第3話

 この世界には色んな種族がいる。人間、オーガ、エルフ、ドワーフ、あとはなんだ、なんかちっせぇ種族やらでっけぇ種族やら。

 ひと昔前まではいがみ合っていたそうだが、そんなもんは遙か遙か過去のこと。今じゃ異種族間で愛だの恋だの騒いで、むしろ純血のほうが珍しいまである。なので、このオーガ族のガレリアがお婿探しをしているというのも、あながち可笑しな話ではない。


 さて、そんな話は一旦置いといて、だ。俺たちは悪政を強いている領主をなんとかするために、自国の南に位置する国へと向かっていた。

 馬車は出してくれないのかと雇い主にこぼしたところ“流石に国のあれでね、出すわけにはゴニョゴニョ”とかいう面倒くさい理由により、南の国境まで荷物を運んでいる荷馬車に、なんとか乗せてもらったわけだ。


「へぇ、じゃあガレリアさんは強いヒトを探しているんですね」

「さん、なんてやめて。これから一緒に旅して、一緒に寝て、一緒に生活していくんだから。ね?」

「は、はい! じゃあ、ガレリア、よろしく!」


 純粋無垢にも近い笑顔で、ヴェインが頬を恥ずかしそうに掻いた。ガレリアの言うことは間違っていないはずだが、なんだ、あいつが言うとやけにいやらしい気がする。

 ガタンと荷台が揺れて、俺の右側に座るヴェインがガレリアにもたれかかるような格好になった。すぐに「ご、ごめん」とどく素振りを見せるヴェインに「もう、いいのに」と笑うガレリア。流石にヴェインが気の毒になり、俺は仕方なしに「おい」とガレリアを咎める。


「いいかげんにしろ。あまりガキをいじめてやるな」

「あら。ディアスちゃんもヨシヨシしてほしいのかしら?」

「んなわけあるか」


 間にヴェインを挟んだ状態で、ガレリアが身を寄せて俺に手を伸ばしてくる。そうすると豊満なモノがヴェインの顔にたぷたぷと当たって、それにヴェインは更に赤くなり「ガ、ガレリア……」と消え入りそうな声で名前を呼んだ。


「ん? なぁに? ヴェインちゃん?」

「ぁ、ぁ、あの、その」

「んー?」


 真っ赤なヴェインがよほど気に入ったのだろう、ガレリアは更にたぷたぷとその豊満なモノを顔に押しつけた。


「チッ。この痴女が。第一、お婿はどうした、お婿は。どう見てもヴェインはまだ未熟だろうが」


 ヴェインをガレリアから引き離してやり、このクソ狭い荷馬車でなんとか場所を入れ替えて、俺が二人の間に入るようにする。


「今はまだ未成熟かもしれないけど、今から唾つけとくのもアリでしょ?」

「きたねぇもんつけんな。馬にでもつけてやれ」

「私は馬より犬が好きよ」

「なんつう話をしてんだ」


 正直、腕っぷしは心強いというのに、性格がこれではマイナス評価だ。むしろなんでこんな奴が……と、俺はこめかみを押さえてため息をついた。

 そんな俺たちの反対に座るリーフィとフェリカは、二人仲良く並んですやすやと寝ている。お互いがお互いにもたれかかるように眠る図は、なんとも穏やかなもんだが、緊張感の欠片もないそれに俺の心労が増えるばかりだ。

 そんな空気を壊すように、


「う、うわぁぁあああ! なんだ、あんたたちは!?」


馭者ぎょしゃの叫びが聞こえた。同時に馬のいななきが響き、馬車が激しく左右に揺れる。


「わ、わわわ!?」


 ヴェインがバランスを崩し、外へ放り出されそうになったのを素早く腕を掴んで引き戻すと、その勢いのままガレリアにヴェインを押しつけた。あれだけ豊満なのだ、クッション代わりにはなるだろう。


「一体なんだ……?」


 あれだけ激しく揺れたというのに、未だ寝続けるリーフィとフェリカをほっといて、ほろの隙間からそっと顔を覗かせれば。

 あろうことか、この荷馬車は、野盗のカッコウの的と変わり果てていたわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る