幕間①青薔薇との出会い

 目を、開ける。頭の中に俺という個体の情報が流れ込んでくる。

 情報を受け入れながら俺は口を開いた。


「俺は、黒薔薇。これから、よろしく」

「やあ、黒。久しぶり? それとも、初めましてかな?」

「お前、は……」


 俺の目の前に白くて青い人……いや、旅神がいた。そいつは笑みを浮かべて俺に久しぶりと言った。

 俺は今顕現した、生まれたばかりの旅神だ。久しぶりなんて言われるはずがない。

 だけど、前回の俺がこいつと会っていたなら久しぶりと言われる理由に納得できる。……俺は、何番目の黒薔薇なんだろうか。

 こいつは俺の片割れなんだろうな。似た気配を感じる。

 そんな事を思っていたら目の前の片割れが話しかけてきた。


「その様子だと、初めましての方が正しいね。僕は青薔薇、君の片割れ……兄弟だよ」

「悪い、前回の記憶を持っていなくて。お前を、覚えてなくて」

「いいんだよ。僕達は記憶を持ったまま復活出来ない。だから覚えていなくても仕方ないんだよ。それに、死ぬ瞬間の記憶なんて、ない方がいいだろう?」

「まーぁ……そうだな。顕現して最初に死の情報が流れてきたら混乱するし、何より怖い」

「――そうだね。君にとってそれは怖いだろうね、」


 今、一瞬だけど青薔薇の空気が揺らいだ? それに、なんだ、その意味ありげな言い方は。それにこいつ、さっきから笑みを絶やさないな……。通常なのか、癖なのか。

 それにしても……青薔薇か、薔薇……そして俺の片割れ。

 じっと青薔薇を見た目を観察する。左肩の布……いや、マントか? をかけて……ブックバッグをつけてる。服は洋装か。

 目は明るくもなく暗くもない色合いの青……横髪も同じ色合いか。あとはもう白い。

 俺とこいつは似てるんだろうか。同じ薔薇だし、片割れだから似てるよな?

 

「黒、そんなに見つめられると、恥ずかしいよ」


 じっと観察してたら青薔薇が困ったような仕草をした。

 恥ずかしい。恥ずかしい??? その、照れてる様子も見せてないのにか??? 

 声の高さや仕草は変えはしてるが、表情はずっと笑ってる。何を考えているのか読み取れない。道具じゃなくて、人形みたいだ。

 ……ある程度話せばわかるようになる……か? とりあえず、聞きたい事を聞こう。

 

「……なあ、お前の姿と俺の姿は似てるか? 片割れだし、同じ薔薇だ。お前から見て、俺はお前と似てるか?」

「いきなりだね。それに、僕に聞くんじゃなくて鏡でも見ればいいじゃないか。あと、似ているかの回答としては、似てはいるけど、対称的な姿だよ。色合いがね」

「……色合い?」


 気になるから鏡出すか。

 指を鳴らして鏡を召喚する。やりたい事を思い描いて指を鳴らせば思い通りになる。一部は思い通りには出来ないが。

 全身が映るぐらいの鏡が現れる。そこで初めて俺の姿を見た。

 黒くて、赤い。服は洋装、赤いマントが両肩にひっかかって黒い薔薇の留め具がついている。あ、マントはフード付きか。

 確かに、似ているが色合いが対称的な姿だ。


「君はいつも姿を確認したがるね」

「前回の俺も確認したのか」

「そうだよ。君は僕の姿を見てから自分の姿を見る。同じ薔薇だから、片割れだから似てるよな。と言っていたよ」

「考えることは同じか……」

「君だからね。さ、黒。話はこれぐらいにしよう。お仕事の時間だよ」


 そう言った青薔薇と俺の前に液晶が現れた。主からか。


『任務内容:――――――――』


 初任務はこれか。行く先の情報も送られてきた。あとで確認するか。


「分かった。すぐに向かう。青薔薇、またな」

「またね、黒」


 相変わらず表情を変えないな。手を振られたから振り返す。

 空間を裂いて時空の狭間が顔を出す。さーてと、初任務。気になる事はまだあるし、情報もまだ全部理解しきれてない。ま、それは追々やればいいし、今は任務に集中。顕現してからの初めての任務。楽しみつつ、完遂させよう。他の旅神や神に会ったら話したいな、青薔薇ともまた話すか。俺はまだ、あいつを知らないし。

 中に入って狭間が閉じる瞬間後ろからあいつの声がした。


「次は壊れないでね」

「――は? どういう…………」


 振り向いた時にはすでに狭間が閉じてしまっていた。

 最後に聞こえたあいつの声はさっきと同じ高さだった、けど、ほんの少し声が震えていた。それに、あいつの纏う空気も大きく揺らいでた。

 ……今度会ったら詳しく話を聞こう。俺はそう思って、任務先に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る