【第3講】〜 見えない課題を探す人たち1〜


 噎せ返る濃くて薄い同属の血の匂いがする。

 ホテルとでると思ったとおりの匂いがした。

  櫂斗は取とただ歩いていただけだというのに、そんな血の匂いを嗅ぐなんて思いもみなかったので驚いた。


 甘い香りはただ吸血鬼の気を狂わせる。

 一部の吸血鬼の話だが、血が取れてない吸血鬼にはその匂いは芳しいものとしてとれ、血の奴隷と成るのだろう。

 

 俺の近くに吸血鬼が居るなんて、ここ最近見たことがない。

 普段吸血鬼から身を隠しているが、絶対見つからないと踏んだ道を通っている時に出くわす吸血鬼はなかなか居ない。


 その、珍しい吸血鬼が道をショートカットする為に通った公園に、一人居た。 栗毛をした青年で月光と電灯の光を射されていて、顔は見えないがとても綺麗に

見えた。

 青年はこちらをジッと見て、ほっと息をついている。きっと今の第一王子なのだろう。姫が男なのを嫌がるのは当たり前だ。


「懐かしい匂いですね」


 駁からするともう懐かしい匂いなのだろう。

 櫂斗からしてしまえばまったく懐かしくないくらい最近嗅いでいる匂いである。けれど、元人間の駁にとっては違うのか、と櫂斗は思って、適当に相槌を打った。


 昔の俺なら切って捨てるだろうな。

 そんな言葉。

 一人心の中で独白する。 気が狂いそうなアノ

 日々から開放された今だから思えることだ。



 公園を出ると王子の心を読んだらしいが極斗に不思議とばかりに声をかける。

「あの王子様 山岡っていう女の子のこと考えてましたよ。 姫を探してるのに……これって浮気ですかね?」

「さあ、王子も不自由だからな」

「にしたって王と姫が仲悪いと吸血鬼界が分裂するから仲良くあって欲しいよ」

「へえ……あ、王子、夜紅学園に要るらしいですよ」

「は?」

「知らないけど、いるみたいです。 あと赤城は赤い髪ともなんか考えてて、 櫂斗さん、どうして黒いんですか髪」


 櫂斗がしげにかきあげる髪を見ながら不可思議げに見る。 櫂斗は懐かしむような顔で駁の話を聞くと自嘲気味に笑った。


「あーコレ? 染めた。 目立っちゃうじゃん赤なんて」

「確かにそうですね」

「つーか、すれ違った人間の考え覗くのはダメだろ?」

 はーいと心にも思っていない返事を敷はする。

 死に掛けの足を引きずるように進ませて、ふたりばったり会話をやめて、夜紅学園に向かった。


 公園から10分程度歩くと、夜紅学園がある。一つの村くらいスッポリ入りそうな程大きで、異常なほどの威圧感を発していた。


「でかっ。金かけてるよーって建物が言ってる気がします」


 驚きを隠せない様子の取がきょろきょろとせわしなく周りを見ている。 開けられた門を通っ来賓玄関のチャイムを鳴らす。

 すると向こう側から声がする。

「はい」

「あの、こちらの学校に入りたいと思っている赤城櫂斗と、平居駁です」

「あぁ、ちょっと待ってくださいね」


 女性の教員がでてきて、来賓玄関を開ける。 極斗とを見て不可解そうな顔をする。

 赤い髪をしている赤城の人が見えないからだろう。


「僕が赤城櫂斗です。 こっちが平居駁です」

「…はぁ」


 歯切れの悪い返事で、こちらに来てくださいと続ける。

 クツからスリッパに履き替えると教員の後ろをついて歩く。 どこに連れて行かれるのだろうと、一抹の不安を覚えながらも歩いていくと、 校長室に通される。


「夜紅学園では全て校長を通して行うので、こちらにお入りになってください」

「はい」


 開けられたドアから中に入ると優しそうな顔をしたら初老の吸血鬼がまるで来ることを知っていたような顔をして座っている。


「ようこそ、 赤城くん、 平居くん。 さぁさぁ、そこにある椅子に座って座って」

 校長はにっこりと笑って、閉められたドアを一瞬見る。 二人は苦笑いで指示のとおり る。

 もっと厳しそうな校長を描いていた二人は半ば拍子抜けだが、侮れない人間に変わりない。


「君たちは家と呼べるものがないみたいだね」


 単刀直入に切り込まれた話題は目の前の空気に亀裂を入れた。 どう考えても二人のことを勘ぐっているものの聞き様だ。


「はあ」

「ココにはそういった類の子が多い。 けれど、 平居君は最近なったみたいだね」


 全て透けて見えているように言う。 櫂斗は含み笑みをする。 の心を読む能力が少し高い吸血

鬼なのだろう。考えていることぐらいで俺の経緯を知れるほど、甘くねえよ。 と、一瞬にして斗は心のシャッターをかけた。


「平居君は親が死んでしまって命が危なかったんです。 僕が、その場に偶然居たので、吸血鬼にしました」

「なるほどで、君は見かけによらず年齢が高いようだが、何故入ろうと?」


「こういう教育課程というものに触れたことが無いんで平居君が入りたいと言ったのでいい機会だったんで触れてみようと思いまして」


 意地で笑って言うと、参ったねといった顔で笑われた。


「まったく、困ったものだよ。いいでしょう、校長。 私はこういうの苦手なんです」

 

 二人の後ろにいる人物に声をかけた。 優しい口調になった校長ではない人物を訝しげに見るすると軽くゴメンね、と言った。


 櫂斗は後ろを向いて、小さく笑う。そういうことか。目の前にいる初老の吸血鬼より幾分若い校長と呼ばれた吸血鬼がいたずらを仕掛けた子供のように楽しそうにケタケタと笑っていることが何よりもの証拠だ。


「俺等を試しましたね」

「ご名答。 悪気は無いよ、得体も知れないヤツをココには入れられないからね」

「どこまで本気なんだか」


 肩をすくめた櫂斗は駁の背中を押した。 髪はサラサラと繰り広げられるブリザードが襲いそうな光景を怪訝な顔で見る。だが、背中にある櫂斗の手がしっかりしろと言っているようで、駁は真直ぐと背筋を伸ばして不安を見せないようにする。

 櫂斗は負けましたよと独白して校長に呆れたように語りかける。


「白状しますよ。俺は赤城の5代前の当主、赤城奈美の隠し子です。あんまりに俺の存在を皆して隠すんで、辟易しちゃいまして逃亡中なんですよね」

「それでココに?」

「10年位ですかね。 大分前から逃走してるんで、コレといってという事ではないですけど、確か長い人で百年くらい、いていられますよね。 ココ。

 学生という名の檻も案外楽しいものかもしれないと思いまして」


 校長は苦笑いで櫂斗を見る。

 学校で学校を檻と言うのは失礼でしょう。

 駁はそうツッコんでやりたかったが、櫂斗は楽しそうに笑っている。

 長い間、閉じ込められていた吸血鬼、人との関わりを持つことが出来なかった吸血鬼。

  彼は接し方や言葉を選べない。

 率直に言う。校長はそういも、と納得してしまった。


「俺は貴方より凄く年をとっていますが、自分で見つけた周期的に言うと16歳なんですよね。 入れますか? この子と一緒に」

「率直に言うと入れる。だが、他の子の成長速度に合わせて進級しなければならない」

「構いません」


 校長は目の前の重厚な机に向かう、本村、もういい。そういうと、さっきまでそこに座っていた初老の吸血鬼は分かりましたと言って席をはずし出て行く。

 校長はあいた椅子に座ると違和感がない、そのために作られたようにも見える。


「じゃあ、いいだろう。 寮はあいているのがあるはずだ、二人は一緒の方が都合良いのだろ

う?」

「まぁ」

「少しすれば本村が案内する。 一応言うが、年齢、出生は隠した方がいいだろう。 というか、個人的な意見として隠して欲しい。 私は争いごとも、面倒なことも大嫌いなのでね。 苗字を変えて欲しいくらいだ」

 嫌そうな顔でグデーンと椅子を傾ける。 面倒ごとが嫌なら教師に成らなければ良いのに、とは小さく漏らした。それを聞いた斗は頭を小さく小突いた。


「……変えても良いですけど、大丈夫なんですか?」

「いや、ばれてしまった時、面倒だ。 やらない」

「面倒って……」

 面倒面倒って……なんなんだよ、コイツ。

「大切だぞ、楽で楽しくて、分かりやすい。 円滑の基本だ」

「こんな大人にだけはなりたくない」

 初めて話に言葉を挟んだ駁の言葉に櫂斗も校長も笑った。

 確かに、こんな大人にはなりたくない。 櫂斗もそう思った。


「最後にですけど」

櫂斗は懐かしむような悲しそうな顔をして笑う。


「なんだ」

「紗羅って苗字の女の子いますか?」

「そんな子はこの学園には居ないよ」


 安心したとした櫂斗をは見つめる。逃げているのは貴族だけではない。

 櫂斗さんは何もしていないのになんでそんなに悪くなるのだろうか、と思った。


 すると、ドアが開く音がして、二人は振り返る。 そこにはさっきの校長のフリをした本村という人物がたっていた。

 校長は早いな、と本村に笑らいかける。


「本村、用意できたか?」

「はい」

「じゃあ、案内してくれ」

「はい」

 

 端的に行われる事務会話は短く終わり、ではお二人とも私の後についてきてください。 と本村とても優しげな声が鼓を叩く。

 櫂斗とは案内されるがままに校長室をでて、まず寮へと向かう。

 学校でのクラスは1, 2クラス程度しかないようで、吸血鬼の間でも少子化がとても困っていると本村は話の合間に漏らした。

 部屋の番号は105号室。

 男子寮の一番の端らしい。 二人一人が男子寮の決まりらしく、ちょうどよく二人だったので、そのまま二人入れるという計らいをしてくれた。全ては校長のめんどくさがりと円滑好きが原因になるだろう。

 運がよかったな、そうですね。と二人でとりとめもなく会話した。


 その頃、校長室では、40代に入ろうとしている校長の柊が机に肘をつき頬杖をしていた。

 いきなり生徒が入るような事はよくあるが、 どう考えても自分より年上過ぎる子供について考作りじゃないとしたって、16歳というのはありえない話だ。 聞いた事も無い。

 普通の吸血鬼の9倍から10倍成長が遅いという事になる。 たかだか人間の四倍近い寿命の吸血鬼のさらに10倍という事は明らかに不老不死に近いものという事になる。

 あのクソ餓鬼。悪態を小さくついてみるが自分の器の小ささに涙が出そうだ。 本当なら爺と呼びそうな歳腐ってからに、若い面してるから、腹たってしょうがなかった。



 ゆっくりと降り出す雨。 そして、 響く少女の声がする。 泣いてんなぁ、と心の中で思うがココ最近よく聞こえる現象なのでスルーする。

 なんで泣いているかを知っていても、教師にそこまで責任はないものだ。

 声をBGMに窓の外を見る。

「なんかなぁ……絶対あいつら面倒事運んできてる気がするんだよ」

 月が雲間から覗く。 今日の月は綺麗だ。

 今日来た少年二人を校長はあけすけなくいうやつ等だと思った。

 まあ、自分も言えた話ではないか。と独白は静かに響く。

 だんだんしてきて、夜明けをしていく。 からすの鳴き声と、凄い早起きのお年寄りシャッターを開ける音色んな音を聞きながら、もう一度独白する。

これから寝るかどうかの討議をひたすら自分としていた。

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