第69話 グレン
◆ ◇ ◆ グレン
「あの店主知らないうちに、自分の姉の子を苦しめて殺そうとしていたのか?それに、リオの奴も自分の子供が苦しんでいるのは誰のせいだと思ってるんだ!」
「うん?リオってだれだ?自分の子供って、ラフェの息子は亡くなったエドワードの子供だ。ラフェが浮気なんてするわけがないだろう?」
シエロが俺の言葉を聞いて驚いた顔をしていた。
ーーーあっ!シエロは知らなかったんだ。
思わず口を閉じたが
「グレン、どう言うことだ?」
と聞き出そうとした。
どうせいつかはわかることだ。
「………ラフェの旦那だったエドワードは記憶を失くして生きている。
名前はリオ・コスナー。
コスナー伯爵の娘婿としてコスナー領主代理を務めているんだ。
それも、アルに使われた毒薬である麻薬を売っていたサリナル商会を領地に出店許可を出したのはリオだ。そのサリナル商会が、アルを助ける薬を持っているかもしれないなんて……なんの因果だよ」
「サリナル商会は……母上の弟の叔父上が何カ国かに出店しているんだ。祖父のメルリス商会は母上の兄の伯父上が継いでいて、分店として新しく仕事を始めたと聞いている」
「シエロは税理士事務所をしているから商売のことは詳しいのか?」
「いや、母上が亡くなった時一応祖父に知らせたら『出て行った娘は他人だ』と言われたんだ。その時伯父上だけは母の死を悲しんでくれた。それからはまぁ一年に一回くらい挨拶程度の手紙をお互いしてるんだ」
「へえ、あんな大商会の孫娘なら、祖父はダメでも伯父が少しは手助けしてくれなかったのか?そうすればラフェの暮らしももっと楽だったはずだろう?」
「………すまない。それに関しては全て俺が悪い。妻はラフェに対して冷たく当たっていたらしい。俺は仕事を立ち上げて必死で働いていて家庭を顧みていなかった。
妻は妊娠していて不安定でその後は子育てと突然義妹の世話とでかなりのストレスで、ラフェに優しくすることはなかったらしい。
…………それも知ったのは最近なんだ」
「最近?」
「ラフェのことをアレックス家が知らせにきたことを紙に書いてテーブルに置かれていたんだ。
そのまま放置されていた……
普通なら俺に知らせるくらいするはずだ。問い詰めたら……ラフェに関しては……興味もなく苦しもうと関係ないと言われた。
『お貴族様に戻って幸せに暮らしてたんでしょう?また平民になったからって何が苦しくて大変なのよ?』
と言ってラフェに対して酷いことしか言わなかった。妻は……平民で……貴族の娘だったラフェをよく思っていなかったんだ、両親が亡くなった時まだ6歳だったのに……ラフェはずっと使用人達のいる生活に慣れていたから、平民として暮らすのは大変だったと思う。だけど妻がいるから大丈夫だと勝手に安心して任せていたんだ……」
「ラフェの過去は知らない……だけど俺が出会った時は……男達に乱暴されそうになっていた。それに、自分の食べるものもアルに食べさせて痩せこけていた」
「俺は唯一の家族だったのに……俺がラフェの薬を頼みに行く方がいいのは分かってる、だけど今サリナル商会へ急いで行けるのはお前しかいない。頼む、アルバードを助けてください」
シエロは泣きそうな顔をしていた。確かに俺しかいない。早馬で急げば間に合うのか?
とりあえず連絡用の鳥を飛ばした。
薬のことは向こうでなんとか探してもらえるかもしれない。
俺は返事が来るのを待つよりとにかく急いでコスナー領へ馬を飛ばすことにした。
「ラフェとアルを頼む。俺はとにかく急いで行ってくる。薬があるかはまた後で返事はするから、待っててくれ」
俺はもう一度コスナー領へ向かった。
愛馬に「また頼む、アルを助けたいんだ」と言うと、俺の顔に頬ずりして来た。
「よし、急ごう、アルの薬があることを祈るしかない」
◇ ◇ ◇ ラフェ
「ア、アルはま…だ……生き…てる?」
震える体を自分で抱きしめた。
「はい、ただ、予断を許さない状態です。今グレン様がコスナー領へ向かってくれています。あの薬を解毒できる薬があるかもしれないと、あなたのお兄様が仰って、それを取りに行っています」
「兄さんが?薬があるかもしれないと?何故兄さんがそんなことわかるの?」
お医者様に尋ねると、答えを知らないようで口篭った。
「そ、そ、れは……」
困った顔をしているお医者様。
「あなたのお兄様に聞いてみてください」
「ごめんなさい、ムキになってしまって。アルバードのことになると敏感になっていて……」
「それは仕方がないことです。今の状況を医者のわたしでもどうすることもできません。とりあえず出来る処置をするしかないのですから。とにかく完全に解毒できる薬があればいいのですが……それまでもってくれることを祈るしかありません」
何度も強くならないと、と思っているのに……すぐ弱くなる心。だけど、最後まで信じたい。アルバードが助かると。
グレン様にはとても負担だし大変だけど今は頼るしかない。いつもごめんなさい。
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