5.兵士寮に入って五ヶ月
兵士寮に向かうと門の前に居た二人の兵士が桐谷達に駆け寄った。二人の兵士はアイオライトに向かって敬礼をして口を開いた。
「隊長、お帰りなさい」
「今日は早いおかえりですね!」
「隣の子は誰です? 入隊者ですか?」
「ただいま。そうだな、彼はこの度新しく仲間になる――」
アイオライトは桐谷に目線を寄せる。桐谷はアイオライトから少し前に出て二人の兵士に目線を向け口を開いた。
「キリ・トラブラー」
「そうですか! よろしくトラブラーくん! 早速なんだけど、キミ……歳はいくつ?」
「確か……15」
「15!? 若いなぁ。俺はここの最年少で19なんだけど、キミとは歳が近いからよかったら仲良くしてしようね!」
片方の若い兵士が桐谷に話しかける。その表情は自分と歳の近い子が現れた! という嬉しそうな顔だった。
もう片方の兵士は桐谷の名を聞いて何か気になるのか、桐谷の名を繰り返し呟く。そしてまさか……と気づいたように口を開いた。
「隊長、その子……スージングのとこの子じゃ……」
「スージング? 先輩、それなんです?」
「あー……お前行ってなかったから知らないか。スージング、通称【花の楽園】。回復薬を作るのが得意な花だらけの村」
「へえー、花だらけ。行ってみたいなぁ」
「もう行けないぞ、あそこは壊滅して今じゃ焼野原。その村で唯一の生き残りがそのトラブラーって名前だったな。……そうですよね、隊長?」
先輩は桐谷のことに気づいたようで、後輩に説明をしてからアイオライトに聞いた。不安そうな表情を浮かべ、桐谷がスージングの生き残りだと否定してほしそうな顔だった。
「ああ、彼はスージングの唯一の生き残りだ」
「当たってほしくなかったなぁ……隊長、まだ数日しか経ってないのに彼を兵士に入隊させるのは、酷では?」
「うっわぁ……」
先輩は渋い顔をして片手を頭に置いてため息を吐きながら首を振った。後輩は話を聞いて驚いた様子で桐谷とアイオライトを交互に見る。アイオライトは二人の様子に「仕方ないだろう」と肩を竦めて、自分達は先に寮の中に入らせてもらうと言って桐谷の手を引いて寮に向かう。その後を後輩が追おうとしようとすると、アイオライトは振り返って鋭い目を後輩に向けた。
「君は業務に集中しろ。話を聞きたければ勤務終わりに聞きに来い」
「えーーっ! こんなすっごい気になる話なのに交代までお預けですかぁ!?」
「そうだ。ファイス、彼をよく見ておけ」
「はぁ、分かりました。隊長、あとでたっぷり話聞かせて貰います。俺も気になるんで。ヘルシー、仕事を続けるぞ」
「はぁーい。トラベラーくん、またあとでねー」
ファイスはヘルシーの襟首を掴んで門のとこまで連れて行く。連れて行かれるのに抵抗しないヘルシーはつまらなさそうな顔をしてから、桐谷に笑みを浮かべて手をひらひらと振った。手を振られた桐谷はヘルシーの無抵抗さに戸惑いながらも小さく手を振り返した。
「ヘルシー……さんは、元気だな。それになんだか兵士には見えない。――子供みたい」
「彼は比較的最近入隊してきたからな。兵士としての経験は薄いし、歳も若い。君が彼をそう見えても仕方ない……だが、君は彼より年下で後輩なんだから彼の言うことは聞くように」
「……あぁ」
思わず口から零れ出た言葉にアイオライトは反応する。そして彼から出された言葉に、この体は15だったなと思う。旅神の頃と今の人間状態での生きた年数の違いで桐谷は首の後ろを触りながら眉間に皺を寄せる。
人間状態に
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「はぁ……今日はここまででいいか」
訓練所で桐谷はふうと息を吐く。そして持っていた木刀を元あった場所に戻しにいく。
兵士になってから五ヶ月が経ち、桐谷はいつものように兵士寮の近くにある訓練所で体力をつけていた。
村にいた頃にも体力をつけていたが、今ではそれ以上に体力をつけるように努力をした。少しでも長く戦えるようにと。
実戦は仲間としかやれておらず、桐谷はそんな現状に早く家族を殺した魔物を殺したくて仕方なかった。だが新人の桐谷はいまだ街の外から出る事はなかった。新人は経験を積んでから外に。それが兵士達のルールだった。
ここ最近新人で街の外に出たのはヘルシーぐらいだった。入隊してから一年が経ったから一緒に外に行けることになった! と喜んでいた様子を思い浮かべ桐谷は訓練所から出る。
「ああキリくん。今日も訓練所にいたか」
「ファイスさん、おはようございます」
タオルで汗を拭いている桐谷の前にファイスが近づいてくる。朝から武装をしているファイスを見て、いつもと違うと桐谷は思った。
「朝から何かあったんですか」
「ヘルシー達の隊が帰って来なくて隊長から迎えに行けと言われて準備をしていたとこだ」
「……それならこちら側に用はないのでは? 出口はあちらだと思うんですが」
「あー、アンタと話しておかないと思ってな。それでこっちまで来た」
なんだか胸騒ぎがして……。とファイスは困り顔をして桐谷に言った。胸騒ぎ? と首を傾げる桐谷にファイスは「気にするな、アンタと会えてよかった」と言って手を振って出口に向かって行った。
ファイスが視線から消えた桐谷は近くの窓に近寄り外を見る。快晴の空が見え、何かが起こるような異常な景色は何一つとしてなかった。そして先程の発言を思い返す。
ヘルシー達の隊がここから出発したのは四日前。本来なら二日で帰ってくる予定だったが、いまだにここには帰ってきていない。それ自体はここでは珍しくもない。向こうでトラブルがあって帰還が遅れる。よくある事だった。
「なんでライトさんは迎えに行けと言ったんだ?」
別にそれほど珍しくもない事なのに。と桐谷はんー? と首を傾げてから、直接聞いたほうがいいと思い着替えと食事を軽く済ませてからアイオライトの元に向かった。
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