第15話
“風舞う国”にも
農業が盛んな“風舞う国”では、一気に大量の土地を耕す必要がある。どれだけ能力に優れたヒトであろうと、耕せる量には限界がある。
そこで目をつけたのがクレイワームだ。あの巨体は穴を掘り土を巻き上げ、土地を豊かにした。もちろん数を増やすわけにも、巨大化させるわけにもいかんから、ある程度のところで兵士や傭兵が狩りに出されたわけだ。
「このウォータワームも同じだ。これだけ雨が多い国なら、どこかに逃がす場所があるはず」
「つまり、ウォータワームが作る穴がどこかに繋がっていて、それが雨を逃がしてるということですか?」
「たぶんな」
この大きさならやれんことはない、が、それで国から咎められるのは面倒くさい。そこから揉めるのはさらに面倒くさい。
「仕方がない、追い返すぞ」
とは言ったものの、ヴェインがこの状態では一人で立つこともままならない。フェリカの細腕では、ヴェインを抱えながら走り回れないだろう。
「あーークソッ。おいフェリカ!」
「は、はい!」
「一瞬でもいい、雲を飛ばせるか!」
「雲、ですか?」
フェリカの目が丸くなる。俺の意図など知る由もなく、かといって詳しく説明する暇もない。雨に混ざって地面に垂れる涎が、ねっとりと糸を引く粘液へと変わっていく。
「やれるなら早くしろ! やれないなら……」
「できます! できますできます! お任せください!」
嬉しそうに声を上擦らせるフェリカ。こちらを向いた時に見えそうになったので、そこは視線を下げて視界に入らないようにした。
「頼って頂けて嬉しいです! それでは本気でいきます! すーはー、すー、はー」
能力を使うのに息を整える必要などないのだが、フェリカは何度か息を浅く吸い、そして深く一気に吸い込んだ時だ。
「ヴァァアアアア!!!」
「フェ、フェリカ!?」
それは例えるなら、稲妻だ。
フェリカの口から放たれたその閃光は、あろうことかウォータワームを貫き、その勢いのまま天まで駆け上がり、薄灰色の重苦しい雲までも切り裂いた。
頭と胴体を離されたウォータワームから、雨に混じって粘液が降り注いでくる。それを全身に浴び白目を剥いて膝から崩れ落ちるフェリカの背中は、まるで強敵に全てを出し切って倒れた英雄のようにも見えるが、冗談じゃあない。
最初にも言った通り、国で管理されているものを、傭兵でもない、しかも他国の、言ってしまえば役職についている俺が倒した(厳密には違う)と知られれば国際問題である。
「……よし」
俺は意識がはっきりしてきたヴェインを立たせてから、膝をついたまま意識を失っているフェリカを背負い、ガレリアとリーフィに合流する
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