3話 意外と優しい人?
「勉強教えてもらってもいいですか」
夏木さんを誘ってみた。
「無理」
けど、また断られた。
「いっそ嫌いとか言って突き放してくれんかな」
「相手もうんざりしてるのかも。さすがに夏木さんに同情しちゃうなあ」
席が遠くて授業中に教えてもらうことは難しいし、なにより勉強を口実に仲良くなろうとしている邪な気持ちがダメなのではと思い始めてきた。
「あの人のどこにそんな惹かれたの? 顔とか? それとも性格?」
「まあ顔になるんかな」
「さいてーだ」
「いいだろ別に」
前々から思っていることがあった。よく異性の好みで、顔と性格のどちらが大事か、なんて質問がある。俺はそのときいつも迷ってしまって、結局顔と答えることにしていた。
ただ、俺が人を好きになる瞬間というのは、基本的に仕草や表情だから難しいなと思ってる。笑った顔、可愛らしい仕草、そういうなんとなくの雰囲気を大事で、それが顔と性格のどちらに当たるのかわかっていない。
笑った顔を可愛いと思って好きになるけど、それを形作るのは性格でもあって、でも結局顔で判断してるからどちらかと言えば顔なのかなという。自分でもわからないし、面食いなのかとよく悩む。
「で、本当のところは? 顔が可愛いから付き合いたいって話?」
「あーいやあ」
顔は特別美人ではないし、性格は言われるまでもなく厳しめ。社交性もない。確かに、どうしてと聞かれるのはわかる。
「まあこれは自分だけの秘密にしておきたかったんだけどさ」
「うん」
「笑った顔がめっちゃ可愛いんだよあの人」
「え? 夏木さんが笑う!? 春斗くんに笑ったの?」
「俺じゃないよ」
ちょうど春頃。数か月前の話なんだけど、そのとき初めて夏木さんの笑顔を見た。まったく笑わない人だと思っていたから、転んで泣いている男の子にそんな優しい笑顔を向けられるんだと思って、猛アタックを始めた記憶がある。
「本当は優しい人なのかもしれないと思ってな。またあの笑顔を見たくなったんだ」
遊びに誘ってみたり、個人的に面白いと思ったエピソードトークをしてみたり、色々挑戦してみたけれど一つも靡いていなかった気がする。
「まあそんなこんなで今回も夏木さんに勉強を教えてもらうことが出来なかったし、テスト勉強一緒にやってもらってもいいか」
「僕も凄い成績良いわけじゃないけどね?」
放課後は二人で残ってテストに向けて課題に取り組むことにした。教室は数人が残っていたけど特に問題もなく。
「ん、このプリントって春斗くんの?」
「なんだそれ」
中身は俺がよく嘆いていた数学だった。しかも要点がまとめられていたわかりやすい。
「誰かの忘れ物かな」
「あーいや多分それは……」
今回のテスト範囲の課題プリント。何枚か束になって問題が続いている最後のページ。そこの空白には丸っこい字でこう書かれていた。
「うるさい」
それがもう関わらないでくれって最後の警告なのかは、結局の所わからなかった。
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