第48話
元々小部屋があった壁をぶち抜いた先は、真っ暗な空間が広がっていた。明かりとなる石が使われていないのだ、多少暗いとは思っていたが、まさかここまでとは。
俺その暗闇へ足を滑らせると、屈み、今度は足元の床を軽く小突いていく。先程と同じように音が変わった箇所を確認すると、またガレリアに「ここだ」と槍を刺すように示す。
「もう、ディアスちゃんたら荒っぽいんだから」
「無駄口を叩く暇があるなら手を動かせ」
「はぁい」
ガレリアが槍を立て、容赦なく床へ突き立てる。ガゴンと鈍い音が鳴り、槍を突き立てた石が深く沈んだ。
「まぁ」
すぐさま槍を抜いて体勢を整え、ガレリアが沈んだ箇所をまじまじと眺める。その石を手で押し込んでいくと、その部分だけが綺麗に外れた。
「これって……」
「仕掛けだ。この下は恐らく」
俺は手を差し込んだまま、周囲の石をなぞっていく。指先の感覚だけを頼りに探っていけば、精錬された造りにはそぐわない凸凹に触れた。それを指先で強く押し込めば、ガタンと床が揺れ、俺たちのいた場所がみるみるうちに階段へと変わっていく。
「う、わぁああ!?」
「きゃあ! 床が!」
「あらあらあらぁ」
「……え」
「っておい、お前、ら……!?」
いきなり坂のように下がった床に、俺の後ろから覗き込んでいたヴェイン、フェリカ、リーフィが雪崩のように転がり、そのまま下まで仲良くも落ちてしまった。
「ああクソッ、お前ら怪我は……」
奇しくも頭を打つことはなかったが、リーフィが俺に被さる形で倒れている。不可抗力ながらも、まな板に近いその身体に俺の手が当たっており、それはあからさまにリーフィの顔を歪めた。
「変態」
「むしろ俺を下敷きにしてることを謝れ」
「保護者失格」
「無理やりどかしてやってもいいんだが」
俺はリーフィをどけと押しのけようとし、気付いた。その肩が微かに震えていることに。
「あークソッ。これだからガキは嫌いなんだよ」
「……っ」
いつもは動かない表情が、泣くまいと目に涙を溜め、口を一文字に引き結んでいる。何がリーフィの”何か“に触れたのかは知らんが、この状態では治癒も落ち着いて出来んだろう。
仕方なく手を伸ばし、その若草色の頭を軽く撫でてやってから、多少強引に上半身を起こした。リーフィが「ひっ」と小さく息を呑むが、俺が無理やりどかすつもりがないことを悟ると、跨ったままで、服の端を小さく掴んできた。
「ったく。おいガレリア、そっちは……何してんだ」
首だけで辺りを確認すれば、ガレリアが下になる形でヴェインが受け止められていた。ただし、仰向けのガレリアに抱えられた、同じく仰向けのヴェインの顔面に、フェリカが跨る形で、だ。
「ふふ、こっちなら大丈夫よぉ」
「むがが、ふが」
「あっ、ヴェインさん、喋らないでくださっ……い、息がかかって……んっ」
だからあれほど履けと言ったのだ。
「この……っ、ド阿呆どもが! 早くどいてやれ!」
遺跡二日目の朝にして、もう俺は帰りたくなった。
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