第42話

 この世界には、不思議な建造物や地形が山ほどある。ある国は山のてっぺんに作られた平たい広大な土地、またある国は切り立った崖の先の浮島、もちろん寒々しい土地にある国もあるが、それをヴェインたちが目にするかは知らん。

 そしてこの遺跡もまた、いつの時代に、誰が、どうやって造ったのかわからん不思議な建造物のひとつだ。


「明るい……」


 日光など全く入ってこないはずだが、ヴェインも言った通り、遺跡の中は視界が効くほどには明るい。壁に松明があるわけではない。

 この石自体が、ほんのりと光を放っているのだ。だからこそ、この石は高く取り引きされるため、商人は傭兵を雇い集めさせるし、賊もこれを掘り起こすため荒らしに入る。

 まぁ、壁は崩れると困るからか流石に取る馬鹿はいないようだが。それでも昔と比べれば、壁も、床も、多少なりとも剥げて土が見え隠れしている。


「奥はさらに明るくなる。周りに気を配っておけ」

「明るくなるなら見えやすくなるんじゃないの?」


 足元の段差に躓いたヴェインが「うわっ」とバランスを崩す。ガレリアが咄嗟に腕を掴み引き寄せ、そのままふわりと抱きとめた。


「大丈夫? ヴェインちゃん」

「うん、ありがとう、ガレリア」

「ふふふ。いいのよぉ」


 ヴェインも慣れたのか、最初のような照れが見られない。それに若干不満なのか、ガレリアが口を尖らせるが、俺としてはむしろ心配だ。ヴェインの将来が。

 そんな二人を余所に、壁に手を伝わせながら歩くフェリカが「ディアスさん」と声を上げる。反響し響き渡るのだから、そんなにデカい声を出さなくとも聞こえるというのに。


「気を配るってどういうことですか?」

「……この石は、高値で売れる。入口からここまで、あまり見かけてないだろう?」

「は、はい」


 不安そうに手を組むフェリカに、隣に並んだリーフィが指で静かにと示した。エルフ特有の長い耳がピクリと動く。


「聞こえる」


 それは“音”ではない。エルフだからこそ感じ取れる“力”を、その耳で聞き取っているのだ。こういった先の見えない遺跡では、エルフの、もちろんエルフだけではないのだが、力を感じ取れるというのは危機管理の点からも頼りになる。


「たくさん……? 違う、大きい……?」


 だがリーフィはまだ。上手く聞き取れないことに眉をひそめ、珍しく悔しげに唇を噛んだ。


「いや。リーフィ、上出来だ」

「どういうこと……?」


 首を傾げるヴェインの背中を押し、早く行けと急かしてやる。通路を進むごとにリーフィの顔色は悪くなるが、進まないわけにもいかん。

 そうして先の明るさにヴェインが「あ!」と声を上げ足早に向かった先、そこは天井の高い、広間のようになっていた。ひとつも剥げていない石が、これでもかと輝きを放っている。


「ほんとだ、明るい……」


 ふらふらと足を踏み出すヴェインに続き、俺たちも広間へ入っていく。天井、壁、そして床に意図的に造られたであろう穴からは、生暖かい風が吹き込んでくる。


「ねぇディアス、なんで気を配るの?」

「あぁ、それは」

「きゃあああ!? ああああれはなんですか!」


 叫ぶフェリカが、そこら中に開いた穴を指差した。無数の赤い双眼が光るのを見、ガレリアは「そうよねぇ」と笑った。


「誰も持ち帰れない。つまり、何かがいるってことだ」


 双眼が蠢く。それらはけたたましい鳴き声とともに、雪崩となって俺たちへと押し寄せて来た――

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