帝都御桜怪異奇譚

石動なつめ

 茜色に染まる空の下、桜の花びらが舞う煉瓦街。

 和と洋の織り交ざった独特のディティールが特徴的な建物の間を、白と黒の髪色をした白色の軍服の少年少女が走っていた。

 

 白髪の方の少女が御桜みさくらホノカ。

 黒髪の方の少年が御桜みさくらヒノカ。

 歳はどちらも十六歳の、双子の姉弟である。

 二人はそれぞれの手に得物を携えている。

 ホノカは金色に光る機械仕掛けの長銃を、ヒノカは同様の作りの太刀を。

 それらを手に持ち、双子はとあるものを追いかけていた。 


 彼女達の眼前を走るのは大型犬の形をした漆黒の影だ。

 あれは<怪異因子かいいいんし>と呼ばれる、人に害を成す存在である。

 ホノカとヒノカは、仕事として、あれを討伐しに来ているのだ。


「御桜より本部へ。<怪異因子>は大通り三番、ランプ堂付近を逃走中」


『了解。その先は閉鎖済みだ。追い込んで、速やかに討伐せよ』


「了解しました」


 左耳につけた通信機での本部とのやり取りを終えると、ホノカは目だけを双子の弟に向ける。


「誘導します。ヒノカ、始末は任せます」


「了解!」


 ヒノカは短く返事をすると、走る速度を上げる。

 反対にホノカは足を止め、膝をつき、長銃を構えた。そのまま銃口をぴたり、と<怪異因子>へ向ける。

 狙うのは<怪異因子>の移動手段。四本の足の一本だ。

 狙いを定め、ホノカは引き金を引く。

 すると銃口から放たれたのは、金色の炎を纏った弾丸だ。

 弾丸はヒノカを追い越して、吸い込まれるように<怪異因子>の後ろ脚を貫通する。

 弾が当たった途端に<怪異因子>はギャン、と悲鳴を上げた。


 よし、とホノカは頷く。

 <怪異因子>の走る速度がみるみる遅くなっていく。

 もう間もなく、ヒノカが追い付く。

 これで解決だとホノカが思っていると、その時だ。


 ヒノカと<怪異因子>の間に、同じく白色の軍服を来た少年が飛び出してきた。


「ぼぼぼ、僕が相手だッ!」


 震えて、上ずった声で。少年はそう叫ぶと、手に持った刀を振り上げた。 

 そのとたん<怪異因子>は振り返る。

 逃げられないと判断した<怪異因子>は、迎え撃つ選択をしたようだ。がばり、と口を開ける。黒い影の中から、赤い口と尖った牙が見えた。


「ひい!?」


 それを見て、飛び出して来た少年は腰を抜かした。

 まずいとホノカは判断し、長銃を構えて再びもう一度、撃つ。<怪異因子>の気を反らすためだ。

 炎の弾丸は<怪異因子>の顔を掠る。


「ヒノカ!」


「まかせて!」


 ほんの一瞬<怪異因子>の動きが鈍くなった。

 その瞬間を、ホノカの双子の弟は見逃さない。

 構えた太刀の刃に金色の炎が灯る。

 ヒノカはぐっと両手で太刀を握ると「せい!」と掛け声とともに<怪異因子>を横に一刀両断した。

 炎が美しい弧を描く。ぱちぱちと火花が飛ぶ。その一部が、腰を抜かした少年の髪をチチッと焼いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る