第70話

 ◆ ◇ ◆ グレン


 なんとか三日でコスナー領に辿り着いた。


 俺も愛馬も夜通し走って疲れ切っていたが、とにかく騎士団の宿舎へと朝辿り着いた。


「おい、誰か馬に餌と水をやってくれないか?」


「わかりました」


 俺はすぐに中に入り、副隊長を探した。


 すぐに俺が帰って来たことがわかった副隊長は

「とりあえず横になってください」と言ったが、また薬を持って帰らないといけないんだと言った。


「昨日連絡が来て急いで店主を問い詰めたら薬を処方してくれました。鳥が運べるのはとりあえず2日分でしたが今朝運ばせました」


「あっ……お前、偉い!鳥なら俺より1日早く着くな」


「はい、だけどまだ足りないだろうと言ってます。今薬を作ってもらっているのでとりあえず寝てください」


「……わかった……少しだけ横になる。薬ができたら声をかけてくれ。もし足りなければアルは死んでしまうからな」


 俺はほぼ三日間寝ていなかったので、とりあえず寝ることにした。腹は減っていたが食欲より睡眠が足りていなかった。


 外が暗くなった頃、目が覚めた。


「薬は出来たか?」


「あと少しかかるそうです」


「わかった」


 俺はとりあえず風呂に入り食事を済ませた。



 副隊長が俺のそばに来て、話してくれた。


「店主は自分が売った薬をまさか姉の孫に飲ませて殺そうとしていたなんて知らなかったそうです」


「やっぱり主犯は店主ではないのか……」


「誰に売ったのか聞き出したか?ジミーは?」


「ある程度は分かっていますが、売人全員の取り調べはまだ終わっていません」


「仕方がないな……俺は店主に会ってくる」


 店主は商会の薬品庫に帰されていた。

 そこでしか薬を作ることはできないらしい。店主と薬師の二人がそこにはいた。


 もちろん見張りの数人の騎士がずっと睨みを利かせて見守っていた。


「薬はあとどれくらいでできる?」


 俺の質問に小さな声で答えた。


「あと数時間お待ちください。………姉の孫は……どうなっていますか?」


 落ち窪んだ目からショックと疲れが窺えた。

 かなり精神的に落ち込んでいるようだった。


「俺が王都から出る時はなんとか生きながらえてる状態だった。致死量の薬を3歳の子供に飲ませるなんてあんたら絶対許さないからな」


「………まさか、子供に飲ませるなんて……大人が使えば、少し楽になって依存はしても死ぬわけでもないし、飲み過ぎさえしなければ麻薬と言っても大したことはない薬なんです」


「その大したことがない薬で自分の血の繋がった幼子を死なせようとしたんだろう?」


「………子供に飲ませる奴がいるなんて思いも寄らなかったんです」


「犯人はここの領主代理のところの屋敷の執事見習いのジミーだ。今捕まえて取り調べている。あんた達がラフェとアルを殺そうとしたのか?」


 店主は突然手が震え出して、手伝っていた薬の調合をやめた。


 そして俺をみて、首を横に振った。


「わたしは兄に負けまいと必死で頑張って来たんです。少しでも売り上げを上げたくて。人を殺そうなんて思ってもいません」


「欲を出してそんな薬をコソコソ売って、何が勝ちたいだ。ふざけんな、アルは意識がなくなって今もいつ死ぬかわからない状態なんだぞ。ラフェは殺人を犯したとか疑われて部屋に監禁されて出さしてもらえない。

 ずっと息子の生死を心配して泣き続けて飯も食えなくて……二人とも今も辛い思いをしてるんだ!」


 こいつは反省はしているようだが、自分がやらかしたことの現実から目を背けている。


「知らなかったんです、姉さんの孫だったなんて……」


 うわ言のように何度もこの言葉を繰り返し言い続けていた。



 ◇ ◆ ◇ アーバン



 兄が連行されたのを遠くから見ていた。そのあと周りの話を聞いてなんとなく今の状況は理解した。


 それから街はしばらく落ち着かず、いろんな噂が飛び交っていた。


 俺は兄に会うことも出来ずに噂だけを拾い集め、これからどうするか悩んでいた。休みもあと少し。


 兄が招き入れた商会が怪しい薬を売りたくさんの被害者が出ていること。


 そして………王都で子供がその怪しい薬を飲まされたらしい。それも死にかかっている。

 これは王都から派遣された騎士団の顔見知りから聞いた。


「アーバン、子供の母親が警備隊に捕えられているらしいぞ。名前はラフェという平民らしい」


「嘘だろう?ラフェ……アルが死にかけてる?」

 こいつはエドワードのことは知らない、別の部隊の奴だ。


 俺はもう兄のことなんてどうでも良くなった。兄があんな商会を招き入れたせいでアルが死にかかってる?ラフェが殺人犯の容疑で捕まった?


 そんな馬鹿なことがあるか!


 俺は急ぎ王都へと帰ることにした。












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