鬼に遭遇したけど嘘つきまくって命からがら耐えた話

オーダマン

人の言う事はちゃんと聞いた方がいいよ、って話

高校に入れば何か変わると思っていた。


だけどまぁ…なんというか…


「…何も変わり映えしねぇ」


これが俺の高校デビューだった。


というのも…

近場の高校を適当に受けて適当に入学したもんだから

周囲の人間は中学校と対して変わらない。


他県から越してきた奴もいるが、

これといって特筆する事もない。


「よ、吾郎、シケた顔してんな」

「…まっつん」


吾郎、俺の名前を呼びながら顔を覗かせてくるまっつん。

こいつは俺の中学からの友人で、本名は松村 友樹。


「そらそうだろうよ、ワクワクして高校入学してみれば

 中学と対して変わらねぇもんよ」

「そう言うなよ吾郎、俺達にはあの人がいるだろう」


あの人…、そう言われるが首を横に傾げる。


「誰?」

「…嘘だろ」


信じられない、といった表情でまっつんがこっちを見つめる。


そう見られても俺はお前と違ってコミュ力が高いわけじゃない。


入学して数か月たつが、友達もお前含めても5本の指に収まるぐらいだ。


まっつんは俺の肩を掴んで揺らすように叫ぶ。


「あの人と言えば宝仙寺先輩に決まってるだろうが!」

「いや誰だよ、聞いたことねえ」


名前を言われてもピンと来ない。

まっつんは、はぁーー、と長い溜息をついた。


「わかった、ちょっとこっち来い」

「いただだだ!?」


ぐい、と俺の首根っこを掴んで校舎の中に入っていくまっつん。


あまりの痛さに手を振りほどき、まっつんの後をついていく。


そこには、1人の高身長の女子が、

他の女子に囲まれてキャーキャーされていた。


中央にいる女性はキリ、とした表情…例えるならラノベでいう王子様系女子?

みたいな表情で回りの女子を制している。


あまりの騒がしさに…思わず動物園の猿山を思い浮かべる。


「吾郎、すげぇ失礼な事考えてないか?」

「なんでわかるんだよ」


顔を見ればわかると言わんばかりに呆れた様子でまっつんが俺を見てる。

やれやれ、といった具合に首を横に振りながら中央の王子様女子を

まっつんは指さした。


「で、あの中央にいるのが…宝仙寺先輩…宝仙寺 玲だ。」

「うーん…確かにかっこいい」


遠目から見ていれば、それこそ絵になるような顔立ち。

ノーメイクでも映える宝塚女優?と言えるぐらいのイケメン。

後ろにまとめたポニーテールが、キリ、とした表情をさらにクールに演出している。


「…これは確かに、ここに入学した価値あるな」

「だろう?」


まっつんがによによ、とこちらを見てくるが、

俺は…あのクールな眼差しに釘付けになっていた。

じーっと見すぎてしまったのか、不意に目が合ってしまう。


「あ」

「どうした?」


まっつんが慌てて宝仙寺先輩を見れば、

先輩がずん、ずんと、こっちに近づいてきているのに気が付いた。


「貴様等、私に何かようか?」


近づけばわかる、オーラがすごい。


クールの奥底に秘めた荘厳さ…そして気品さが

オーラとして中央からあふれ出ている。


思わず、腰が引ける。


「い、いえ!俺達は…!」

「こ、こいつが宝仙寺先輩の事知らないってんで!

 紹介しておりました!」


速攻でまっつんが事の仔細を伝える。

ありがたいのか余計な事言いやがってなのか、判断に困る。

まぁ嘘つくよかマシだろう。


「そうか。私は宝仙寺 玲…

 紹介される程の者でもないが、この学校では何故か著名人だ。 

 貴様等、なんという名前だ?」


人を貴様呼ばわりしてもなんの違和感も劣等感もない。

むしろ名前を聞いてもらいありがたく思えてきた。


「ぼ、僕は九十九 吾郎です!」

「松村 友樹です!」


テンポよく2人で自己紹介する。

…名前覚えてもらえるのかな。


「うむ、九十九に松村だな…覚えておこう。

 何か困った事があれば私に言うといい。

 学年は3年、Cクラスだ。覚えておけ」

「「は、はい!」」


思わず2人揃って背筋が伸びる。


なんて頼りがいのある人なんだ…!


これは女子がキャーキャーするのも頷ける。


「じゃ、じゃあ僕らはこれで…!」


まっつんが下がろうとするので、俺もついていこうとする。


「ああ、帰りは遅くなるなよ、気を付けてな」


去り際にさえ気を効かせてくれる先輩…!

なんて優しい人なんだ!


俺達は2人そろって、俺達の1年の教室へと入っていく。

そして…


「「…っふぅーーーっ」」


2人揃って息ピッタリに席についた。

ちなみに俺とまっつんは席が隣同士だ。


「…どうだった?」


まっつんが俺に話しかける。


「…」


だが、俺は1つの事で頭がいっぱいで

それに返す言葉は出なかった。


「…俺、初めて宝仙寺先輩と話したよ…」

「…」

「あの人って、家が厳しいお寺らしくてさ…

 それであんなしゃべり方になったんだと」

「…」

「しかし至近距離での宝仙寺先輩はやっぱり…」

「…決めた」


散々考えた、といっても1、2分ぐらいだが、考え抜いた俺は…


「…あぁいう風に俺はなりたい」


そう宣言すれば、こくりと自分で頷く。


まっつんはありえん、というような顔をしているが、気にしない。


「…やめとけ、あれは宝仙寺先輩だから許されるんであって…」

「それでもなりたいんだよ!俺は!」


腕を組んで威厳を露わそうとする俺に、まっつんは頭を抱えた。

どうやら似合ってないらしい。


だが、俺は諦めない。


宝仙寺先輩みたいに…俺はかっこよくなって見せる!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


宝仙寺先輩みたいになると決めた次の日…

俺は家で水に濡らした頭をオールバックに決める。


ワックスなんて洒落た物は…まぁお父さんのやつがあるけど

校則違反なので使わない。


それでも俺は今日変わる。

憧れた宝仙寺みたいに変わって………、

どうしよう。


とりあえず目標は…第二の宝仙寺先輩と呼ばれるぐらいになる。

そして、この退屈な日常から脱却する!


超漠然とした内容だが、細かい所はこれから詰めればヨシ!


そして…俺は学校に向かう。


俺はなんだかいつもより、なんだか背筋が伸びている気がする。


髪型変えただけなのに、ちょっと誇らしい。


「よーっす吾郎…ってなんだその頭」


まっつんが俺に声をかけてくる。

しかし、俺の変わり果てた頭を見て驚愕していた。


「ふ、俺の変化がわかるとは…貴様もなかなかだな」

「…は?」


両腕を組んでうんうん、と頷く俺に、まっつんは呆れた表情をしている。

既にちょっと恥ずかしい気持ちになってきた。


「…あぁ、お前そういえば…宝仙寺先輩に」

「そうだ、貴様に紹介してもらったその日…俺は人生観が変わったよ」


まっつんに正直に話すと、まっつんは頭を抱えていた。


「とりあえず、そのびっちょびちょの頭なんとかしろよ」


…確かにセットが上手く行かず、何度も水をかけたが…

そこまでびちょびちょか?


「…そのうち乾くだろう」

「おいおい…」


呆れたまっつんが鞄からタオルを出して俺に貸してくれる。

俺は頭を拭いてまっつんに返すが、次の瞬間、まっつんの表情が明らかに変わっていた。


「ありがとまっつん…まっつん、どうした?」

「あ…お、おはようございます!吾郎も挨拶!」

「は?」


くる、とまっつんが挨拶した方を向けば、

そこには俺の憧れ…宝仙寺先輩がそこにいた。


「…やぁ」


俺は片手をひらり、と挙げて挨拶する。


「ーっ!?」

「…」


まっつんは顎が外れそうな程驚いていた。

宝仙寺先輩はといえば…。


「やぁ、松村に九十九。2人は仲良く登校か」


すげぇ余裕綽綽に返していた。

俺の無礼をモノともしないなんて…

さすが宝仙寺先輩だぜ!


「そ、そんな所です!こいつは中学からの友人で…!

 本当すいません!」


そう言ってまっつんは無理やり頭を下げさせる。

俺もちょっと申し訳ない気持ちがあったので

抵抗する事なく頭を下げた。


「うむ、別に構わん。

 それよりもお前等、部活は入っているか?」


不意に質問されてまっつんが答える。

「え?まだ入ってないです!」

「うむ、俺もまだ入る所を決めていな…モガ」

「こいつも帰宅部なんですよ!」


両腕を組んで答えようとした所、まっつんが口をふさぐ。

しかし2人帰宅部という事を知って、

宝仙寺先輩はどこか安堵したようにうなずいた。


「そうか、近頃ここの付近で不審者が出ると噂だからな。

 早く帰るに越した事は無い。」

「なるほどっすね…」

「確かにその通りだ…」


俺が敬語を省けば、まっつんが横で睨んでくる。

もういいだろ、宝仙寺先輩気にしてないっぽいし。

宝仙寺は俺達の目を見ながら忠告する。


「だからお前等、今夜は早く帰って、

 夜中には出歩くな。いいな?」


吸い込まれそうなほど輝かしい目で見つめられ、

ついつい浮かれてしまう。


まっつんはこくこくと頷くだけだったが、

俺は違う…。


ここで決めなきゃ、高校生活…始まりはしない!


「ふ、わかっている…今日は風が騒がしいからな」


突然首に衝撃が走る。


まっつんが首根っこを掴んで引っ張っているようだ。


「こいつも理解したみたいなんで失礼しますぅぅぅぅ!!!」


首の痛みに耐えながら教室に着席する俺とまっつん。


「お前さぁ!!」


座るなり俺に怒鳴りかけるまっつん。

正直すまんと思っている。


「お前がやってるのはただの中二病で痛いやつなんだよ!

 宝仙寺先輩が言うとかっこいいかもしれないけど、

 お前が言うとただダサいんだよ!!」


目の前でガンガンに怒鳴るまっつん。

正直圧に押され頭を下げる。


「す、すまん…でも、俺だってわかってんだよそんな事!」


思わず泣きそうになりながらまっつんの肩を掴む。


「俺だってかっこよくなりたいんだよ!かっこつけたいんだよ!」

「お前のは間違ってんだよ!」


ダサすぎる主張にまっつんが冷静に突っ込む。

でも俺は宝仙寺先輩みたいになりてぇんだよぉ…!


「わかった…わかったよまっつん…」

「吾郎…」


神妙な面持ちで語る俺に、まっつんも表情が真剣になる。


「…俺、もうちょっと試行錯誤してみるわ」

「いや諦めろよ」


まぁうん、やめるつもりは毛頭ないので…

すまねえなまっつん。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


放課後を通り越し、夜を過ぎて…12時を越した頃。

親も寝静まった夜、こっそりと外出し、夜風を浴びながら歩く。


「…出るなって言われたら出ちゃうんだなぁこれが!」


そう、今朝方宝仙寺先輩に言われた一言。


「だからお前等、今夜は早く帰って、

 夜中には出歩くな。いいな?」


それは不審者が夜に現れるから、危険だから。

だが、こちとら中二病患者まっしぐらな男子高校生…!


「スリルを味わって乗り越えれば…俺もかっこよくなれるはず!」


俺は宝仙寺先輩にクールになりたい…!

その為には、冒険が必要だと思ったのだ!


漫画でもそう、主人公が強くなるのは、

敵と戦う、修行するなど試練があるから!

乗り越えた主人公たちの顔は…それはそれは出で立ちが違う!


俺もなりたかった。乗り越えた主人公に!


だから…まぁ不審者と出会うとは思わんけど

不審者が出るかもしれない夜の道を歩くぐらいはこなしたい。


とりあえず俺は誰も通らない線路沿いの道を歩く。


飲み屋街もこの時間になればすっかり閉まっており

シャッターが軒並み閉まっていた。


「朝と違って景色が違う…なんだか大人になった気分だなぁ…」


ぼんやりとつぶやきながら夜の散歩をする。


1人だけの足音が、線路を支えるのコンクリートの壁に反響する。


等間隔で並べられた街灯は道を明るく照らしていて、

俺が歩く道を照らしている。


見事なまでに誰もいない。

そう思っていたその時…、


違和感を感じた。


(…誰かいる?)


なんとも言えないが、気配を感じた。

足音、街灯に揺らめく影。

遠くの方に何かがいる。


駆け寄って確認したい衝動を抑える。


こんな夜中に人に走って駆けていけば、

不審者間違いなしだから。


俺はただのんびりと歩く。

歩きながら、目の前にいる人を確認するだけ。


どうやら前にいる人はこちら側に歩いてきているようだ。


気配がだんだんと近づいてくる。


街灯の下にその人が入れば…その人の全貌が明らかになる。


「…ッ!?」


その人は…いや、人じゃなかった。


明らかに人間じゃない何かが俺の前方6m先にいる。


そいつはゆっくりと歩き続け、やがて街灯の下までやってくれば

光にそいつの全身が照らされた。


街灯に映った肌は赤く、頭には角が2本備わっており、

その体は満遍なく赤い上、立派な筋肉に包まれている。


間違いなく人外。


形容するならば…昔話に出てくる鬼そのものだった。


顔をチラ、と見れば、

口からはみ出す程の巨大な牙が浮きだっていた。


「…」


俺は無言だったが、ぶっちゃけパニックだった。


(鬼、おるやんけぇ~~~!!!?)


すたすた、と気付かぬふりして歩いているが、

俺は冷や汗で背中がびちょびちょになっているのを感じていた。


どうする!?逃げる!?


でも逃げたら逃げたで追いかけられたらどうしよう!?


不審者の方がマシなパターンってあるんだあ、

俺はそう思いながら策を練るが…鬼との距離が縮まっていく。


逃げようにも近すぎる。隠れようにも明らか見られている。

…どうする!?


考えているが…鬼との距離が2mを切った時点で俺は諦めた。

ならもうこうだ!とやけくそだった。


俺が取った答えは…。


「…」

「…」


互いに無言で脇を通り抜けてく。


素通り。

これこそ最適解だろ!


俺は気にしていない。

人が通ったなーぐらいの感覚で通り抜ければ、相手もまた

…あれ?今の人間だったか?ぐらいの認識になるのでは?


そう考えながら通り過ぎる。

足音が遠ざかるのを願っていた。

しかし、その考えは甘すぎると現実は教えてくれた。



「俺を眼前にして怯えもせず、無視とはな

 …面白い人間もいたものだ」



ダメでした。

鬼に話しかけられました。


ビビって足を止めれば、

向こうも足を止めているようだった。


(どどどどどどうしよう!?!)


どう答えればいい!?どうしたらいい!?

しかし、慌てふためいていれば、俺の口が勝手に動いていた。


「…俺が人間に見えるのか?」


何言ってんだー!?俺ー!?


操られているわけでも、洗脳されたわけでもない。

ただ俺の中の宝仙寺先輩…を目指している俺が勝手にしゃべっていた。


「…ふん、どう見ても人間だろう」


至極当然の事を言われる。そりゃそうだ。

だけどもう、俺もここまで来れば止まれなかった!


「貴様を目の前にして怯えぬ上、素通りしようとしたのにか?」


背中越しに語り掛ける。


さながら、週刊少年ジャ〇プ系漫画の

新キャラの強さをひけらかす話でありがちな展開。


唯一違う点は…俺が普通の人間である点なんだけど。


人間ではない、強者のフリ…苦肉の策だが、

もうこの案で突っ切るしかない!


しかし、この案は穴がある…それは、

頭がいい奴だとすぐにバレる点だ。


これはこの鬼が単純な馬鹿であれば騙し通せる策

…しかし頭が良ければ、

追加で質問してボロを出そうとしてくるだろう…!


頼む、馬鹿であってくれ…!


そして、しばらく考えた鬼が口を開いた。




「…はっはっは、確かに」




馬鹿だったぁ~!!!

よかったぁ~!!!セーフ!!!


そうなれば話は早い。

さっさと人間を探すとかなんとか騙して

この場を離れなければ!


しかし仲間だと信じ切った鬼が俺に雑談を強いてくる。


「しかし変化の術、実在したとはな、

 匂いまで人間そのものとは恐れいる」


匂いで判断まで出来るのかよこの鬼!

怖すぎるって!


「今宵は良い月だからな、こんな夜は外に出るに限る…

 その為には準備は欠かさんものだ」


適当な事を抜かしてはぐらかそうとする、が

鬼はすぐにツッコミを入れてくる。


「…今晩は三日月だが?」

「…風情を知らん奴め」


咄嗟に誤魔化す事が出来たようだ。

というか三日月だったのかよ、見てなかったわ!


正直俺の脳内は帰らせてくれの1点張りだった。


頼む!帰らせてくれ!

帰れないならせめてこの場から離れさせてくれ~!


「用が無いなら行かせてもらう、今夜は1人で楽しみたい気分だからな」


俺はそう言って足を進めようとするが、

まだ鬼は雑談を求めてくる。


しかしその時鬼は、聞き捨てならないセリフを吐いた。


「へぇ、既に目星をつけている人間がいやがるのか」


目星!?こいつ、まさか人間食べるタイプ!?


「貴様にはやらんぞ」


恐らく人間を捕食するタイプと断定し、

自分のエサである事をアピールする。


というか鬼からすれば俺はどういう妖怪だと認定されてるわけ?

化けれるってことは…狐とかその辺?

この後顔見せる事がある時はちょっと目細めとこうかな。


そしてこのアホ鬼は多分人間に言っちゃいけない秘密を漏らしてくる。


「手柄を横取りにはせん、だが結局、大天狗様の贄になるのだ

 誰が獲った獲物だろうと変わらんだろう」


大天狗って何!?


つーか贄!?


てことは人間を食べるんじゃなくて、生贄にしてるの!?


てことは俺今、ギリギリ生きてるわけで…

バレたら、…贄にされるわけで?


やばい、これはヤバいぞ!

さっさと逃げよう!


「…風情を知らん奴め

 貴様もせいぜい…夜道に気をつける事だな」


そう言い放ち、俺は1歩踏み出す。


関わるのはよそう。さっさと逃げよう。


というか風情って便利だな!


その時、鬼が疑問を口にする。


「夜道…?」


え??俺変な事言った?

そこで引っかかります!?


そこで思い出す。


そういえば今って夜だし、夜だから鬼活動してましたね。


だから夜道に気を付けられる側が気を付けるって…

よくよく考えたらおかしな話なんですよね。


あはは…

やらかしたーーーーー!!!!


どうしよう!?これで人間ってバレたら…死ぬの俺!!?


「…ああ、退魔師の存在か、

 だがこの豪鬼様にかかれば、

 恐るるに足らん存在よ」


ギリギリバレなかったー!セーフ!


というか退魔師!!?


そんなのいるの!?この日本に!?


いや鬼がいるのもびっくりだけど!!!


とりあえず、油断するなよ的な返事しとこ…


「驕る平家は久しからず」

「…別に安寧や繁栄を求めちゃいないだろう」


なんで通じるんだよ!!!

何者だよお前!!!


え、てか退魔師いるって事態にびっくりしすぎて心臓痛い


どっかにいない!?

今助けてほしいんだけど!


思わずキョロキョロと辺りを見渡す。

どこかにいませんか!?退魔師の方~!?


「どうした?」

「さぁな、少し気配を感じた気がしただけだ」


きょろきょろとした俺に心配してくれる鬼。

あれ、案外仲間想いな良い奴なのかも。

人間を贄にしようとしてるけど。


とりあえず俺は元気なのでどっかに行ってくれ!

察しろ!あでも察したら俺贄になるから察しないで!!


「さっきから様子がおかしいぞ、どうした」


まずい、バレる!バレちまう!

慌てて頭を振って考える。

こうなったら…それっぽい話をして雰囲気作って帰る!


「…考えた事があるか?」

「何がだ」


出来る限り厳かな雰囲気を話し方に乗せて、空を見上げる。



「大天狗様が、よみがえった後の世界を」



空を見上げながら、ぽつり、とつぶやく。


あるよな、こうやって敵同士語り合って、

どっちか片方が後々主人公の仲間になる展開も。


…あと贄とか言ってたし、

蘇らせる対象でいいんだよな!?


いやこれで普通に生活してますけどって言われたら

俺生贄確定ジエンドなんだけど!


「…はは、そんな事か」


呆れた笑いを鬼は漏らす。


セーフっぽい!セーフっぽいよ!


「俺はんなのどうだっていい、人間殺して、

 殺して殺して殺しまくってくれたらそれでいい」


その言葉に違和感を感じる。

俺は違和感を捕まえ、それっぽく質問を投げかける。


「…相手は、人間だけだろうか」

「……俺等も喰われるかもってことか」


そう、感じた違和感は、

殺しまくる暴走妖怪だとすれば、

贄とか人間とか関係なしに

妖怪まで殺しに行くのではないかと考えたのだ。


まぁどうでもいいから帰らせてほしいんですがね!?


意味深気に月とか眺めてみよう、

うーん、確かに三日月。


そう思って見ていれば、

月明りに照らされた4階建てビルの上に

…動く何かが目に入った。


(…あれ?あそこのビルの屋上に人影あるくね?)


「だが俺達は結局、人の恨みから出た化け物だろうに

 人がいなくなれば、俺達も消える。

 喰われて消えるか、人が死んで俺等が後に消えるか。

 それだけの違いだろう」


なんか鬼がベラベラ喋っているが、

俺は今さっき見えたビルの屋上にいる人型が

気になって仕方が無かった。


(あ、動いた!)


しばらく見ていれば、その人型が

別の方角に飛んでいったのが見えた。


鳥だったかもしれないし忍者だったかもしれない。

もしかして…退魔師だったかもしれない。


というか、いつの間にか鬼の話終わってた。

そんな時は…。


「そうか。ふふ、まぁそうか」


笑ってごまかせ!

そしてなぜか俺と鬼は今!

客観的に見て!

腹のうちを明かしあった友みたいな状態になってると見た!


今、意味深な雰囲気で歩きだせば逃げれそう!


俺は動かしかけだった一歩を今一度踏み出す。


「もう行くのか」

「ああ」


よーっし!勝った!


俺は帰れる!急ぎ足にならない程度に、

気取られないように帰るとしよう…!


このまま曲がり角曲がって振り切れば俺の勝ちだ!


すると、後ろから鬼に声をふたたびかけられる。


「影に光を」


何それ!?


「…何?」


思わず聞き返しちゃった!


振り返って鬼の顔を見る。


気持ち鬼の顔が不信そうになっている気がする。


「…言え、下の句を」


これあれだ!合言葉的なやつだ!

あー!これやっばいぞ!


当然そんなもの知らない。

当てずっぽうに行っても1000%当たらないやつだ。


どうする!?逃げるか!?


「…影に光を」


またしても鬼が言ってくる。


あーもうここまでなんとかなったんだ!


もう適当言っちゃえ!


俺は思いつきで下の句を口にした。


「…悪に裁きを」

「…」


ど、どうだ?!


しかし、見ていた鬼の表情が、

みるみるうちに怒りの表情に変わっていく。


「だましたな…貴様!人間!」


だめだーーーー!!!!

やばい!やばい!


誰か!さっきの退魔師の方とか!

いや退魔師と確定したわけじゃないけど!

多分鳥かなんかだけども!


「怪しく思っていれば貴様…!」

「…」


怪しかったんだやっぱり!

ごめんって!でも俺も生き延びたかったの!


「なんとか言え…!」

「…くっくっく、はっはっは!」


俺は笑った。最後の手を使う他無かった。

こうなれば、必殺、笑って誤魔化せ作戦しかなかった!


「何が可笑しい!」

「風情の無い奴、だと笑ってやったのだ!」

「何!?」


おっとまだ話を聞いてもらえそうな雰囲気!

こうなったら隙を作って逃げる他ない!


「この我が、間違えると思ったか?からかってやったのだよ」


俺は言ってやった。そして、最後の手段を使う準備をした。

鬼を睨みつけながら、足に力を入れる。


「またしても戯言を!ならば言ってみろ!影に光を」


馬鹿で助かった。

俺が当てれるわけねーだろバーーーカ!!!


俺はそう考えながら言い放つ。


「頭上に注意を」


当然不正解。だがこのバカは

きっと引っかかるだろう。


「貴様…待て、頭上?」


頭上に注意が行った鬼は頭上を見上げた。


引っかかった!今しかない!


俺は力を入れた足をけり出す!

俺の作戦はこうだ!これで騙した鬼が上を見た瞬間に

俺は全速力で逃げる!


そう思ってた矢先、目の前の鬼が頭から真っ二つに斬られた。


「ギッ!?」

「えっ!?」


鬼が言葉にならない断末魔を挙げながら右と左に分かれる。

俺はその音にうっかり振り向いてしまい、

バランスを崩して倒れる。


「ぐあ!いってぇ…!」

ぶつけた腕を抑えながら、

俺は後ろで真っ二つになった原因を探る。


そこには、街灯に照らされながら、

1人の女性が刀を持って立っていた。


刀には鬼の血がまとわりついており、

それで真っ二つにしたのがわかる。


俺はその女性の顔を確認する。

髪型は…見覚えのあるポニーテール。

そして、顔を見てみれば…俺はその顔を知っていた。


「宝仙寺…先輩?」


ゆっくりと立ち上がりながら、その顔を眺める。


「…」


相も変わらずなクールな表情だったが…

俺はその先輩の足元に落ちている鬼の半身2つを眺めて

思わず安堵する。


「…た、助かった…」


見た目はグロテスクだが、命の危機を脱したのだ。

ほっと溜息をつけば、宝仙寺先輩が近づいて声をかけてくる。


「九十九様…さすがの手腕でした」

「は!?」


さ、さすが!?何が!?

というか…九十九…"様"!?


驚く俺を他所に、宝仙寺先輩が頷きながら説明してくれる。


「この鬼を巧みに騙し、目的まで聞き出すなんて…

 まさか、大天狗を復活させようと考えていたとは…」


えー!?俺なんかすごい事しちゃったんだ!?


というかどこから聞いてたんだこの人!?


聞いてたなら助けてよ!!


「この件について退魔師を代表し、御礼を申し上げます…」


え!?

宝仙寺先輩、退魔師だったの!?

この鬼が出るから、夜出歩くなって言ってたってこと!!?

 

先輩はまだまだ止まらない。


「またこの豪鬼は一連の妖怪事件の中でもきっての腕の持ち主…

 それに対し物怖じせずに立ち向かうなんて…」


めちゃくちゃ強いの!?

今、先輩の足元で真っ二つなんだけど!!


「貴方様が隙を生み出してくれたおかげで…

 仲間達の仇を討てました…なんとお礼を申し上げていいか」


仇!?


退魔師何人か倒してたんだこいつ!!


それであんな取るに足らんとか豪語してたんだ!!


「さらには、弱点である額の第三の目を向けてくださる周到さ…

 あの時目で訴えかけていただいたのはこの事だったのですね」


第三の目とかあったのかよ!!

しかも弱点かよ!!

てかビルの上にいたのはチラ見えしたけど

目合ったかどうかは知らないよ!!


「そして退魔師の歴史から見ても謎であった妖の誕生の秘密、

 そのヒントも掴む事ができました。よもや人の恨みが根幹であったとは…」


そんな事言ってたの!?

知らないんだけど!!?


多分俺がビルの上に気を取られていた時かなぁ、

鬼ごちゃごちゃなんか言ってたし…。


なんて考えていれば、

突然目の前の宝仙寺先輩が頭を下げだした!


「え、えと…宝仙寺…センパイ?」


思わずどもりながらも先輩に声をかける。


「…この宝仙寺、学園では貴方様に度重なる無礼をおかけしました

 それだけではございません…物怖じせず鬼と会話する貴方を見て…

 私は…貴方も妖の仲間かと…!」


まさかの宝仙寺先輩、俺の演技に引っかかる。


え、そんなに巧みに演技してた?

俺演劇部入った方がいい?


「まことに申し訳ございません…

 しかし恥を偲んでお願いがございます…!」


お願い、という言葉に俺の背筋が冷える。

もう勘弁してくれ…これ以上巻き込まないでください…!


「どうか…我々にお力添えを願えませんでしょうか…

 九十九様…いえ、九十九師匠!!」


手をぎゅっと握って懇願する宝仙寺先輩。

その表情からはクールさはどこへやら…

愛くるしいワンちゃんみたいに目を潤ませていた。


あの…違うんすよ…僕、嘘、ついてただけなんですよ…。


「…む、無論だ…この九十九吾郎…大天狗復活阻止のため…」


鬼にカッコつけてた時の俺が、またしても勝手に口を動かし始める。


待って俺の口!止まれ!今なら引き返せる!

だけど、俺の中の天秤は、宝仙寺先輩にカッコつけたい気持ちが勝ってしまった。


「精一杯、尽力させてもらう」


だって、しょうがないじゃん。

宝仙寺先輩に憧れてるんだもの、俺。


「そうおっしゃって下さると信じておりました…九十九師匠!」


そう言って俺にぎゅっ、とハグしてくる宝仙寺先輩。


人生初の女性からのハグ…。


なぜ、ハグされてもこんなにうれしくないのだろうか。


どうしてこんなにも…泣きたい気持ちになるんだろうか。


あーもう、こんな事なら…




宝仙寺先輩に出会わなければよかった…。


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