ルカレッリ医師による後書き
以上が、トマゾ修道士の日誌に残された最後の記述です。
彼の死については、あなたもお聞き及びのことと思います。発見された時、彼は聖バシリオ精神病棟の処置室にて、施術台の上に横になっていました。確かに彼の顔面は十字架によって貫かれていましたが、それは十字の頂点を覗き込んだ形ではありません。明らかに、身を横たえた彼の顔面に、『十字の基部を突き立てられていた』のです。
この死に方は実に不可解です。
凶器となった十字架の自重を加味しても、頭蓋骨を貫通させるには、かなりの力を要します。あの十字架は四角柱を交差させたものでしたから、基部は杭のように鋭利ではありません。余程の力で以って突き立てなければ、あの様にはならないでしょう。少なくとも、彼が自分でああすることは不可能だと断言できます。
不可解な点はそれだけではありません。彼が最期の瞬間まで書き続けていた日誌――あれはどのようにして記されたのでしょう? また、誰があれを遺体のもとへ運んだのでしょうか?
私は、彼の死の真相は、タダイ修道士と同様のものであったと信じています。自死、記録、第三者の関与を疑いようのない遺体――彼らの末路は偶然の一致というにはできすぎています。
タダイは使命感から、トマゾは疑心暗鬼によって、自らの命を絶ちました。
彼らを医学的に診断すれば、二人は重度の幻覚、妄想に憑りつかれていたと考えられます。この病棟で目にしてきた数々の不可思議な体験のストレスにより、彼らは統合失調症を患ってしまったのでしょう。
フラ・ペテロ、もしもあなたが患者の見舞いを続けるうえで、心身に何らかの異変や負担を感じた際は、躊躇うことなく私に相談してください。休息を取ることは決して悪ではなく、別の者に慰問の職務を替わってもらうことだってできるのです。あなたの命よりも大事なことは、何一つないのですから。
そして、もし。
もしもあなたが二人の修道士の死について、気が付いたことがあったなら――その時も、どうか私に知らせてください。私は彼らの死の真相を解き明かすことを諦めていません。
エラルド・ルカレッリ
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