【第4講】〜君の願い、彼の思い4〜


 これは本当の私の記憶か分からないが、過去の叔母の対応を思い出すと少し辻褄が合う。

 叔母は養子に入れてくれたわけだが、その理由があの二人の苗字を持っているのは辛いだろうと言う理由だった。

 叔母夫婦は私に親身だったし優しかった。


 これは幼少期だろうか、流れ込んでくる情報が多すぎて、自分でも分からない。父が私をつかみ上げ、容赦なく殴ってきている様子だ。

「お父さん、やだ!

 痛いっ!

 助けてお母さ……あ、うう……」


「あら、いいじゃない。

 私たちの子なんだからどんな風に扱ったって」

「君に理解があって助かるよ」


 時間は流れていき、私は無口なひとりぼっちの子供だった。

 体は見えないところに傷がたくさんあった。

 多分10歳だろう、夜、公園で遊んでいた。家に帰るのが怖かった。


「ねえ、お嬢さん。

 こんな時間にどうしたの?」

「……誰?」

「僕はね、吸血鬼だよ。

 こんな時間に歩いていると僕みたいなのに見つかって、危ないよ」


 月みたいな声そう思った。

 月明かりに照らされて、赤い髪の毛が、キラキラと煌めいて、赤い月みたいだった。少し長めの髪の毛が風でふわっと浮き上がり、瞳が見えた。

 赤色。


「綺麗……」


 私は臆病ながら、お兄さんの顔に手を伸ばした。


「危ないよ。

 だめだよ」

「そう言ってる人、危なくないと思うの」

 私は綺麗な白い頬に手を当てた。そうすると、お兄さんの手が私にかかった。

 冷たい。でも、なんだか温かい。


「どうして、家に帰らないの?

 親は心配しないの?」

「……」

「言えない?」


 お兄さんは何かを察したように、私のお腹辺りに手を当てた。

 ずっと痛かった痛みが和らぐのを感じた。

 少しめくって見ると、アザが消えて無くなっていた。


「なんで?」

「魔法みたいなものだよ。

 たまにおいで、僕が助けてあげるから

 気をつけてお帰り、僕はまたここにいるから」

「……」

「帰りたくない?」

「頑張る。

 お兄さんまたここいる?」

 

 私が不安げに見上げると、お兄さんはにっこりと笑って私の頭を撫でた。

「大丈夫だよ。

 明日もおいで。 待ってるから。

 夕方くらいからいるから」

「分かった……」


 印象は優しい吸血鬼のお兄さんだった。

 そこから家族からの虐待とお兄さんの治療が始まった。

 毎日毎日行われるこの行為で、私は気づいたら好きになっていたのかもしれない。

 お兄さんに会うと、忘れていた笑顔が出たし、いつも優しくされていた。


「ところでさ、普段なんて呼ばれているの?」

「紗羅だよ」

「紗羅?」

「そう、あとはお前」

「お前はやだなあ、紗羅ちゃんって呼ぶね」


 それから長い月日がすぎ、14歳になった。お兄さんの部屋に入り浸ったりすることもあった。

 多感な時期で、緊張したがお兄さんの前だと何も緊張がなかった。

 こじんまりとした部屋に少ない荷物。

 帰宅するために、お兄さんが危ないからついてきてくれた。

 私とお兄さんがあっているところを母親に見つかった。

「お前、言ったわけ?」

 母は私にそう言った。

 私を引っ掴んで、家に引きずっていく。

 お兄さんの方を見ると、堪え難そうな顔をした。


 家に入るなりビンタされた。

「で、言ったわけ?」

「……言ってない」

「ふうん、彼氏ってやつ?」

「違う。仲良くしているだけ」

 その瞬間、今働くのをやめている父親が私に殴りかかった。

「嘘ついてんな」

「助けて!」

 名前も知らないお兄さん。お兄さん、こんな家族いらない助けて。助けて。

 助けて、お願いだから幸せな時間を頂戴。


 バン


「そうやってるわけですね」

 お兄さんはどうやってきたか分からないが、ドアが開いた。

「いいよ、助けてあげる」

「は?」

 母親は怪訝そうにしていた。

 するとナイフを取り出して、母親を2度3度頸動脈を刺した。

「は? お前何して……!」

 父親を同じようにはいかず暴れるため、何度も刺していた。


 私は絶句して、状況を見ていた。

 心配そうな顔をする血まみれのお兄さんが言った。

「君の過去を幸せに変えたくないかい?」

「そんなことできるの?」

「僕は変わった吸血鬼でね。

 血を交換しても何も抵抗がないんだよ」

「血の……交換?」


 不思議そうな顔をすると細かく説明をしてくれた。

「血の交換というのはね、君を吸血鬼にするものなんだけど、僕の寿命の半分を上げることでできる。

 君の記憶の改竄も同時にできるんだ」

「そうなの?」

「幸せになりたいよね?」

「なれるの?」


 そして、私は首筋をお兄さんに差し出した。感覚はわからないが倒れる直前でやめてくれた。

「王族の血よりもよっぽど美味しいな」

 呟いたのが聞こえた。

「君も吸血鬼になっているから、血を飲んで、僕が吸ってた分だけ吸えばいいから」

 そして私はお兄さんの首筋に上手くできるかわからなかったから強く噛んで血を吸った。

 すると、だんだんと気が遠くなっていくのを感じた。

「隣にいるよ。必ずいるよ

 形は変わってしまうけれど」


そうして璃美は目が覚めた。

「どちらが本当かわからない」

そう言うと、璃美は不安を感じながら寝ていた布団を出て、緋樹の元へと向かったのだった。

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