第49話

 この遺跡を造った子孫がいる。そして今もなお、その子孫は遺跡の管理のために出入りしている。そのたびに仕掛けを張り直し、侵入者の排除に徹しているわけだ。


「なら、その子孫が出入りするための安全な道がある。それがここだ」


 俺は説明を終え、ヴェインたちを見回す。ヴェインはさっきの出来事が、いまいちピンときていないのか「へぇ」と能天気なものだ。ガレリアは聞くまでもなく何を考えているのかわからないし、フェリカはまだ頬を染めたままで「ヴェインさんたら……」と鼻息を荒くしている。

 リーフィを見れば、だいぶ落ち着いたのだろう。いつもの無表情のまま「ふぅん」と大して興味なさげに視線を床へと投げた。


「じゃ、この部屋はその人たちの?」

「そういうことだ。足元が暗いから気をつけろよ」


 ここにはあの石はもうない。元が隠された場所なのだ、豪華絢爛にする必要もないということだろう。

 俺は小袋から、親指と人差し指でつまめる大きさの乳白色の石を取り出す。それをフェリカにずいと差し出し、


「フェリカ、これに息をかけてくれ」


と示した。フェリカは「は、はひっ」と声を裏返しながらも、俺の隣へ並ぶと、火を吹き消すようにふうっと石に軽く吹きかけた。途端、その乳白色の石はオレンジに光りだし、辺りをほんのりと照らし出す。


「わわ、ちょっとだけ明るくなった」

「ね。ちょっとだけね」

「ふ」


 ヴェインは素直な感想だが、明らかにリーフィは馬鹿にしている。さっき無理にでもどかせばよかったかと思わないでもないが、まぁ今はいい。


魔石ませきだ。街灯にも使われてるだろう」

「え! あれってこれだったの!?」

「ま、どこにでも普及してるもんでもないが」


 街灯は主に三種類。従来の、昔からある火を利用したもの、近年になり利用され始めた電気、そして三つ目がこの魔石と呼ばれる石だ。

 例えば”天降る国“では、火というのはなかなかに扱いにくい。一時いっときのものなら問題ないが、夜中よるじゅう照らし続けるとなると話は別だ。容器に油を溜め、火を点け、それを消えないよう、燃え移らないよう見張る必要がある。

 電気というのも、そもそも、設備がないと扱えない。なかなか見れるものではないしな。


「私も初めて見たわぁ。お高いんでしょう?」


 欠片ほどのそれを見、ガレリアが感嘆の声を上げる。


「まぁ、普通は手に入らんだろうな。これは街灯を作る際に出た、ただの石屑にしか過ぎん」

「おいくらかしら」

「知らん」

「……」


 ガレリアの視線が刺さる。言い訳をしたいわけでもするわけでもないが、嫌味な奴だと思われるのも癪である。だから俺は「勘違いするな」と前置きした上で、


「これはその、欠片を、ちょっと拝借しただけでだな……」


と言葉を並べていくが、ガレリアの、しいてはリーフィの目までもが鋭く細められていく。


「んん? その言い方ですと、ディアスさんはお給金頂いてないんですか?」

「……国の名誉のためにも言っておくが、兵士どもはもらっている」

「ディアスさんはつまり……」

「居候。盗っ人」


 リーフィがとどめとばかりに言い放った単語に、フェリカが「最低です!」と叫んだ声は、続く真っ黒な道に吸い込まれ、そして――


 ブ、ブブブ……。


 暗闇に生きる嫌なモノを起こすきっかけになってしまったようだった。

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