月火の裁定者 〜漆黒とか深淵とか、恥ずかしくて言えません〜

とかげになりたい僕

風舞う国〜天降る国

第1話

「ちょっと保護者になってくんない?」

「は?」


 俺は、目の前の玉座におわす我が主君、この国の国王であらせられる雇い主、つまるところ国王様にタメ口上等でもう一度聞き返した。


「なんて?」

「いや、だからね、保護者を頼まれてくれないかなって思ってね」

「え、誰を。まさかさっき神託を受けたとかいうガキのことじゃないよな」

「そのまさかなんだけどね」


 今謁見の間にいるのは、俺と雇い主とその側近と、あと親衛隊の二人。その事実をもう一度確認してから、俺は「冗談はよせ」と大袈裟に両手を広げてみせた。


「この世界に平和をもたらす救世主サマ、なんだろうが。なんでまた」

「ワシもそう思うよ? でも最近、能力に目覚めた瞬間、なんか人が変わったようになっちゃうの多くなってきたし」

「はぁ……」


 雇い主の言うことも、まぁ一理ある。

 この世界に生きるヒトは、大なり小なり、何かしらの能力を持って生まれてくる。能力に目覚める早さも個人差があるものの、大抵は十代のうちに自覚するもんだ。

 んで、だ。その能力を善性に使うやつもいりゃあ、もちろん悪性に使うやつだっている。例えばここから南の国の領主なんかは、その力を使ってそこら一帯を支配下に置いた。

 それでもなお、やる気の起きない俺に、雇い主は「それで」と話を続ける。俺が聞いてる聞いてないは二の次らしい。


「その少年の旅路についていって、こう、悪用しようとするならなんとかしちゃってほしいんだよね」

「は? いや、そんなん俺以外に頼めよ」

「これ王命だから。もう決定次項だから。大丈夫だって、その能力があればなんとかなるじゃろい?」

「いや、これは……」


 そう言ってから、腰にぶら下げた分厚い本にちらりと視線をやる。

 本の角で人をやれそうなぐらい分厚いそれは、正直重たくて仕方がない。それでも俺がこれを仕方なしにぶら下げているのは、これが俺の能力だからだ。


「少年が道を外しそうになったら、導いてあげてよ。未来ある若者のためだと思ってさ」

「はぁ? めんどく」

「断ったら、これよ、こ、れ」

「……」


 雇い主はにこやかな顔のまま、親指を立てて自分の首を斬る仕草をした。その意味がわからないほど、俺だってもう子供ではない。


「やるかやらないかってことかよ」

「違う違う。やるか死ぬかだよ」

「このクソ雇い主が」

「ほっほっほ、その罵りが聞けなくなるのは淋しいのぅ」


 愉快に笑う雇い主に舌打ちして、俺は最後の抵抗とばかりに睨みつける。


「頼んだぞ、ディアス・S・ゲイザー」

「頼まれたくねぇよ、ど阿呆が」


 口汚く罵ってやれば、まるで話が終わるのを待っていたかのように、謁見の間の扉が開き、衛兵が入ってきた。どうやら件のガキが城にやって来たらしい。

 一体どんな奴なのか知らないが、兎に角俺の手を煩わせるような奴でなければいいと、それだけを願った。

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