第二十四話 白椿館で得た情報 下
ユリカとアカシの喧嘩が落ち着いた後。
ホノカ達は全員を集め、そして会議室の席について、隊員達が集めてくれた情報をまとめる事にした。
「それではイチコさん、教えてくれますか?」
「はい。間内キヨコさんの客は、高畠ソウジで間違いありません。毎日ではありませんが、足しげく通っていたらしいわ。金払いも良かったそうだし。だけど……どうも、キヨコさんは高畠社長に困っていたみたいなの」
「困っていた、ですか? どういう風に?」
「高畠社長は、確かに話だけして帰っているのは事実らしいわ。でも、その時にしつこく言い寄っていたり、気持ち悪い事を言ってきたりする、とキヨコさんは同僚や支配人に漏らしていたそうよ」
「気持ち悪い、ですか……」
そう呟いて、ホノカは高畠の言動を思い出す。
高畠ソウジは基本的な振る舞いは紳士だ。
だが、ホノカが話した時は、妙に距離が近い。手や髪を取られた時は、ホノカ自身もそう感じだ。
あれは単に自分がそういう事が苦手だからかな、と思っていたが、どうやら他の人間からしても
ふむ、と思っていると、隣でヒノカが「やっぱり首を……」なんてボソッと呟いていた。
「参考までにどんな事を?」
「穢れる前に私が助けてあげたい、とか」
その言葉に、女性陣が「うっ」と顔を顰める。
「言葉選びが気持ち悪いのであります……」
「本当です。その仕事を、仕事として選んだ人に対して失礼ですよ」
憤慨するヒビキを見て、アカシが意外そうに片方の眉を上げる。
「へえ? 俺ぁてっきり、破廉恥だの何だの言うと思ったんだがよ」
「確かに内容は……その。明言するのは避けますけれど。仕事は仕事です。国が許可した仕事に対して、どうこう言う権利は誰にもありません」
ヒビキははっきりとそう言った。
その考え方はホノカも嫌いではない。仕事は仕事。そうなのだ。どんな仕事であっても、認可された物であれば、とやかく言うものではない。
ホノカは「そうですね」とヒビキに同意した後、
「ですが、その言葉を選んだならば。――――本物っぽさがありますね」
と続けた。その言葉にヒノカも頷く。
するとセツが首を傾げた。
「えっ本物の変態でありますか?」
「いえ、それに関しては……まぁ否定はしませんが、主観がありますので、私も名言は避けますが。そちらではなく、切り裂き男の、です」
ホノカの言葉に、隊員達がぎょっと目を剥く。
すると今度はヒノカが口を開き、
「切り裂き男はね、被害者に対してよく『穢れている』とか『穢れる前に助けてあげたい』とか、そういう事を言っているんだよ」
と補足した。
すると真っ先に反応したのがユリカだ。
「ただの変態じゃありませんの!」
「うん、そこは否定しない。基本的に変態だし、人を殺した時点で非道、ただのクズだ」
そう話すヒノカは表情こそ落ち着いているものの、目は笑っていない。
と言っても、それは隊員達に向けた感情ではない。切り裂き男に対してだ。
切り裂き男の話をする時、ホノカの双子の弟はいつも静かに怒っている。
「切り裂き男の被害者については知っているかい?」
「ええ。確か……被害者はほぼ女性で、娼婦が多かったそうですね」
「そうです。それで当時の証言に、今回、高畠社長が言ったのと同じ言葉が出てきます」
話していると、ホノカの脳裏に過去の記憶が蘇る。
――――アァ、美しい、本当に美しい。穢れる前に、ちゃぁんと私が導いてあげなくちゃ……。
あの時の、鼓膜を震わせるような、気味の悪い声と言葉。
思い出して吐き気がこみあげてきて、ホノカが僅かに眉を顰める。
「でも、そのお話……間内さんの所で働いている家政婦さんの証言と同じでありますね」
「ああ。それで、逆に高畠社長の言葉とは微妙にズレている」
そこで、とヒノカは人差し指を立てる。
「アポイントが取れ次第、再び高畠ソウジ氏に会いに行きたいと思っている」
「事情聴取でありますか?」
「いえ、表向きは黒鋼丸のお詫びに。今日、あの子が高畠社長の手を引っ搔いたんですよ」
「え? あんなに人懐っこい子なのに?」
ヒビキが目を丸くする。
そう、人懐こい子だからこそ高畠に威嚇した事に意味があるのだ。
するとイチコが、
「そう言えば、白椿館に勤めている方が、キヨコさんが猫の餌を買っていたと言っていたわ」
と言った。
なるほど、その猫が黒鋼丸の事を指すのならば、より高畠ソウジが間内キヨコを殺害した犯人である可能性が高くなってくる。
「……隊長は今、表向きと言いましたね。なら、裏の理由は何ですか?」
話を聞いていたウツギが、顎に手を当てながら聞いてきた。
ホノカは頷いて答える。
「高畠邸のコレクションルームに、ウツギさんも入りましたね」
「はい」
「あの部屋で私は、御桜ミハヤの蒸気装備<天照>らしき太刀を見ました」
そうホノカが言うと、隊員達の表情が変わる。
目を見開いた者、思わず立ち上がりかけた者、様々だ。
「ミハヤさんの!?」
「確証はありません。ですが、見た目は同じでした」
「屋敷に入って、その太刀を調べる事。それが本当の目的だ」
一度、会議室が静かになった。
会議室にいた隊員達全員が、ミハヤの太刀の情報に驚愕の表情を浮かべている。
あの太刀が本物の<天照>だったら。
それを調べる事で切り裂き男の事が判明すれば、今の事件も、過去の事件も解決出来る。そして何より、未来に起こりうる事件も止める事が出来る。
だから、と双子は続ける。
「犯人は<怪異因子>を操る可能性が高いです。何が起こるか分かりません」
「全員、いざという時のために、準備だけは怠らないように」
双子の言葉に、隊員達は揃って「はい!」と答えたのだった。
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