬は驚いた。
「マジかよ…春奈がお前と組むなんて…」と言うと、ちょっとムッとした。
「悪かったな…でも確かに、あいつは普段人と組むタイプじゃないからな。
俺も正直驚いたよ」
「あいつも変わったな…まあ、それはともかく、任務の話をしようか」
「ああ」
「実はな…最近、K町全域で子供たちが毎晩悪夢を見るという事件が起きているんだ」
「悪夢?」
「ああ、その悪夢は毎晩のように起こるらしい。
そして、その後子供たちは気絶したかのように倒れて、朝まで起きないんだ」俺は頷いた。
「なるほどな…ん?」と言いつつ、健斗は天馬に気になることを尋ねた。
「でも、それを聞いた限りでは、帳の人が天馬に依頼した仕事だよな?他の誰かと組むとしても、わざわざ俺じゃなくてもよかったんじゃないか?」と言うと、天馬の体がビクッと震えた。
それを見て、健斗は何かに気づいたようにニヤリとした。
「もしかして…お前も俺と同じ側の人間なのか?」天馬は黙ったまま別の方向を向いていた。
「そんなにも友達が多い雰囲気を出して、実は俺と同じで少ないのか?」
「うるさい!!」と天馬は殴りかかってくる様子を見せた。
「わかった、もうからかわないよ」と健斗は話題を変えた。
「それで、俺たちはこれからK町に行くのか?」と尋ねると、天馬は答えた。
「いや、その前に待ち合わせがある。
その人と一緒に行動するんだ」と天馬は首を傾げた。
「その人って…春奈か帳の人?」
「そんなわけないだろ。
会えばわかる」と言い、俺はスペーリを連れて天馬と待ち合わせ場所に向かった。
「そういえば、天馬の喰犬はどんな感じなんだ?」と尋ねると、天馬は驚いた。
「え…急にどうしたんだ?」
「前に春奈の喰犬が狐だったから、天馬のも俺とは違うのかなって」と言うと、天馬は答えた。
「俺のは…今はいないんだ」
「え?どういうことだ?」と俺は天馬に尋ねた。
「どうでもいいだろ、そんなこと…ほら、もう着いたぞ」と言い、俺は顔を上げると、待ち合わせ場所はなんとうどん屋だった。
「え?どういうこと?まだ昼前なのに、うどんを食べるのか?」
「そうじゃない。
ここが今日の待ち合わせ場所なんだ」と言い、俺は内心で「ふざけてるのか?」と思いつつ、店に入ることにした。
すると、うどん屋の店員が俺たちに言った。
「いらっしゃい!あ、お客さん、今から3時間待ちですけど大丈夫ですか?」
「え、3時間!?」と俺は驚き、周りを見回した。
店内はガラガラで、誰もいなかった。
「失礼ですが、空いていますね」と言いながら、俺は厨房を見た。
そこではスタッフが忙しく働いていた。
「ええ、実は一人のお客さんがうどんを次々と食べていて、仕入れが追いつかないんですよ。
これで何十杯目かな」と店員が言った。
「何十杯!」俺はその数に驚いた。
天馬が店の奥に向かったので、俺も彼の後を追った。
そこには、普段は見かけないちょんまげ頭の、浴衣姿の巨漢がいた。
彼は一度も箸を休めることなく、うどんを夢中ですすっていた。
テーブルにはたくさんの皿が積み重なっていた。
「金猷山先輩」と天馬がその男性に声をかけると、男性はようやく箸を止めてこちらを向いた。
彼の顔はふっくらとしており、笑顔が溢れていた。
「おお、天馬じゃないか。
久しぶりだね」と彼は穏やかな声で言った。
「お久しぶりです、金猷山先輩」と俺は答えた。
「ん?天馬、この少年は誰だ?」と金猷山先輩が尋ねたので、俺は急いで頭を下げた。
「あ、初めまして。
俺は佐藤健斗です」と自己紹介した。
「おお、君か。
天馬から話は聞いているよ。
うちの春奈と仲良くしてくれてありがとう」と金猷山先輩が言った。
「いえ、そんな」と俺が答えると、ふと言葉に引っかかりを感じた。
「すみません、『うちの春奈』とは?」と尋ねると、
「え?知らなかったのかい?春奈は私の娘だよ」と金猷山先輩が答えた。
「えっ!」俺は大きく驚いた。
しかし、天馬は驚いていない様子だったので、彼はそれを知っていたらしい。
「まあ、義理の父親だけどね」と金猷山先輩が付け加えた。
「義理の父親とは、本当の父親ではないということですか?」と俺が尋ねると、
「そうだが、赤ん坊の頃から愛情を持って育ててきた」と金猷山先輩が答えた。
「そうだったんですね」と俺は春奈の過去について少し理解が深まった。
「さて、立ち話もなんだから、そろそろ行こうか」と金猷山先輩が言い、立ち上がって下駄を履いた。
「行くって、どこへですか?」と俺が尋ねると、
「K町に決まってるだろう」と金猷山先輩が答えた。
その後、彼は支払いを済ませ、どうやら帳簿の人と待ち合わせているらしい。
私たちは町中を歩いて向かった。
「金猷山先輩は、見た目からも分かる通り力士だよな。
本当に体が大きい。」
と俺が天馬に言うと、彼は座っているだけでもその大きさが分かるが、立ち上がるとさらにその大きさが際立つ。
金猷山先輩は町の歩道を歩くと、大仏のような圧倒的な存在感を放っていた。
私は心の中で(力士ってみんなこんな感じなのかな)と思った。
「金猷山さんは霊媒師の中でも高位に位置し、参加した相撲の大会では300戦無敗という男だからな。」
「300戦無敗!?信じられない!」俺は再び金猷山さんを見た。
その体格からは信じがたいが、本当のことのようにも感じられた。
「本当に凄い人なんだよ。」
天馬がそこまで言うのは珍しいことだった。
金猷山さんは俺たち後輩にとって憧れの存在なのだろう。
その後、俺たちは車に乗り、K町にある悪夢に苦しむ子供たちを支援する病院へと向かった。
「あっ、金猷山さんだ!」
「本当だ!また来てくれたんだ!」子供たちが病院の外に集まり始めた。
金猷山さんは笑顔で手を振り、子供たちは喜んでいた。
俺はその光景を見て、心の中で思った。
(やはり、彼は凄い。)
その後、俺たちは病院の中に入り、眼鏡をかけた院長らしき人物に迎えられた。
「よく来てくださいました、金猷山さん。」
「いつもお世話になっています。」
「いえいえ、こちらの方々は?」院長は天馬と私を見た。
「初めまして、天馬です。」
「こちら、佐藤健斗です。」
俺たちが自己紹介すると、院長は言った。
「私はこの病院の院長です。」
「院長さんですか。」
「はい、金猷山さんには大変お世話になっています。」
天馬が言った。
「それはさておき、本題に入りましょう。」
俺たちは院長の部屋に向かった。
どうやら見せたいものがあるらしい。
途中、心のケアを受ける子供たちとその保護者で長い列ができていた。
眠れないことで心に負担がかかる子供が増えているらしい。
そして、院長室に入ると、多くの資料が並んでいた。
「これは…」天馬は驚いた表情を浮かべた。
院長は引き出しからある資料を取り出した。
「これです」と院長は言い、出されたのは脳波のグラフでした。
「これは子供と大人の脳波を比較したものですが、ここをご覧ください」と院長が指差した箇所は、大人では正常範囲であるにも関わらず、子供では脳波が異常に高かったのだ。
「30人の子供たちで調査した結果、全員が同じ異常を示しました。
これは推測ですが…」と院長が続ける。
「子供たちは、大人には聞こえない音波を拾っているのではないでしょうか。
それも非常に大きな音波を。
そのため脳に大きな負担がかかり、悪夢を見ているのではないかと考えられます」
「理解しました」と答えた後、俺たちは病院を出て車で移動しながら作戦会議を行なった。
まずは、異常な脳波の原因を突き止めることが必要だ。
「しかし、どうやって調べるのか?」と問うと、金猷山さんが提案する。
「まずは地域の人々に聞き込みをしてみましょう」
「賛成です」と俺たちは聞き込みを開始しました。
すると、ある住民が言った。
「そういえば、ある人形を買ってから悪夢を見るようになったと聞きました」
「人形?」と俺たちが尋ねると、その住民は家から小さな赤ん坊の人形を持ってきました。
直径10センチのそれを見て、
「それをお借りしてもよろしいですか?」と尋ねると、住民は快く貸してくれた。
人形を手にした天馬が険しい顔をすると、
「金猷山先輩…」と天馬が人形を金猷山さんに渡すと、彼も同じような表情を浮かべた。
「これは凄い…この人形には怨念がしっかりと染み込んでいる。」と金猷山さんが俺たちに告げる。
「とりあえず、事務所に戻って再度作戦会議をしましょう」と言って、俺たちは車で事務所に向かった。
調査の結果、悪夢を見た子供たちは全員その人形を持っていた。
「地域の人々の証言によると、その人形は配達箱の中に入っていたそうです」と帳の人が言った。
「配達箱?」と首を傾げる天馬に、帳の人は答えた。
「はい、その配達箱には送り主の名前も住所も商品名も書かれておらず、中にはその人形が一体だけ入っていました。」
「捨てようと思わなかったんですか?」と俺たちが尋ねると、「その配達箱は、捨てても次の日にはまた戻ってくるんです」と帳の人が言った。
「気味が悪いですね…」と俺たちは話し合い、とにかくその人形を調べることにしたが、結局何も分からなかった。
「見たところ何のしかけもない…では、次の調査に移るか」と俺は金猷山さんに提案した。
「次の調査?」と彼は尋ねた。
「そう、子供が悪夢を見るのは夜ですから、その日に何が起きるのかを調査しよう」と私は言った。
「なるほど、それは良い考えかもしれませんね…では、夜にまた集まりましょう」と彼は言い、俺たちは解散した。
夜になり待ち合わせ場所に集結し俺たちは子供が悪夢を見ると言われていた家の外で様子を伺った。
「本当に起こるのかな?」と俺が尋ねると、天馬は答えた。
「帳の人たちの調査によると、その時間帯に子供の叫び声が聞こえるそうです」。
俺たちはじっと待っていた。
すると、どこからか苦しそうな声が聞こえてきた。
「う~…あ~」という声だった。
俺は思わず、「何だ、今のは…」とつぶやいた。
すると金猷山さんが私に言った。
「静かにしろ、佐藤健斗。」
その時、窓から紫の光が見えた。
「今のは…」と俺たちが驚いていると、光が出ていた窓が開き、赤ん坊の人形が飛び出してきた。
「あの人形が動いている!」と俺は言った。
金猷山さんは、「昼間は何もなく、夜になると仕掛けが作動するのか」と言った。
さらに驚くことに、チリンチリンと鈴の音が聞こえ、空から人影が近づいてきた。
その人影は透き通った全身で、エプロンをつけたメイド服を着てベビーカーを押していた。
間違いなく怨霊だった。
「金猷山さん、あれは…」と俺が言うと、「静かに」と彼は言った。
しばらくすると、その怨霊は赤ん坊の人形のところに来た。
ベビーカーにはその赤ん坊に似た多くの人形が入っていた。
「これで全部ね。
これで、あの子を苦しめることはないわ」と怨霊は言った。
(あの子に…?)と私が不思議に思っていると、怨霊は人形をベビーカーに入れ、俺たちに気づかずに空に飛んで行った。
金猷山さんは、「これでわかった。
あの人形が悪夢を引き起こしていたんだ」と言った。
天馬が、「でも、なぜそんなことを…」と尋ねると、金猷山さんは、「わからない。
とにかく、あの霊を追跡してみよう」と答えた。
健斗が、「追跡って、どうやって?」と尋ねると、天馬はスマホを取り出し、「これで追跡する。GPSを人形に付けておいたんだ」と言った。
「えーG!GPSのこと、俺には一言も言われてなかったぞ」天馬が平然と答える。
「それは、お前がちゃんと聞いていなかったからだろう」(いや、これは絶対に天馬が俺に言いたくなかったんだ)と俺は心の中で呟く。
「えっと、出ましたね。
この先5キロ進んだところで止まりました」
「よし、じゃあ行こう」俺たちはその怨霊を追いかけたが、そこは行き止まりだった。
「え?どういうこと?天馬、本当にここでいいのか?何もないけど…」
「そんなこと僕に聞くなよ!…でも確かにここで間違いないんだ」金猷山さんが言う。
「ここで間違いない…ここだ」
「「え?」」俺と天馬は金猷山さんが指さす方を見ると、それはマンホールだった。
「まさか、ここにその怨霊がいるっていうんですか?」
「ああ、間違いない」金猷山さんは俺たちに勾玉を見せる。
その勾玉はしっかりと反応していた。
「じゃあ、開けよう」金猷山さんはマンホールの蓋を開けた。
すると、そこにははしごがあり、俺たちはそのはしごを下りると、そこは長い地下水路だった。
「行くか…」
「はい」俺たちはその地下水路を進むと、やがてドアが見えてきた。
勾玉はその先を指していた。
「ここか…」
「はい」ドアを開けると、そこには広大な空間が広がり、周囲には数多くの人形が置かれていた。
「ここは…一体?」
・・・つづく・・・
今回は上師のトップレベル『金猷山さん』のイラストです。
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