7-3

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 これは、こんな記録は――いや、残しておかなければならない。悪魔が私に書かせた言葉はあまりに冒涜的で、人の目に触れさせるべきものではないが、これも重要な記録であると修道司祭はおっしゃった。

 あれは私の言葉ではなかった。私は……トビア・アデージを、殺し――違う。私は彼の自殺を予期していなかった。あれは不運な事故であったと、ルカレッリ医師も言っていた。


 私はシモーネ修道司祭によって悪魔の手から救われた。彼の証言では、あの時の私は羊皮紙に齧り付かんばかりに顔を近付け、一心不乱に文字を書き殴っていたという。彼は私の異常に気付き、聖水を振り掛けて私の心を連れ戻してくれた。


「気を落とす必要は無い。真の悪魔を前にして君はよく耐えた。君の強靭な精神、そして神を信じる心が悪魔を退けたのだよ」


 シモーネ修道司祭が掛けてくれた言葉に、私はほんの少し救われた気持ちになった。彼の言うことはきっと正しい。悪魔が本当に私の体を乗っ取っていたら、私はこのペンで文字を綴るのではなく、彼の首を刺し貫いていたかもしれないのだから。

 念のためだと、ルカレッリが精神安定剤を分けてくれた。ひとまずこれを飲んで、次の交代まで眠ることにする。



【 十一月一日 】


 試練の夜を超えて。事態は大きく快方に向かったようだ。私は未だに不安が拭えないが、シモーネ修道司祭も、ルカレッリ医師も、もう大丈夫だと安堵している。


 今朝、悪魔祓いが到着した。

 有難いことだけれど、早すぎる。その理由を問うと、彼はねっとりとした特徴的な話し方でこう答えた。


「たまたまそう遠くない街におりましてねぇ。緊急事態ということでしたので、そのまま私に仕事が回ってきたというわけです」


 フレド神父の自信に満ちた足取りは、それだけで私たちにいくらかの安心をもたらした。漆黒のカソックを翻し、肩で靡くケープはまるで悪魔の翼のよう。手には悪魔祓い用の道具一式が詰まった鞄を提げていた。


 フレド神父は私たちを処置室から追い出した。修道司祭は彼を悪魔と二人きりにしてしまうことを心配したが、あっさりと断られてしまった。


「一対一ならば私が死ぬことはまずありません。ですが、部屋に居合わせた第三者が悪魔に屈した場合、その人物によって私が縊り殺される可能性が出てきます。その点についてご考慮いただいた上でのお申し出ですか?」


 誰もそれに言い返せなかったので、私たちは処置室の前の廊下に椅子を並べ、無力さを噛み締めることとなった。

 そんな訳で、現在扉一枚隔てた向こう側で、フレド神父による悪魔祓いの儀が行われている最中だ。

 儀式がどれほどの時間を要するものなのかは、その悪魔の強さにもよるという。今暫くは時間があるだろうから、もう少しフレド神父について書いておく。



 彼は私が初めて目にする悪魔祓いであるが、予想以上に若かったので驚いた。悪魔祓いには神学に精通しており、かつ教皇聖下に正式に認められなければならないと聞いたことがある。彼はさぞかし優秀な人間なのだろう。

 しかし、正直なところ、私は彼にいい印象を持てなかった。その眼差しは見るものすべてを蔑んでおり、彼の物言いはことごとく鼻につく(その頻度はルカレッリ以上だ)。また、彼の方でも、私に何か気に食わないところがあったらしい。


 フレド神父が私を奇妙な目で見ていることには気が付いていた。はじめは一介の修道士である私の同席に疑問を抱いているのだと思っていたが、それがまったく違う理由――それも、私の方には心当たりが無いから、おそらく彼の個人的な理由だろう――による眼差しだったのだと思い知らされた。


 処置室の扉を閉める直前、神父は私に聖別された十字架を差し出して言ったのだ。


「ところで、フラ・トマゾ――あなた、これ触れます?」


 なんという侮辱だろう。暗に私を悪しきものだと言っているようなものではないか。

 それが一晩悪魔と共に過ごした影響を見るためのものだと言うのなら、私とて侮辱とは取らなかった。だが、彼がその質問を投げたのは私だけである。ルカレッリには目もくれなかった!

 この上なく腹が立ったので、私は彼の手から十字架を引っ手繰り、忠誠の印に口付けて突き返してやった。彼は素っ気なく鼻を鳴らしただけで、冗談だと詫びることも、理由を述べることもしなかった。


 結局、彼のあの行為に侮辱以外の意図があったのかどうかもわからぬままだ。そのことについてシモーネ修道司祭に愚痴をこぼすと、彼は穏やかな笑みで私を嗜められた。


「あれくらいの図太さを持たなければ、悪魔とは対峙できないのかもしれん。人としての好き嫌いは脇に置いておきなさい。ただ相手の仕事ぶりに最大の敬意を示せばいい」


 その言葉は正しい。

 私たちにヴィジリオを救うことはできなかった。フレド神父がどのような人間であっても構わないから、ただ彼を救ってくれることを祈る。

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