第14話
目の前にいるのは十メートルと比較的小さくはあるが、それでも厄介なやつと会ってしまったことに変わりはない。
「立てヴェイン! 座ったまま食われたいのか!?」
滑り落ちてきた格好で座り込むヴェインを立ち上がらせる。ヴェインははっとしたように瞬きを始め、二、三度自分の頬を軽く叩いてから「大丈夫!」と頷いた。
「ディアス、あれは何!?」
「ウォータワーム。どこの国でもそれなりによく見る生物だ。地域で呼び方は多少変わりはするものの、生態はほとんど変わらん」
「とにかく、やらなきゃやられるってわけね?」
ガレリアが背中に背負った槍を構える。それをどこで、誰の金で買ったのか気にならないわけではないが、今はそれどころではない。
「待てガレリア、なんでもかんでも始末しようとするな」
「だって食べられちゃうんでしょ? だったら」
「確かにウォータワームは危険だが、同時に国に必要な生物でもある」
「どういうことかしら?」
「それは」
会話を遮るように、ウォータワームが雄叫びを上げた。その甲高い声にヴェインは「ああああ」と耳を押さえてうずくまった。超音波にも等しいそれは、未熟なヴェインの意識を朦朧とさせるには十分なようだ。
「きます!」
ウォータワームがその巨体を地面にこすりつけるように薙ぎ払った。俺はヴェインを抱え後ろに飛びそれをよけたが、巻き起こる突風でリーフィが後方へ飛ばされていく。
「リーフィ!」
「私が行くわ」
そうガレリアが走り出す。かなり後ろに飛ばされたようで、すぐにリーフィとガレリアは見えなくなってしまった。
まだ収まらない風に、フェリカは大丈夫かと周囲を確認し、フェリカの立ち姿に俺は呆然とした。
フェリカのコートの端が、風でちらちらと舞い上がる。そのたびにフェリカの足が見えるのだ。いや足だけじゃない。一糸纏っていない尻が、ちらちらと視界に入ってくるのだ。
「……フェリカ、まさか、お前、履いてないのか」
「ひゃ、ひゃい!」
履き忘れたのだろうか。きっとそうだ、そうに違いない。まさか年頃の娘さんが、そんな痴女みたいな真似するわけがない。そう自分をなんとか納得させようとしていると、
「上もつけてないです!」
と衝撃的な発言をかましやがった。
「待てフェリカ、一体どうしてそうなった? 城では着てたよな? あぁそうだ、確かに着ていた」
昨日の記憶だ、間違いない。いやもしかして野盗か? 野盗に襲われた時か? なら俺は年頃の娘さんになんてことを――
「あの時、ディアスさんのコートを地肌に着た時、すごくすごく、なんていうか、身体の奥が熱く火照るのを感じたんです。でもいつまでもお借りするわけにもいかないので、ガレリアさんに相談して、買って頂いたんです!」
「あいつは知ってるのか!? なんで止めなかったんだ!?」
「この見られそうな感じ、たまらないです!」
「いや見えてんだよ!」
ヴェインの意識がはっきりしてなくてよかった、本当によかった。あぁでもそれどころじゃない。今はウォータワームをなんとかするすべをだな――
「そうですディアスさん、なんでウォータワームを倒してはいけないんですか?」
「お前さ、その状況でそれ聞くか? 普通……」
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