第2話

 第一印象。地味。

 黒髪、黒目、中肉中背、容姿は整っているわけでも崩れているわけでもない。いわゆる、モブ顔だ。いや、ひとついいところがあるか。いい目をしている。


「で、お前が」

「あ、はい! ヴェインです!」

「あぁ、そう」


 特に興味なさげに返したのだが、このガキ(ヴェインとかいったか)は、これから始まる冒険が楽しみで仕方ないのか、意に介した様子もなく、むしろ目をキラキラさせながら、


「あなたが一緒に旅をしてくれる仲間ですね!」

「やめろ、仲間じゃねぇ」

「うわぁ、すごいなぁ! その本、強そうだなぁ!」


と俺の周りを右に左にとくるくる回っている。俺が舌打ちをしようがお構いなしだ。あまりにもうざったかったから、腰に下げたあの分厚い本でガキの頭をゴツッと殴ってやった。


「で、一緒に行くのはこいつだけか?」


 床に伸びたガキを足先で蹴ってから、俺は玉座におわす雇い主を肩越しに睨んだ。


「まさかまさか。他にも仲間を見繕ったから、ほら、入っておいで」


 雇い主が手を叩けば、続けて三人の女子供が入ってきた。いや、一人はエルフだから、見た目はガキでもガキではないのかもしれない。


「こんにちは、初めまして。オーガ族の、ガレリアよ」

「あぁ、よろしく」


 推定身長二メートル近いオーガ族の、ガレリア。オーガ族の特徴である赤みのある肌と、筋肉質で引き締まった身体。このガレリアが、そこらの人間の戦士より強いということはすぐに察しがついた。


「私より強いヒトをお婿にするためにご一緒させ」

「次、そこのエルフ」


 ガレリアが言ったことを半ばスルーして、俺は一二〇センチほどのエルフに話を進めるよう促す。


「リーフィ。法術士」

「ほう、エルフの法術士たぁ珍しいな」


 エルフ族は破壊魔法を得意としているが、たまに治癒魔法も使える奴がいると聞く。そのエルフを総じて“法術士”と呼んでいるのだが、このリーフィとかいうエルフ、どうやらその法術士らしい。


「法術、ヒトを元気にする。ふふ、元気に……」

「じゃ、最後、そこのやつ」

「は、はい!」


 ぶつぶつとまだ何か言っているリーフィを無視して、手をもじもじさせ俯いていたやつを指名する。

 最後は人間女か。小柄で華奢、とてもオーガのような力や、エルフのような魔法が使えるとは思えない。正直この旅路のお供というわりには、なんとも頼りない見た目をしている。


「ボ、ボクはフェリカといいます。魔法が一応出来て、あ、でもあんまり大したことはなくて……」

「ほぉん、魔法士か」


 エルフと人間、お互いの魔法なんぞ比べるまでもない。それでもリーフィが法術士だというのなら、多少なりともフェリカの魔法は役に立つかもしれない。


「はぁ……、ガキばっかじゃねぇか。いいか、俺はディアス・S・ゲイザー、ディアスでいい。お前らの保護者だ。わかってないやつもいるかもしれんから一応言っておく。お前らの役目は、能力を悪用する集団を叩きのめすこと。俺はあくまでお前らの保護者だ」

「二回言った」

「ディアスちゃん、そんなにイライラしなくてもいいじゃない。お姉さんのお胸、貸してあげよっか?」

「せ、せせせセクハラですか!? 福利厚生どうなってるんですか!?」


 リーフィ、ガレリア、フェリカが言いたいことを口にする。俺はそれに「うるせぇ!」と一喝して、足元で伸びているヴェインを蹴り上げた。


「起きろヴェイン! 早速南の領主んとこ行くぞ!」

「ひゃ、ひゃい!?」


 わいわいキャッキャとうるさい監視対象を尻目に、俺は怨めしげに雇い主を盗み見た。親指を立ててウィンクしてきやがったので、ご丁寧に俺も中指を立ててやった。

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