第35話
俺が能力に目覚めたのは、忘れもしない十四の時だ。能力は“
能力は至極簡単で、書いた事象を引き起こすというもの。ただ月の満ち欠けによって能力の大小が決まるため、無闇やたらにいつでも全力を出せるわけではない。
あと、致命的な欠陥がある。
書いた能力は、消せないのだ。だからそう、例えば指先から火を出すとして、それを“炎”と名付けたとしよう。それ以降、その魔法の発動には「炎」と言わなければならない。
そしてよく考えてほしい。十四才、自分だけが持つ特殊な力、満ち欠けで強さが変わる、更にカッコいい呪文を自分でつけられる。
もう、理解できただろうか。
「漆黒より湧きいでし邪黒の炎よ。その身を怒りの化身と化し、辺獄への案内人と成せ」
俺の言葉に合わせるように、アークベルトの足元から溶岩が湧き上がり、火柱が立ち昇る。館に燃え移りそうな勢いだが、安心してほしい。これはきちんと対象を絞って発動するよう書かれてある。
ナイスだ、十四の俺。いや、決めポーズまで書かれてあるから、やっぱりクソガキだと思い直す。
「チィッ。相変わらず綺麗な力だね、ディアス」
ご自慢の羽根で体を浮かせて火柱から逃れると、アークベルトは「そうこなくちゃ」と両手で自分を抱きしめ、次の瞬間、羽根と両手を大きく広げた。その虹色に変わった瞳が光り、ガキどもが「アアアアア!?」と頭を抱え座り込んだ。
「アークベルト、お前……!」
「……」
苦しげに叫んでいたガキどもがぴたりと泣き止み、ふらりと立ち上がる。その目は虚ろで、光りなどどこにもない。
こいつの、アークベルトの能力は確か“強化”だ。ただひと口に強化といっても、身体強化とはわけが違う。能力の強化だけでなく、その逆である身体弱体化の強化も出来るという、なんとも厄介なもんだ。
そしてその強化のひとつとして、肉体の限界を強化し、破壊することも出来る。ガキどもに使用したのがそれだろう。
「本当、お前変わったな」
「うんうん、綺麗になっただろう。それに比べて、君たち人間は可哀想だ。老いて醜くくなって独りになって、そして最期は恐怖に怯えながら“死”を待つしか出来ないんだから」
「それは大した偏見だ」
本がパラパラと勝手にめくれていき、あるページでぴたりと止まる。そこに浮かんだ文字を指先でなぞり、
「六ツ足の悪魔。絶望より這い出よ。混沌を撒き散らせ。血肉を求め蠢く処罰を与えん」
とページから指先を離し、親指と人差し指でパチンと指を鳴らした。
床に黒い染みが水玉模様のようにいくつもでき、それは丸みを帯びた胴体に六つの足が生えた生物へと姿を変えていく。黒い光沢にカサカサと動く様は、俺自身も正直好きではない。
「あああああああ!? この! 何! やだ! 痛い! 痛いイイイイ!?」
カサカサするそれは、まるで獲物を見つけた軍隊の如く、一直線にアークベルトへと向かっていく。それを必死で追い払おうとするも、この生物の反射神経を舐めてはいけない。アークベルトのノロマな動きなど、動かない餌を狙うより簡単なことだろう。
「……あ、れ」
「ここは……」
ガキどもにかけられた“強化”が解けたようで、ガキどもは辺りをゆっくり見回した後、驚いたようにアークベルトを見た。黒いあれに足元だけでなく、ついには腰辺りまで侵食されている姿はなんとも気味が悪い。
「よしガキども、起きたな。じゃあ早いとこ、ここから出な。今日は満月だ、足元がよく見える」
「で、でも、お母さんが……」
未だ不安で眉をひそめるガキに、仕方なく目線を合わせるよう屈んでやるとその頭に手をやった。
「なぁに、母ちゃんも行くさ。いや、行かせる。だからここを出ろ。わかったな」
「……うん!」
「いい子だ」
バタバタと横を駆けていくガキどもに口の端を持ち上げて笑い、そして全員がいなくなった頃、俺は「本当、運がいい」とゆっくり立ち上がった。
首元まで黒くなったアークベルトが「ディアスううう!」と目を充血して睨んできたが、そんなの知ったこったっちゃない。
「アークベルト、幸いにも今日は満月だ。あの時のように、お前を焼いてやるよ。今度は右側もな」
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