面談

「は?」一郎は呆気に取られている。

「どうですか?」と僕は答えを促す。

「あ、えっと好きです」

「質問は以上です。ありがとうございました」

「え? これだけ? 一体何の意味があるんですか?」

「申し訳ないですがお答えできません。いいですか、この面談の内容は内密にお願いします」

 一郎は首を捻った。席を立ち一礼してから部屋を出て行った。

「さぁ、二郎を呼ぶ前に急いで準備しないと」そう言って僕は立ち上がり道具を手にする。

「なるほど、そういうことだったのね」面談の意図を理解したヒナも続いて席を立つ。

 泣いても笑っても今日が最終日、僕らは大急ぎで作業を済ませて大樹さんに電話をかける。

「二郎さんを呼んでください」

 すぐに二郎はやってきた。身長165センチ程度のやや太り気味の50代。先程と同じように面談を進める。

「コーヒーと紅茶どちらが好きですか?」

「えっと、コーヒーですけど、それが何か?」

「いえ、結構です。お忙しいところ申し訳ありません。戻っていただいた良いですよ。あと、この面談の内容はくれぐれも内密にお願いします」

 二郎はキョトンとした表情で席を立ち去って行った。

 「よし次」ヒナが次の作業に取り掛かるべく席を立つ。

「ねぇ、あっくん。私まだわからないことがあるんだけど、『面談の内容は内密に』って何か意味あるの? あ、ごめん。質問は後回しだったね」

「ああ、それは問題ないよ。言わなくてもいいんだけど、その方が確実かなって」

「でも、ただの口約束でしょ。誰かに言ったりしないかな?」

「多分言うだろうね。人の口に戸はたてられないからね」

「いいんだそれ」

「狙い通りになればね。さてと次は三郎か」


 僕たちは同じように、その後も面談を続ける。


「好きな芸能人は誰ですか?」

「粒あんとこし餡どっちが好きですか?」

「アメリカの首都はどこですか?」


最初は準備に手間取ったが、やっているうちにだんだんと要領を得ていった。


「大樹さん、H子を呼んでください」僕は大樹さんに電話で伝えた。

「やっと最後ね」ヒナが溜息混じりに言う。

 僕は壁に掛かっている時計を見ると、すでに11時を回っていた。

「失礼します」H子が入ってきた。

 身長150センチくらい、髪は肩まであり細身の女性というより女の子と言った言葉の方が似合いそうな容姿だった。


「パンケーキ好き?」

「大好きです!私、行きたいお店があるんですけど、来週健康診断あるからそれまで我慢しなきゃって思っているんですよ」

「質問は以上です。ありがとうございます。面談の内容は内密にお願いしますよ」

「え、もう?そう言う質問なら私もっと話したかったなー」

「僕もです」

「じゃあ失礼します」H子が部屋を出て行った。

「ねぇ、あっくん。最後の人だけ対応違くなかった?あーゆーのが好みなんだ」ヒナが冷たい視線でこちらを見て言う。

「そんなことはありません」

「何故に敬語」

「全員終わったぞ。次はどうする?」大樹さんが入ってきた。

「すいません、お昼にずれ込みそうなのでコンビニとかでサンドイッチか何か買いに行ってもらえませんか? それでそのまま待機でお願いします」

「外で待機ってことか? 何でだ?」

「場合によっては中村さんにきてもらうことになるので迎えに行ってほしいんです」

「そういうことか、よしわかった」大樹さんはそう言い残して部屋を出て行った。

「さて急いで廊下を綺麗にしておかないと」僕は備品室から持ってきたモップを持ったて立ち上がる。

 再び応接室に戻ってソファーに腰を下ろし、ペットボトルのお茶を口にする。

「ふー」一仕事終えて溜息が漏れた。

「何か疲れたね」ヒナもソファーに倒れ込む。

 その時ノックが聞こえた。

「どうぞ」と僕は応える。

「失礼するよ」そう言って入ってきたのは社長だった。

「面談が終わったようだが、どんな調子かね?」

「ええ、今さっき全てのサンプルデータを採取し終わったところです」

「何よりだ。それで答えは出たかのかな?」

「それはまだこれからデータを分析してみないとわかりませんが、何らかの答えが出るかと思います」

 社長は何か聞きたそうだったが、しばらく沈黙したのちに再び口を開いた。

「その答えを期待して待つとするよ」社長は応接室を出て行った。

「さてと、もう一仕事だ」僕の号令でヒナは立ち上がった。


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